あり得ないを積み上げた、世界最小最軽量の完全ワイヤレス「GRAIN」
増え続ける完全ワイヤレスイヤホン。リーズナブルな価格で手に入る機種も増えてきたけれど、あんまり代りばえしなくてつまらない。そんなふうに考えている人に注目してもらいたいのが、世界最小の完全ワイヤレスイヤホン「GRAIN」だ。
日本じゃないとできない技術を満載
現在、GREEN FUNDINGでクラウドファンディング募集中。GRAINは英語で「粒」という意味。文字通り小さくて軽い筐体が特徴だが、「ただ小さいだけ?」なんて侮ってはいけない。世界初にこだわり、日本でしかできない技術を盛り込んで奇跡的に実現した製品なのである。
プロジェクトはBATTLES DESIGNと岡田製作所によって開始。その設計を担当した岡田さんは「GRAINはもしかすると幻の商品になるかもしれません。今回はたまたま色々な人達のご厚意と心意気で実現に至りましたが、これが昨今の商売スキームで何度も通用するとは思えません」と話す。
きっかけはたまたま参加した飲み会だった。岡田さんはもともとフリーの立場で、デジタル製品の開発請負をしていたが、そこで部品の製造で付き合いのあるベテランの職人さんたちと会話する機会があった。そこで聞いたのが「俺たちも5年後はいないぞ。何かをやるならいまだ」という言葉だ。
町工場が支える日本のモノづくりには転機が訪れている。後継者不足などもあり、培われた技術も消えてしまいつつある。一方で、日本の大企業はモノづくりの冒険がしにくい状況が続いている。アイデアを形にしたい。これは技術者の夢だ。しかし、世の中はそんなに甘くない。そんな中、日本だからできる、最高の技術を世に送り出そうとしたのが、GRAINのプロジェクトだ。
汎用品を組み合わせて手軽に製品を作る。そんな安易さとは逆方向を目指したプロジェクトだ。こんな話を聞けば、ぜひ応援したいと思って当たり前ではないだろうか?
GRAINの試作機を見せていただきながら、岡田製作所のお話を聞いた。
部品から新規開発し、圧倒的な小型化を実現した「GRAIN」
サイズは直径10mmで長さは18.5mm。重量はペアで2.6g。
見た目は薬のカプセルのよう。ドライバーを先端部に置き、そこをおおうように透明なイヤーチップを置いている。全体をマッシュルームのような形状にすることで、どの角度でもイヤチップが耳穴にフィットし、密閉感を保持できる構造になっているという。ホワイトの筐体にガラスレベルの透明さの「クリアシリコンイヤピース」を開発して採用している点もこだわりだ。
本体にはボタンがなく、極限までシンプルに。ケースから取り出すと自動的にペアリングが始まる仕組みだ。Bluetooth用のSoCには、クアルコムの「QC3026」を採用しているので、対応スマホとの間で、接続の安定性を確保できるTrue Wireless Stereo PlusやaptXコーデックにも対応できる。
水没は不可だが、IPX4相当の耐水性能を持つ。本体のみで3時間の駆動に対応。充電ケースとの併用で、約7.5時間の使用が可能だ。充電ケースのサイズは幅75.5×奥行き19.0×高さ19.0mmで、重量は約20g。
GREEN FUNIDNGでの価格は2万7200円(スタンダードプラン、単体)だが、早期支援者に向けた最大30%の割引も用意されている(Super Early Bird、ペアセット)。
世界最小の達成に必要だった、意外な壁とは?
── 世界最小とのことですが、なぜ作ろうと思ったのでしょうか?
岡田 ほかがやってないことをやりたかった。これに尽きますね。市場には、完全ワイヤレスイヤホンがあふれています。Amazonなどで実際に購入し、数十台を分解し、いろいろ調べてみたのですが、「たいていのことはやられている」と感じました。ならば、「世界最小・最軽量だろう」という形で始めました。市場にはすでに何百種類もの完全ワイヤレスイヤホンがあります。いまプロジェクトを立ち上げるなら、その中で目立たなければならない。誰もやっていないことにチャレンジするしかないですよね。
「ちゃんと動くよというのを見せておきたいですね」と岡田さん。
── 一番の苦労と言えば、何でしょうか?
