「違法ダウンロードの範囲拡大」に潜む、重大な問題点、研究者や弁護士ら87人が緊急声明「国民生活に及ぼす影響、検討が不十分」

「違法ダウンロードの範囲拡大」に潜む、重大な問題点

SNSのタイムラインに流れてきた画像を気に入ってスマホに保存。そんな誰もが日常的に行なっている行為が違法となり、場合によっては刑事罰まで科される可能性がある。

そんな信じがたい内容が盛り込まれた著作権法の改正案の方針が、去る2月13日に開催された文化審議会著作権分科会で了承され、今国会で提出される見通しだ。

「著作権侵害だと知らなければ免責される」という条件つきだが、それでも、いや、だからこそ、同改正案はクリエイティブな活動を行うすべての人、そしてジャーナリズムにとって重大な問題をはらんでいる、と明治大学教授で日本マンガ学会理事の藤本由香里氏は指摘する。具体的にどういうことなのか、これまでの流れをおさらいしながら藤本氏に解説してもらった。
----------

目的は海賊版マンガサイトの規制のはずが…

 「漫画村」などの海賊版マンガサイトの規制の要請に端を発したダウンロード違法化の範囲拡大が大きな議論を呼んでいる。

 問題は、違法化の範囲が海賊版対策の範囲を大きく逸脱し、一般の人がメモ的にウェブのスクリーンショットをとっただけでも、その中に著作権を侵害するコンテンツ(引用の要件を満たしていない転載や、許諾を得ていないTwitterのアニメアイコンなど)が含まれていれば違法となり、刑事罰まで科される、という方針が打ち出され、それが今(2019年2月19日現在)でも基本的には変わっていないからだ。

 発端は昨年の12月、文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会による著作権法改正の「中間まとめ」が示され、広くパブリックコメントが求められたことに遡る。音楽と動画に関しては、2009年から海賊版のダウンロードは違法とされ、2012年からは刑事罰の対象にもされていた。

 そして今回、それに加えて海賊版マンガのダウンロードが違法対象に加わる――のかと思いきや、「中間まとめ」で示されたのは、「著作物の種類・分野による限定を行うことなく広くダウンロード違法化の対象範囲に含めていくべき」という方針であり、その「方向性については、概ね共通認識が得られた」との記述があった(その後の報道で、実は委員会内部でもこの方針に強い疑問を呈する声が多かったことが判明する)。

「日本のイラスト界は壊滅するのではないか」

 これに対し、私が理事を務める日本マンガ学会(竹宮惠子会長)は、パブリックコメントで反対の意を表明し、さらに1月23日、「ダウンロード違法化の対象範囲拡大に対する反対声明」を発表した。

 簡単にまとめると、主な論点は次の4つである。

 1. 海賊版研究だけでなく、二次創作研究もできなくなる。

 2. インターネット上の記事や図像をメモ的にウェブクリッピングすることは誰もが日常的に行っている行為であり、これを違法化することは、広範囲での研究・創作の萎縮を招く可能性が高い。

 3. 動画や音楽の違法アップロードと違い、静止画や文章が「違法」アップロードであるかどうかは判断が難しい。たとえば短文のSNS等で正確な出所が示されていない記事はすべて「違法」と判断されかねない。

 4. ダウンロードを違法化しても、「漫画村」のようなストリーミング方式の海賊版はまったく取り締まることができない。音楽や動画に関してもこれまでに逮捕者は出ておらず、今回の改正は、悪意ある侵犯者に対してはまったく効果がなく、逆に一般ユーザーの萎縮を招き、研究・創作を著しく阻害する最悪の結果となることが予想される。

 この声明は反響をよび、いくつかの新聞やネットニュースでも取り上げられた。そして2月8日、参議院議員会館で、「違法ダウンロード範囲拡大を考える院内集会」が開かれ、慶應義塾大学法学部教授の大屋雄裕氏、マンガ家の赤松健氏、そして日本マンガ学会の竹宮惠子会長と私が出席することとなった。

 この席上でマンガ家の赤松健氏は、「マンガ家の権利を守ってくれようとするのはありがたい」としながらも、「これは僕のHDDの中身です」と画像を見せて、自身のHDDの中にも「たくさんのイラスト画像を保存している。とくにスポイトツールを使って色合いを参考にすることが多い。保存している画像の中には二次創作のものも交じっているし、いちいち合法か違法かを気にしてはいない。こうしたダウンロードがダメということになると日本のイラスト界は壊滅するのではないか」と指摘した。

著作権法は文化の発展に寄与すべきでは

 もう一つ、赤松氏が言及したのが、「価値ある創作活動が行われ得るといった理由により,違法にアップロードされた著作物の利用を正当化することには疑義がある」とする、文化庁の見解だ。上記の一文は、<パブリックコメントで提出された個別事例を受けた事務局としての考え方>という文化庁が出した、団体や個人から寄せられたパブコメへの反論集の中にある。

