タピオカブームは本当に「株価暴落の前兆」なのか
「タピオカブームは株価暴落の前兆ではないか」――。SNSを中心に、タピオカがブームになると株価が暴落するというウワサが広がっています。
今年は「第3次タピオカブーム」とも呼ばれる、タピオカドリンクの流行が起きています。これが一部の投資家にとって懸念材料となっているようです。
バブル崩壊やリーマンショックと一致?
今回のブームでは、若年層の女性を中心に人気が広がり、「タピる」(タピオカドリンクを飲むこと)や「タピ活」(タピオカドリンクを飲む活動のこと)といった新しい言葉が生まれました。業務スーパーでは即席のタピオカが品切れ続出となるなど、第3次ブームの勢いはとどまるところを知りません。
日本で初めてタピオカブームが起こったのは、1992年といわれています。ちょうど平成バブルが崩壊している最中の出来事になります。
2回目のブームは、リーマンショックが発生した2008年です。このように考えると、今年のタピオカブームが不況の前兆ではないかというウワサ話にも、妙な説得力があるように思えてしまいます。
「タピオカ不況」は一種のアノマリー
タピオカブームが不況のシグナルであるという考え方は、株式市場でよく生まれる「アノマリー」の1つといえるでしょう。
アノマリーとは、具体的な根拠や理論をもって説明することはできないものの、経験則上よく当たるといわれる物事のことをいいます。大安に結婚式を挙げると幸せな生活が送れるという経験則も、典型的なアノマリーです。
株式市場で有名なアノマリーといえば「夏枯れ相場」です。夏枯れ相場とは、8月ごろになると株式の取引高が減少するというもの。8月はお盆やバカンスによって市場参加者が取引を控えるため、取引高が減少する、と解説されることがあります。
実際のところ、本当に休暇が理由で夏枯れ相場になっているのかは判明していません。ここ10年の傾向でいえば、夏に取引高が減少し、9月から再び活発に取引される傾向にあるようです。
タピオカブームと不況の時期が今後もピッタリ重なるのであれば、夏枯れ相場と同様に、株式市場における有用なアノマリーとなってくるかもしれません。
芸能人が結婚すると株価は暴落
夏枯れ相場のようなメジャーなアノマリーと比べて、市場との関連が薄いアノマリーには“賞味期限”がある場合もあります。
市場との関連が薄いアノマリーとして、「芸能人の結婚が日経平均株価の暴落を引き起こす」というものがありました。このアノマリーがどのような顛末をたどったか、実際の例を挙げながら考えてみたいと思います。
2015年に女優の堀北真希さんが俳優の山本耕史さんと結婚発表した翌営業日、8月24日の日経平均は前日比▲895.15円と大きく下落しました。同年に俳優・歌手の福山雅治さんと女優の吹石一恵さんが結婚したと報じられた翌日、9月28日の日経平均は同▲715円となりました。
2016年に入ると、女優の北川景子さんと歌手のDAIGOさん、女優の優香さんと俳優の青木崇高さんが結婚したと報じられ、どちらのパターンも日経平均が大きく下落しました。これらの経験則から、芸能人が結婚発表すると日経平均が一時的に急落するというアノマリーが生まれ、内容の面白さも相まって知名度を向上させていきました。
アノマリーには賞味期限がある?
しかし、このアノマリーが広く知られることとなった2017年ごろから、ぱったりと株価の急落は起きなくなってきています。
2017年の女優の佐々木希さんとお笑いタレントの渡部建さんの結婚報道では、むしろプラスになりました。2018年は、結婚報道ではありませんが、女優の石原さとみさんとSHOWROOM社長の前田裕二さんの熱愛が報じられました。この時、確かに株価は下落しましたが、暴落というほどの下げ幅ではありませんでした。
つい先日明らかになった女優の蒼井優さんとお笑いタレントの山里亮太さんの結婚報道でも、その翌日6月5日の日経平均株価は+367円と大幅高となりました。
ここ2年に限っていえば、芸能人の結婚は暴落というよりも、むしろ株価の上昇を引き起こす可能性が高いといえます。市場の反応としても、蒼井優さんの事例で日経平均の暴落を懸念する書き込みはあまりみられませんでした。芸能人の結婚で日経平均が暴落するというアノマリーは、賞味期限が切れたといっても差し支えなさそうです。
タピオカブームも芸能人の結婚と同様に市場との関連が薄いと考えられるため、賞味期限が切れている可能性に注意が必要です。
タピオカブームと株価暴落は関係あるのか
アノマリーが成立する要因としては、アノマリーを信じる投資家たちがその通りに行動することで株価に影響が出てくるという説があります。つまり、ある出来事と株価の変動に本質的な因果関係がなくても、それを信じる人が多ければ、その通りに株価が動くということです。
本当は因果関係のないものに相関性を見出してしまうことを、心理学では「錯誤相関」といいます。そのルーツは、古代における雨乞いの儀式にまでさかのぼります。
本来、雨乞いの儀式と降水の間に因果関係はないはずです。しかし、雨乞いをした日に降水があると、人は雨乞いをしたら雨が降ったと考えてしまいます。特に、雨乞いが連続して成功していけば、雨乞いの有効性が徐々に確信に変わってきます。
こうなってしまうと、雨乞いを行なった日に降水がなくても「祈りが足りない」、ないしは「供物が少ない」などといったやり方の部分に視点が移ってしまい、雨乞いという儀式自体を否定しなくなります。そのため、多少失敗したとしても、雨乞いの儀式はいろいろな地域で長きにわたり受け継がれていったのではないでしょうか。
私たちも、このような心理は持ち合わせています。たとえばルーレットで、2回連続で赤が出たら次は黒が出るというパターンを10回繰り返しているような時、次に2回連続で赤が出たら黒に賭けたくなってくるのではないでしょうか。しかし、実際にはそこに法則はなく、たまたまそのようなパターンが連続して出てきただけといえます。
タピオカブームと株価暴落について考えると、たった2回のサンプルしかないうえ、初回のブームはバブル崩壊後、しばらくしてから発生しています。わずか2回の中でも整合性に微妙な点があることを踏まえると、タピオカブームと株価の暴落はいまだ錯誤相関の域を出ないと考えて差し支えないでしょう。