岡田 この電池です。LR41というボタン電池と同じサイズなのですが、ヒアラブルデバイスに使え、充電にも対応した汎用品なんて、市場にまったくありません。ただし、こういった電池を、医療機器用に製造しているメーカーは国内にもあります。しかし、部品自体が高価ですし、最低ロットを発注するにしても膨大な数になってしまいます。ちょっと行けば、何個か売ってもらえるようなものではないのです。
── 門前払いをされてしまったのですね。
岡田 そもそも、供給先は医療メーカーが最優先です。無理を承知で、何度もお願いして、ようやく譲ってもらえることになりました。「少しなら分けていいよ」と。それでもわれわれのプロジェクトを実現するには十分なのです。
── GRAINは小型がウリの製品なので、アンテナ開発などに苦労したのかなぁと想像していました。電池がネックになるとは意外でしたが、言われればその通りです。
岡田 アンテナなどは頑張れば作れますが、電池は手に入らなければそれで終わりです。これが入手できる算段がついて初めて、プロジェクトを始められるめどが立ったと言えます。
なければ……作るしかないよね?
── ドライバーの直径は4mmとのことですが。小さくても一般的には6mm程度までではないでしょうか?
岡田 実は、直径4mmのドライバーサイズは、この電池に合わせて決めました。これも半年通って、ようやく作ってもらえることになったのです。バランスドアーマチュアー(BA)型のドライバーで小さくする案も検討してみたのですが、BA型は縦に長いので収まらないのですね。で、「どうしよう……作る?」みたいな話になって、部品から作るというバカなことをやることにしました。
── モックアップを最初に見た感想は「小さいのか、ふ~ん」といった程度の感想しかありませんでした。本当にごめんなさい。これ(試作のスケルトンモデル)を見て、その苦労がやっと分かりました。
「いいよ」と言うまであきらめないんだろう?
岡田 Bluetoooth用のSoCにクアルコムの「QCC3026」を採用したのは、一番小さな石だからです。Bluetooth通信機能だけでなく、アンプやバッテリー制御まで含めた全てが入っていますし、5社ほど先行して販売されているモデルがあり、実績の面でも問題ないだろうと。
置く場所がないので、配線はぜんぶフレキケーブルにして、筐体の内側に巻くことにしました。8本ぐらいの線が通っていて、部品は全部これにつながっています。電池は入手できたけれど、当然、このサイズに合った、充電端子もありません。なかったら作るしかない……ですよね?
筐体に入らなければ、ドライバーから作る。端子がなければまた作る。リード線をつなげないなら考える。そのたびに、普通はしないようなお願いをして怒られる。この繰り返しですね。
「小さいと充電ケースからイヤホンが取り出しにくくなるので、開閉に合わせて持ち上がる機構を入れたのですが、簡単なようでかなり複雑な設計が必要になり、大変苦労しています」
── 実にクラウドファンディングらしいですね。
岡田 こんなことを続けていたら、部品メーカーを訪問するたびに「またアイツが来たぞ!」と言われるようになってしまいました(苦笑)。でも、どうせやるならバカなことしたいですよね? そして現場の人も「そこまで言うなら、やれば」と失笑しながらも協力してくれるようになったのです。
── 熱意が通じたんですかね。
岡田 う~ん。というよりも、あきらめられた感じですかね。どうせお前は「いいよ」って言うまで来るだろうからって。
いまいちイケけてなかった零号機
でもこれがなければGRAINはできなかった
── ここまでたどり着くまでにどのぐらいの時間がかかりましたか?
岡田 開発を始めたのは1年半ほど前です。最初はここまで小さくなくて、こちらが零号機となります。見れば分かると思うのですが、イケてないですよね(笑)。しかし、どうせやるなら、アップルの「AirPods」と喧嘩する気でやらないとダメ。勝てないまでもイーブンのできじゃないとダメだと思うんです。そこで零号機はあきらめることにしました。ただ、これはこれでまったくのムダにはならなかったんですね。
── というと?