 この文書は「~には疑義がある」という語尾のオンパレードで、パブリックコメントで寄せられたさまざまな危惧や異論を「そんなことを考慮する必要はない」とすべて却下していくのであるが(そのこと自体、この改正がまず「結論ありき」で進んでいることを示している)、中でも最も驚くべきものが前述の一文である。

 著作権法第一条には、この法律を定める目的として「この法律は、<中略>文化の発展に寄与することを目的とする」とある。にもかかわらず、文化庁はこの著作権法の立法趣旨を真っ向から否定しているのだ。

 参議院議員会館での院内集会の当日、情報法制研究所(JILIS)からも「ダウンロード違法化の全著作物拡大に対する懸念表明と提言の発表」という反対声明と提言が出されたが、その中でも、今回の改正は「保護法益・利益に立ち戻った原理的な考察を欠く」「対象範囲を限定しないことによる副作用の指摘を無視している」と指摘されており、この声明を紹介するITmediaNEWSの記事の見出しはズバリ、<静止画ダウンロード違法化案「目的を見失っている」>である。この改正案はそもそも、著作権法の目的そのものから逸脱しているのだ。

 もちろん、文化庁の言う「違法にアップロードされた著作物」が漫画村のような「完全に違法な海賊版」を指すのだとしたら、それは確かに免責の理由にはならない。「創作の糧にするのなら、ちゃんと買って読め」ということになるだろう。

Twitterの画像引用も違法に?

 しかし今回の改正は、そうした「ブラック」なものだけでなく、引用の要件が不完全な転載だったり、二次創作だったりといった、「グレー」なものも広範に含んでいる。

 たとえばTwitterのような短文のSNSへの画像の添付は、「引用は、引用する方が主で、引用されるものが従でなければならない」という引用の第一要件を満たさない可能性が高い。しかしTwitterでは時に、非常に貴重な資料や図像が流れてくるのはごぞんじの通りである。またTwitterのアイコンのアニメアイコン等も、ダウンロードに含まれていれば、著作権侵害だと問題になる可能性がある。

 加えて、情報法制研究所が指摘する通り、論文の盗用のような研究不正の証拠とするために当該の不正論文をダウンロードして保存することも、前述の<事務局としての考え方>によれば違法となる。著作権侵害をしているものをダウンロードしたからである。これでは研究不正の検証など一切行えない。

 そうしたことを文化庁は明確に認識していながら、「違法な部分は外してダウンロードすればいい」「~には疑義がある」と、すべての議論を切って捨てているのだ。

「常習的」と「日常的」の違いは?

 しかし、こうした議論に意味がなかったわけではない。

 院内集会の直前の2月5日に出された「文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会報告書」では、それまでの「報告書(案)」とは違って、刑事罰の範囲には制限を設けるという方針が示されている。

 2月13日の朝日新聞の報道によると、同日、文化庁から自民党文部科学部会に示された素案では、ダウンロード違法化の対象から二次創作が外され、刑事罰の対象範囲は常習的に行った場合に限る、とされた。また、ダウンロードした著作物が著作権を侵害していることを「知らなかった」場合もはっきりと免責されている。

 だが、まだ問題が解決されたわけではない。

 「常習的」という要件は入ったものの、ダウンロード違法化の範囲は「すべての著作物」に拡大されたままである。2月16日のラジオ番組「荻上チキSession-22」で福井健策弁護士も指摘していたが、「日常的にウェブクリッピングを行っている」ということも「常習的」とみなされる可能性がある。つまり誰でも犯罪者になりうるということだ。

 とはいえ、まったく安全装置がないわけではない。最大の安全装置は、著作権侵害が親告罪だということだ。昨年暮れ、TPP関連法案の成立で、一部の著作権侵害(有償著作物のデッドコピー)は非親告罪化されたが、今回のダウンロード違法化は、すべて親告罪のままとされている。

懸念される嫌がらせや公権力の濫用

 しかし、だとするならば、いったいどうやって著作権者が、ユーザーが違法ダウンロードを行っていることを知って訴える、ということが起こるのだろうか。

 一つには、海賊版サイトが摘発され、そのログからたどって常習的なユーザーが特定される場合。あるいは別件で逮捕されて判明する場合。あるいはブログやツイートから判明する場合。あるいは密告。

 先に違法化された音楽や動画でまだ逮捕者が出ていない状況を考えると、そういうことは起こりにくいように思えるが、日常的にネットを使っている人なら実感しているように、ネット上では著作権侵害には敏感である。ダウンロード違法化の範囲がネット上の全著作物に拡大されたら、嫌がらせで密告されるのではないか、それで萎縮が起こるのではないか、という懸念もささやかれている。

 そしてまた、考えたくはないが、たとえ起訴は著作権者の同意がないとできないとしても、捜査は警察が自発的に行い、著作権者に連絡して起訴の同意を求める、という可能性は否定できない。「捜査されてパソコンを押収される」――たとえ無罪でも、たとえ起訴されなかったとしても、どれほどのダメージであるかは言うまでもないだろう。

