3Dテレビ時代の終焉。'17年テレビから3D対応機種が無くなった理由。3Dテレビは終わるが、映像技術は進化する

3Dテレビ時代の終焉。'17年テレビから3D対応機種が無くなった理由

 パナソニック、シャープ、LG、東芝、ソニーなど、2017年夏商戦向けのテレビが各社から出そろった。シャープを除く4社からは有機ELテレビが登場し、画質や音質、機能が充実したプレミアム4Kテレビに力を入れているが、一方でほぼ消滅した機能もある。その代表例が「3D」だ。

 上記5社の現行テレビラインナップを見ると、パナソニック、東芝、LGにはすでに3D対応製品はなく、ソニーは液晶フラッグシップの「BRAVIA Z9Dシリーズ」のみ。シャープは「LC-55XD45」、「LC-80XU30」、「LC-70XG35」、「LC-60XD35D」の4製品が3D対応となる。

 もっともソニーとシャープの3D対応テレビは、いずれも2016年発売モデルが継続してラインナップに残されているというもの。2017年発売の新製品に限定すると、3D対応テレビはゼロだ。

 日本における3Dテレビは、2010年2月発売の「VIERA VT2」を皮切りに、各社テレビの上位モデルが順次3Dに対応した。映画「アバター」(2009年12月公開)の大ヒットもあり、「これからは3D」という機運が高まったものの、その後は大きな話題を呼ぶこともなく、やや失速した感は否めない。

 GfK Japanの市場調査データを見てみると、2010年に立ち上がった3Dテレビは、2012年の構成比17%がピークで、その後は減少傾向となっている。201年は11%、2016年は7%と急速に減少している。

 そして2017年。3Dテレビの新製品は無くなり、日本市場における3Dテレビは、終わりの時を迎えている。この傾向は海外も同様だ。

 テレビメーカー各社に聞いてみると、3Dテレビには「一定のニーズはあった」という。特に20万円以上の4Kテレビなど、高付加価値な製品を求める人には、“それなり”に支持されているという声は多かった。

 ではなぜ、3Dテレビがなくなってしまうのか? それは、求める人が“それなり”レベルにとどまったから。つまり、自宅で3Dメガネをかけて映画を見る、という体験が、広く一般には浸透しなかったということ。そして、映像技術のトレンドから見ても、3D対応が(メーカーにとって)合理的な判断といいづらくなってきた、という側面もある。

3Dが伸びなかったのは技術的な要因も。3D時代から4K/HDRに

 技術面から3Dテレビを考えると、テレビ用の3D方式には、アクティブシャッター3Dメガネを利用し、左右の目用にあわせて用意した映像を交互に表示するフレームシーケンシャル方式と、パッシブ型の安価な3Dメガネを用いる偏光方式が共存していた。当初は、パナソニックやサムスンが前者を、LGが後者を推進していた。

 前者は、120Hz(倍速駆動)の液晶テレビ(プラズマや有機ELでもいいが)と、液晶シャッターを備えた3Dメガネを組み合わせることで、明るく高解像度の3D映像が楽しめるということで注目された。ただし、組み合わせるアクティブシャッター3Dメガネが、1万円前後と高価だったため、“3Dが必要な人”以外にはいきわたらなかった。3Dで付加価値を訴求できていた2010~11年頃には、テレビを買えば3Dメガネが付属する例が多かったが、その後は別売となったこともあり、実際の利用者は増えなかったようだ。

 そうした事情から、2012年~13年頃からは偏光方式の3Dを採用するメーカーも増えた。同方式では、テレビ側の表示面に3D用の偏光フィルターを重ねる必要があるものの、3Dグラスは1,000円程度の安価なものが使えるため、「3Dメガネのコスト問題」は大幅に軽減される。

 ただ、2016年になるとこの偏光3D方式も外す例が増えてきた。

 その理由の一つが「4K」だ。偏光式3Dではパネル表面に偏光フィルターを貼るが、これによりパネルの光の透過率が落ちてしまう。若干ではあるが、明るさや色といった画質への影響は否めないのだ。加えて、フルHDから4Kへ高精細化したことで、偏光フィルターと液晶パネル等への貼り合わせに、より高い精度が求められることから、パネルの生産効率やコスト面から避けられるようになってきたという。昨年('16年)に、テレビメーカーに3Dを外した理由を尋ねると、「(3Dは)パネルの選択肢が少ない」という答えがよく聞かれた。つまり、パネルメーカー側が3D対応を外すようになっており、部品(パネル)の供給という点でも、3Dの退潮が明らかになってきていた。

 加えて、映像・高画質技術のトレンドが「HDR」(ハイダイナミックレンジ)に向かったことも一因だろう。これまでのSDRでは、ディスプレイ輝度は100nitと想定されていたが、HDRでは最大で10,000nitまでの信号を扱えるようになった(現在のコンテンツは最大1,000nit程度)。そのため、従来よりも輝度・明るさの表現力が重視されるようになったのだ。

 HDRで求められる“明るさ”を考えると、光の透過率が落ちる3D用フィルター類は、阻害要因になる。加えて、HDRでは明るさだけでなく、“色”のダイナミックレンジも拡大しているが、そのためには光を“そのまま”取り出したい。

 2016年以降の4Kテレビの高画質化トレンドは、「4K」と「HDR」。その点を追求していくと、3D表示のためのフィルター等を外したほうが、都合がよいのだ。その判断の背景には、市場のニーズが、3D機能より、4KやHDRの高画質にあるということだ。

3D作品は結構充実。3Dテレビは終わるが、映像技術は進化する

 コンテンツ、特に映画の観点から見ると、映画館ではいまも相当数の作品が3Dで上映されている。6月9日時点でも、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス」、「ワイルド・スピード ICE BREAK」、「美女と野獣」などの大作が3D上映されており、3Dは人気はある程度定着したものとなっている。

 映画の3D製作が継続的に供給されるため、Blu-ray 3Dの作品数もかなり多い。DEGのBlu-ray 3Dページを見ると、2017年だけで15本の新作が発売されている。いま3Dテレビを所有していて、Blu-ray 3Dを家でじっくり見たい、という人にとっては、定期的に3D新作を楽しむ環境が整っているといえるだろう。

 ただ最近のBlu-ray 3Dは、販路が限定されていたり、Ultra HD Blu-ray(4K)と3Dの2K BD、2K BDの全部入りパッケージの一つの要素的な扱いになっているものも多い。今は新作発売があるものの、テレビの出荷がこれからさらに減ると、これまでのように新作が続々と供給されるかは、不安が残るところだ。

 3Dが目指した、映像における奥行き感や臨場感の向上という意味では、テレビにおいては、4K/HDRによる、解像度、色、コントラストのダイナミックレンジの拡張が代替する、という方向に軸が移った。そして、コンテンツ制作の面では、VRのような平面のスクリーンを拡張する方向で模索が続いており、テレビや映画にとどまらない広がりを見せている。そうした中で3Dは、立ち位置がやや微妙になってきたといえるのかもしれない。

 とはいえ、プロジェクタにおいては、エプソンのように3Dに力を入れているメーカーもあり、Blu-ray 3Dも継続的に発売されている。3Dテレビの時代は終わりつつあるが、映像技術の進歩は続いている。

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