ビジネスマンが「スーツ離れ」で紳士服チェーンの苦戦続く

ビジネスマンが「スーツ離れ」で紳士服チェーンの苦戦続く

 お堅いイメージのある金融業界で三井住友銀行が本店行員の「Tシャツ、ジーパン勤務」を認める(夏限定)など、ビジネスマンの“スーツ離れ”が広がっている。そうした影響を受けて業績が悪化しているのが、大手紳士服チェーンだ。ファッションジャーナリストの南充浩氏がスーツ業界の厳しい現状をレポートする。

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 青山商事、AOKI、はるやま、コナカの大手紳士服チェーン店4社が軒並み苦戦している。5月半ばに出そろった4社の決算数字(2019年3月期。コナカは2018年10月~2019年3月期)は以下の通りだ。

●青山商事/売上高2503億円(対前期比1.8%減)、営業利益146億2900万円(同29.0%減)、経常利益156億1100万円(同26.7%減)、純利益57億2300万円(同50.1%減)

●AOKI/売上高1939億1800万円(同2.3%減)、営業利益133億8200万円(同10.0%減)、経常利益118億9000万円(同15.1%減)、純利益46億200万円(同37.6%減)

●はるやま/売上高555億5400万円(同2・7%減)、営業利益18億2900万円(同24・0%減)、経常利益21億5100万円(同21.5%減)

●コナカ/売上高651億4500万円(同4.4%減)、営業利益9億100万円(同48.0%減)、経常利益13億6800万円(同44.1%減)

 4社揃っての減収減益で、減収幅はまだ小さいものの大幅減益である。特に本業の儲けを表す「営業利益」が4社ともに大幅に減っていることからも、厳しい状況がうかがえる。

 大手4社が苦戦に転じた理由は、ビジネスマンの“スーツ離れ”が大きいと考えられる。クールビズの普及によって職場のカジュアル化が進み、それに触発されて通年でもカジュアル化に流れている。

 よほどの堅い職種や冠婚葬祭くらいでないと必ずしもスーツでなくても済むようになっている。テイラードジャケットとそれに合うパンツ(業界用語ではジャケスラ、ジャケパンと呼ぶ)を着ていれば仕事上でも無礼とは見なされない。こうなればスーツが売れるはずもない。

 スーツの着用人口そのものが減っていることは間違いない。もっとも人口の多い団塊の世代(現在は70歳前後)は、定年退職の年齢延長が増えているとはいえ、リタイアしている人は多い。リタイア後はスーツの着用機会が減り、カジュアルやホームウェアを着ているだろうから、彼らに買い替え需要や買い足し需要は期待できない。

 もちろん、2007年ごろにはすでに団塊世代の定年退職が視野に入ってきていたから、大手4社各社はそれなりの対策を立てていた。レディーススーツの強化、カジュアルウェアの強化、異業種への進出──などである。これによってメンズスーツの落ち込みを今までカバーできていたといえる。

 中でも大きかったのは、レディーススーツの強化だろう。現在、大手4社の店や別業態(青山のスーツカンパニーやAOKIのオリヒカ、はるやまのパーフェクトスーツファクトリーなど)を見ると、レディーススーツが売り場の3~4割を占めている。例えば大学生の就活を見ていると、女性はほとんどが大手4社のうちのどこかの商品と思われるリクルートスーツを着用している。

 しかし、レディーススーツは男性よりも需要が少なく、ある程度行き渡ってしまえば、さらなる販売促進の強化は難しいだろう。

 そして、直近で明らかになったのは、「カジュアルウェア」の苦戦である。コナカ以外の3社が展開するカジュアル業態はいずれも業績が芳しくなく政策としては成功しているとは言い難い。

 青山商事は、今年2月にカジュアル業態「キャラジャ」を廃止した。ユニクロの人気が出始めていた1994年当時に開始され、一時期は低価格カジュアル店として店舗数を増やしていたが、近年は店舗数を減らし続けており、直近では4店舗にまで縮小していた。こうなるとスケールメリットも望めないから廃止は仕方ない。

 また、2012年に鳴り物入りでデビューしたアメリカンカジュアルブランド「アメリカンイーグルアウトフィッターズ(以下、アメリカンイーグル)」は、この度、譲渡することが決定した。これで青山のカジュアル業態は「リーバイスストア」のフランチャイズ店(10店)以外はすべて消滅する。

