ホルムズ海峡攻撃で挙がった「真犯人」の名前 「オバマを超えた」と言いたいトランプの意地

ホルムズ海峡攻撃で挙がった「真犯人」の名前 「オバマを超えた」と言いたいトランプの意地

 背後で誰が動いているのか――。

 2019年6月13日、イランを訪問中の安倍晋三首相は、最高指導者ハメネイ師と会談。安倍首相は緊張するアメリカとイランの関係改善の“仲介者”を自負していたが、ハメネイ師からはイランの従来の主張を超えた言質を引き出せなかった。そしてまさに同日。中東のホルムズ海峡付近を航行する日本のタンカーが、何者かに攻撃されて船体が損傷したうえ、フィリピン人船員1人が負傷した。同じ頃、ノルウェーの船舶も攻撃され、被弾した。

 ホルムズ海峡を通過する船舶を通じて、日本は原油輸入の80%、液化天然ガス(LNG)の20%を依存している。それだけに安倍外交の「失敗」とともに、エネルギーの供給不安が広がっている。

 この事件について、タンカーを運航している日本の国華産業は記者会見を開催、「タンカーを攻撃したのは飛来物。船員が目撃している。機雷ではない」と説明した。飛来物とは砲弾かミサイルを指している。

 一方、アメリカのポンペオ国務長官は会見で、「タンカー攻撃はイランの責任。イランは日本を侮辱した」と言い切った。これに対し、イランは攻撃を否定している。

有効射程距離を考えれば地対艦ミサイル

 この事件は全容がまだ解明されていない。不明な点が多い。焦点は、誰が、どのような動機で、どのような手段で攻撃を行ったか、だ。ここが解明の手がかりになる。

 まず、手段から。

 攻撃手段として、機雷、砲弾、ミサイルが挙げられた。このうち機雷説は消えた。タンカーの損傷の具合が機雷によるものではないことは映像から明らかだ。国華産業も機雷説を否定する。

 砲弾か。大砲の命中可能な有効射程距離は短い。口径の大きい主砲を積んだ戦艦同士の砲撃戦でさえ、命中可能な有効距離は10~20kmのレンジだろう。陸軍で使用される大口径の大砲でも、有効射程距離は10km以内。したがって、イラン沖50kmの距離にあるホルムズ海峡を航行する日本のタンカーに、2発も命中弾を浴びせられるとは考えにくい。

 消去法で残るのは、GPSとレーダーで精密に管制された、地対艦ミサイルである。ゲリラやイスラム過激派など、小規模組織では困難だ。正規軍か正規軍に準じた存在だろう。アメリカは偵察衛星で、ミサイルがイラン側か、対岸のオマーン側のどちらから発射されたかについて、把握しているはず。これで明白になるが、軍事機密なので公開されまい。

 ならば犯人は誰か。

 ミサイルだと仮定すれば、3者しかない。まず、容疑者として真っ先に浮上したのは、イラン軍か革命防衛隊だ。アメリカやイギリスの情報筋は、イラン犯人説だ。アメリカ以外で、イラン犯人説を唱えたイギリスに対し、イラン政府は外交ルートで抗議した。

 日本の安倍首相という賓客を招き、最高指導者と会談させたイランに、どのような動機があるのか。ハメネイ師と安倍首相に恥をかかせるタンカー攻撃など、動機に乏しいと考えるのが普通だろう。イラン情勢に詳しい中東調査会の近藤百世研究員は、「経済制裁で追い詰められているイランが国際社会を挑発する行為をすることは考えにくい」と分析する。

 次に、イラン政府・軍を容疑者からいったん外すと、浮かぶのは、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の連合勢力。資金、配下、ノウハウがある。動機はイランを犯人にして、アメリカにイランを攻撃させること。“謀略説”の1つだ。

 「Bチーム」という名称がある。アメリカにイランを攻撃させることに、強い動機を持つ人たちの俗称である。ボルトン大統領補佐官(安全保障担当)、イスラエルのネタニヤフ首相、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子、そしてサルマン皇太子と親しく師匠格でUAEのムハンマド・ビン・ザイド皇太子だ。

 ただこの話には難点がある。イランを窮地に追い込むと、最後はホルムズ海峡封鎖という事態になりかねない。そうなると、サウジアラビアやUAEは、原油とガスの輸送手段を失う。自分で自分の首を絞めることになる。

 3番目は非難したアメリカによる“自作自演”である。アメリカの歴史をさかのぼると、今や否定されてしまったイラク大量破壊兵器保有説、ベトナムにおけるトンキン湾事件、米西(スペイン)戦争を起こしたキューバ・ハバナ湾での戦艦メイン号沈没事件など、今日では歴史家が明らかに「アメリカの謀略」だとする事件が戦争の引き金になっている。つまり、アメリカ国内の世論を戦争に誘導する謀略だった。

 もちろん、アメリカが直接手を下すことはリスクが高いため、ペルシャ湾岸にいる配下や勢力にやらせたと考えることが可能である。アメリカ謀略説とすると、動機は何だろう。「日本は出しゃばるな」という警告に加えて、イランにさらに軍事的圧力をかけることかもしれない。

イラン内部の跳ね上がり分子が起こした?

