歯を抜かずに症状悪化=誤解が多い矯正治療
歯並びや歯のかみ合わせに悩む人は多い。しかし、歯の矯正に関しては誤解が付きまとう。矯正というと、歯を抜かない治療だと思い込んでいるケースが多いからだ。抜歯しないと症状が改善しないだけでなく、かえって悪化することもある。専門医でつくる日本臨床矯正歯科医会は、永久歯を含めた抜歯が必要なケースがあることを分かってほしいと啓発活動に力を入れている。
◇知らない非抜歯デメリット
「歯を抜かないと、歯並びや歯のかみ合わせが治らないことがある」。同医師会の稲毛滋自会長は、こう強調する。
2019年3月にインターネットを使って1500人の一般市民を対象にした調査によると、稲毛会長の指摘した問題については56・3%の人が「知っている」と回答した。
ただ、「無理に歯を抜かずに並べることで、歯の寿命が短く場合があることを知っているか」「歯を抜かないがために無理に顎を広げて歯を並べると、治療後の歯並びが安定しないことを知っているか」という質問では、「知っている」が前者で15・7%、後者では20・7%にとどまった。非抜歯矯正に伴うデメリットに関する周知度は低い。
◇小臼歯が壊死
歯の矯正に関するトラブルは決して少なくはない。30歳の女性は以前受けた治療を大変後悔している。非抜歯での治療をしていたが、装置を外した後、歯並びがしっくりなじまず、しゃべったり、笑ったりすると、上の前歯が下唇に引っ掛かるような感じがしてとても不快だったという。
「気にし過ぎだ」。通っていた医院側の反応は冷淡だった。その後、右下第1小臼歯からうみのようなものが出ているのに気付き、レントゲン写真を撮った。その結果、この歯と左下第2小臼歯の骨髄が壊死(えし)していたことが分かり、大きなショックを受けた。
◇一方的に治療終了
こんなケースもある。歯並びを気にして悩んだ末に大学2年生の時に非抜歯の矯正医を受診。「簡単な症例だ」と言われ、2年間治療を続けたが、下顎の歯の歯根の露出が激しくなってきたことについて質問すると、一方的に治療終了を告げられたという。結局、症状は改善されなかった。
この女性の場合は、歯根が骨にくっつき吸収されてしまう症状だ。適切な治療のためには抜歯が必要だったが、担当医師から非抜歯治療に関するリスクの説明はなかった。割り切れない思いとともに、自分のような患者を増やしたくないという思いから、歯科大学に編入し、歯科医師への道を目指しているという。
◇矯正への後悔
矯正歯科医会の会員アンケートに寄ると、患者らからの相談件数が増加している。
10代の男性「前歯が出っ歯ぎみだったため小学生の時に顎を広げる装置をつけ、高校生になりワイヤによる矯正を1年9カ月行った。しかし、口元が前に出てしまい、「矯正したことをとても後悔している。再矯正するとしたら、小臼歯の抜歯しかないのか」と強い不満を示した。
◇歯並びを諦める
30代の女性は非抜歯で矯正を始めて2年ほどたった頃。医師から治療の終了を告げられた。かなりの出っ歯だったため、仕上がりには満足できなかった。しかし、「これ以上治すなら、歯をもっと削らないといけない」と言われ、歯並びについては諦めた。
ただ、かみ合わせが合っていないことは諦められない。下顎を少し前に出してかまなければならないからだ。医師との間でこんなやりとりがあった。
「顎の筋肉トレーニングをして下顎を前に出してかむのを当たり前にするのです」
「私は一生、普通にかむことはできないのですか」
「下顎を出しながらかむのが普通になります」
このような治療は当たり前」なのだろうか? 女性は大きな疑問を感じた。
◇専門医でなくても看板に掲げる
稲毛会長は「まず抜かない、という手段ありきが最初にきていることがおかしい。第3大臼歯(親知らず)以外の永久歯の抜歯も必要なことがあることを知ってほしい」と力を込める。
問題は、専門的なトレーニングを受けていない歯科医師に当たるケースが少なくないことだ。なぜか。歯科医師であれば誰でも、医院の看板に「矯正歯科」と記載し標榜できる。しかし、矯正歯科医会のアンケート調査によると、このことを知っている人は12・3%にすぎなかった。同医師会も、さらに周知への努力が求められている。(鈴木豊)