岡田 われわれに完全ワイヤレスイヤホンを設計できる実力があることが示せます。先ほどの電池についても最初は袖にされていたのですが、この零号機を見せ、デザイナーが徹夜して作ったコンセプト図と一緒に「本当にやりたいのはこっちなんだ」と説明しました。そのうえで「これが実現できるかどうかは、あなたにかかっている」と説得し、少数ではありますが、サンプルを分けてくれることになりました。その部品を使ってまた試作機を作る。……こういう既成事実の積み重ねで、進んできたプロジェクトなのです。
── 下町ロケットのような世界って本当にあるんだなと思いました。そもそも岡田さんってどんな経歴の人ですか?
岡田 ふだんはウェアラブル製品や家電の企画開発をしています。詳細は言えないのですが、大手メーカーに勤めた後に独立して、これまでガジェット系の製品を多く開発してきました。イヤホンの開発経験もあります。
── 現在プロジェクトを進めているのは?
岡田 メインメンバーは私と、デザイナーの2名です。試作機が完成して、いよいよ世の中に出せるタイミングになったとき、会社が必要だなという話が出て、私が代表になることになりました。ただし、コンセプトを実現するためには、部品を作ってくれる人の協力がないといけません。先ほどから話しているような部品を作れる技術を持った人は本当に限られています。7~8社の手を借りていますが、部品ごとにサプライヤーも全部違うんです。
寝ながら使える超小型イヤホンも実現したい
── GRAINの音を聴いてみてこの小ささでも、十分にいい音が出ていると思いました。有線モデルを出しても売れるのでは?
岡田 みんなに言われます。このサイズなら“寝ホン”(寝ながら使えるイヤホン)としていいんじゃないかという話もあり、デザイナーと検討中です。イヤピ(イヤーチップ)を取り替えたら、密閉型にも開放型にもなるものを考えています。直径4mmのドライバーのできが大変いいので、GRAINの一般販売に成功した暁には、他社の製品でも採用してもらえるよう、うちからも発信してお客様探しのお手伝いをしていきたいですね。
── シンプルなホワイトの筐体ですが、ぎっしりと詰まった中の部品を見せたスケルトンモデルなども出してほしいですね。
岡田 プロジェクトが成立したら、筐体を透明にしたプレミアムモデルを作れたらいいなと考えています。アクリルの削り出しで、ガラスと同じ透明度を持ったものにします。全て手作業で磨くのが大変なので、ケースだけで20万円以上は軽くかかってしまいます。あくまでも「実績が出せたら」という話にはなりますが、限定でもやれればいいですね。
── お話を聞いて、大手企業ではできないことをやる。日本人ならではのモノづくりをする、そんな印象も持ちました。
岡田 私はもともと個人で企画開発請負をやっていたのですが、市場には横並びの製品しかなく、大手企業でも“売れると確証のある企画”しか通りません。「こんな状況は面白くないな」と常々感じていたのです。その一方、これまで日本のモノづくりを支えてきた人たちも年を取ってきている。みんな、僕らから見ても親の世代で、町工場で後継者もいなかったりするのです。そんなある日、付き合いのある人たちとの飲み会で「俺たちも5年後はいないぞ。何かをやるならいまだ」という話が出ました。「最初で最後の機会になるなら、いまやるしかない」と。そんなふうに考えたのがきっかけですね。
── さらに隠し玉があったりして?
岡田 秋のCEATECでは面白いものが見せられると思います。また、ここにコイルがありますが、見る人が見れば何に使うか分かると思います。ワイヤレス充電で完全防水の製品も出したいなと考えています。一発屋で終わる気はありません。
一生懸命、真面目にものづくりをしても報われないこの時代、特にハードウェアで突き抜けた商品を具現化するなんて通常ありえません、GRAINの商品化は運が良かったとしか言えません。コスト競争が激しく、メーカーは利益を出しにくくなっています。これからは売り方も新たな考え方をしていかないと生き残れませんから。
★
GRAINのGREEN FUNDINGでの募集期間は8月30日まで。最も安価なSuper Early Birdの締め切りは終わっているほどの人気だが、24%オフのEarly Birdでも2万800円と1000円程度の高い程度で買える。なお、2台ペアのセットであれば、まだSuper Early Birdのプランが受付中で、3万8000円(30%オフ)になる。1台当たり1万9000円となるため、友達と一緒に買うというのも検討してみてはどうだろうか?