 そして4番目はイラン内部犯行説だ。イラン政府・軍でないが、革命防衛隊の跳ね上がり分子がミサイルを発射した、というシナリオになる。駐イラン日本大使経験者から印象深い話を聞いたことがある。イランの街頭にはタブロイド紙があふれており、「イランは意外だが日本より言論の自由と多様性がある。理由は政権をめぐる派閥抗争が激しいので、多様性が紙面に出るから」(大使経験者)。

 今回、日本のタンカーが攻撃された海域は、オマーンの対岸にあるイランの主要港の1つ、ジャスタ港に近い。革命防衛隊の縄張りだ。小型船舶を活用しバーレーンに基地を置く、アメリカ第5艦隊を牽制する位置にある。ハメネイ師の意図を忖度(そんたく)した革命防衛隊の跳ね上がりが、何らかの手柄を立てたい動機で、日本タンカーと知らずに攻撃してしまったという臆測である。

 以上、大胆に推測した仮説の中では、実は4番目に一定の整合性があるかもしれない。

 ここから、この事件を受けて、今後の展開を大胆に予想したい。

 1、 ホルムズ海峡封鎖はない。タンカー運行停止もなく、石油危機も起こらない。

 なぜかといえば、1980~1988年にかけて8年間も続いたイラン・イラク戦争の際、ペルシャ湾を航行する船舶がたびたびイランから攻撃を受けたことがある。しかし、ホルムズ海峡の閉鎖はなかった。船舶も船体、乗組員、積み荷を担保する海上保険に守られながら、運航した。しかもイランには大きな誘惑があったにもかかわらずだ。

 イラクを資金で支援していたのは、サウジアラビア、UAE、クウェートなどのアラブ産油国だった。ホルムズ海峡閉鎖で、石油・ガスの輸出という資金源を遮断することが可能だったが、それでも踏み切らなかった。

 2、アメリカ、イランともチキンレースを継続中だが、戦争はない。

 イランは受け身の立場だ。「現状でイランにできることは何もない」(近藤百世氏)。核合意順守を、英仏独や中国、ロシア、インド、日本まで支持しているが、イランにとって本当に頼れる国はない。かろうじて今回の安倍首相訪問で、日本を挟んでアメリカとイランの間にホットラインができれば、日本やイランにとって大きな成果になるものの、未知数である。

 イランがアメリカとの戦争を回避したいのは当然だが、アメリカも現在の緊張感を形成している状況はブラフ(脅し)に見える。

 2019年1月の一般教書演説ではトランプ大統領本人が、「2001年からアメリカは、アフガニスタンやイラクなどに介入して7兆ドルを費やしたが、何の成果もなかった」という趣旨の言葉を語っている。自身の言葉を忘れてほしくない。

「オバマ時代」否定一色のトランプ大統領

 3、トランプ大統領がオバマ前大統領の主導した核合意に変わる「新核合意」を狙う。

 トランプ大統領の内外の政策・発言は、「アンチ・オバマ前大統領」一色だ。イラン核合意からの離脱もその1つ。トランプ大統領の脳裏にある新しいイラン政策は、①イランの核開発をオバマ時代の核合意より厳しいものにする、②イランがシリア、レバノン、イエメンなど中東地域の関与を縮小することを約束させる、だろう。

 これが実現すれば、トランプ大統領の主観では、「俺はオバマを超えた」と優越感に浸れる。

 もちろんイランは、「アメリカと交渉するつもりはない」(ハメネイ師)と一蹴するが、穏健派といわれるロウハニ大統領の発言は微妙に揺れるだろう。交渉力に長けたペルシャ商人の国だけに、これからの交渉が注目される。口約束のディール(取引き)でトランプ大統領から圧力をかわせるならば、イランの選択肢になる。

 最後に、今回のタンカー攻撃とは別に、指摘しておきたい点を1つ。国際社会が合意したイラン核合意を一方的に離脱したアメリカによる、理不尽ともいえる経済制裁によって、イランの国民が困窮に耐えているという事実もまた忘れてはいけない。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