 AOKIのカジュアル業態も失敗に終わっている。2007年にカジュアルチェーン店「マルフル」を買収したが、業績が伸び悩んだことから自社に吸収。だが、その部署も解散に追い込まれ、マルフルは消滅した。

 はるやまは、経営が傾いたカジュアルブランドの買収を積極的に行っていた。トランスコンチネンツ、イーブス、テット・オム、ストララッジョなどである。しかし、業績が低迷したことから今年2月にはイーブスとテット・オムの売却を発表。また、かつて一世を風靡したトランスコンチネンツだが、はるやま買収後は鳴かず飛ばずの状態が続いているので、個人的にはこれも早晩無くなってしまうのではないかと見ている。

 次に、異業種の参入はどうか。AOKIはカラオケボックスや結婚式場運営、青山商事は印刷事業や焼き肉店経営、カード事業などがあるが、いずれもメインの紳士服販売を越えるほどの規模ではないし、それぞれのジャンルにはすでに先行している大手各社が存在するため、売上高の拡大はそう容易ではない。

 こうした数々の苦境を打開すべく、各社とも本業(メンズスーツ販売)の立て直しを急ぎたいところだが、実現するには厳しい状況となっている。

 その理由は、先に挙げたようにスーツ着用人口の減少があることに加え、10年ほど前から大手チェーン以外でも、3万~5万円の低価格オーダースーツが増加していることも要因のひとつだ。

 オーダースーツでは、例えばザ・スーパースーツストアを開発したオンリーは2000年代半ばに3万8000円ほどのオーダースーツの販売を開始している。また、以前はそれなりの規模のチェーン店だったが債務超過によって買収されたエフワンも3万円前後の低価格パターンオーダー専門店になっているし、関西ローカルでは「つきむら」という低価格オーダー店もある。

 さらに、2000年頃からメンズファッション誌で採りあげられてきた麻布テーラーも4万円程度でパターンオーダーが可能。2000年代後半から立ち上がったグローバルスタイルも2着4万8000円でオーダースーツができる。

 もちろん、大手4社もこの流れには対応しており、青山は「ユニバーサルランゲージ・メジャーズ」、AOKIは「アオキ トーキョー」、コナカは「ディファレンス」、はるやまは「イージーセレクト」などのオーダースーツがあるが、これまでの既製スーツのように資本力の差で押し切ることは難しい。

 消費者からすればオーダースーツの価格メリットや品質の違いも分かりにくい。大手アパレルのオンワード樫山も「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」を開始して販売数量を急速に拡大している中、今後は単なる低価格パターンオーダーというだけでは勝てない状況となっていくだろう。

 もっとも、低価格の既製スーツにも次々と強敵が参入してきている。イオンやイトーヨーカドー、西友などの大手スーパーマーケットが7000円~1万円程度のスーツを導入して久しいが、カジュアル化の流れから、カジュアルブランドやスポーツブランドも既製スーツに進出してきている。ミズノやデサントといったスポーツウェアアパレルがスポーツ用の機能性素材を使ったスーツを発売しているのだ。

 低価格カジュアルスーツの代表といえば、ジーユーとユニクロの勢いは無視できない。ジーユーはカジュアル用途のストレッチ素材を使ったスーツ(セットアップ=上下別々にも着用できる)を定価7000円ほどで発売している。また、ユニクロの感動ジャケットと感動ジャケットのセットアップも定価で1万円強である。

 これらの利点はカジュアルアイテムとしての作り方なので、普段着にもできる点である。大手紳士服4社にもカジュアルっぽいセットアップはあるが、主力はビジネススーツであり、これをカジュアルに着こなすのは難しい。前述したようにオフィスのカジュアル化が広がっているご時世を考えると、カジュアルにも使いやすいジーユーやユニクロ、スポーツアパレルのセットアップのほうに注目がいくのも頷ける。

 このように生活スタイル、消費環境、業界環境、社会構造が大きく変化する中、大手紳士服4社がこれまでのように圧倒的にシェアを取り続けることは考えにくい。もう10年以上前から分かっていてそれなりに手を打ってきてはいたが、ここにきてスーツ業界は生き残りをかけたさらなる変革が求められている。

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