 ここで問題となるのが、「著作権侵害だと知らなければ免責される」ということだ。文化庁はこの部分を強調して安心しろというのだが、これは翻せば、「著作権について知っている人ほど有罪の可能性が高まる」ということでもある。有識者、創作者、ジャーナリスト……つまりは「言論」に関わる人々ほど危ない。出版界は海賊版対策だけに目がいっているようで、こうしたことを問題視していないが、これが言論統制を目的とした違法範囲拡大でないことを祈るばかりだ。

 本来の目的が海賊版対策であるならば、著作権についての啓蒙を行うべきなのに、著作権への理解を深めれば深めるほど有罪の可能性が高まる。これでは「国民は著作権に無知であれ」と言っているのに等しく、少なくとも立法の趣旨に反するのではないか。

 改正案の具体的な条文が出てくるのはこれからだが、以上の懸念を踏まえて適切な改正案にするためには、

 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合に限る」
「典型的な海賊版に限る」

 という縛りが絶対に必要だろう。

世界的にも異例な広範囲

 事実、諸外国でも、これほど広範にグレーの部分まで含めてダウンロードを違法化した例はない。

 文化庁は「ドイツ,フランスをはじめ多くの国が,違法にアップロードされた著作物(その種類は問わない。)を複製する行為を、例外規定の適用対象から除外している」としており、諸外国もジャンルを限定していないから、違法の対象を「全著作物」に拡大するのが適当であるとする。

 しかし、諸外国では、著作物のジャンルにこそ制限を設けていないかもしれないが、文化庁が「中間まとめ」で紹介している例だけを見ても、各国ともダウンロード違法化の対象は「明確な海賊版」に限定しており、「引用の要件を満たさない、著作物のごく一部の転載」など軽微な著作権侵害にまで広く違法化の網をかけるようなことはしていない。

 たとえばアメリカは、ダウンロード違法化に関する特別な規定を持たず、フェアユースの基準に照らして個別の事例を判断するとしている。その中で有罪とされた判例は、「作品の完全な市場代替物」であることが理由である。

 また、文化庁が「刑事罰を設けている」として前面に打ち出すドイツとフランスの例にしても、ドイツは「明らかに違法に制作され、公衆送信された」ものをダウンロードすることを違法としており、フランスは逆に、「適法な場所からのダウンロードはとがめられない」としている。つまりTwiterやPixiv、あるいは一般のブログからのダウンロードは、たとえその中に著作権侵害が含まれていたとしても、違法ではないということだ。

 また、各国とも違法化の要件は客観的な事実に限っており、「著作権侵害を知っていたかどうか」という「主観要件」を条件に入れている国は、私の知る限り、ない。

 以上のことを鑑みるに、今回の改正の方向は、他国に例のない、異例の広範囲に及ぶ違法化だということができる。

どうか「改善」を

 ここで最初の指摘に戻る。

 「なぜ文化庁は、海賊版対策の範囲を大きく逸脱して、グレーな著作物のダウンロードまで違法化しようとするのか?」

 「なぜそれほど強引に、十分な審議もせずに、委員から強い疑義が出ても切り捨て、成立を急ぐのか?」

 まず考えられるのは、「言論統制の道具として使うつもりだから」という理由である。もちろんそう考えたくはない。しかし、それを疑いたくなるような要素はある。よしんば成立させる側にはそんなつもりはなくとも、法律は、法律の中にきちんとした歯止めがなくては、後世、どんな利用のされ方をされるかわからない。

 数多の危惧、懸念を払拭するためにも、刑事民事を問わず違法となるのは、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合に限る」という縛りは最低限必要である。

 今のままではそれこそ、政治家のブログに貼られた、その人の活動を紹介する新聞記事(引用の要件を満たさず、著作権処理をしていない)をダウンロードして保存した支援者だって有罪になりかねないのだ。

 著作権法の目的である「文化の発展」のためには、今すでにある著作物の権利を守るだけでなく、新しく生まれる著作物の発展を促すような、少なくともコンテンツ産業の発展を阻害しない方向での著作権法の整備が必要不可欠である。

2月13日に開催された文化審議会著作権分科会の親委員会で、「情報収集と表現行為が混乱しているようですが」と確認した司会者の道垣内分科会長に対し、永江朗委員が「その2つを分ける意味はない。情報収集なくして表現はない」と言い切った*1
ことを肝に銘じてもらいたい。まさに「情報収集なくして表現はない」のである。 これから具体的な法案を審議する自民党文部科学部会には、ぜひ適切な構成要件を備えた法案を期待したいものである。

DL違法化、研究者や弁護士ら87人が緊急声明 「国民生活に及ぼす影響、検討が不十分」

インターネット上に違法アップロードされた漫画や写真など、あらゆるコンテンツについて、著作権侵害されているとを知りながらダウンロードすることを全面的に違法とする方針が、文化審議会著作権分科会で決まった。

このダウンロード違法化の範囲拡大に対し、知的財産法や情報法の研究者らが2月19日、対象の範囲について「さらに慎重な議論を重ねることが必要」「拙速な法改正は、私的領域のおける情報収集の自由に対して過度の萎縮効果を及ぼす」とする緊急声明を出した。文化庁の方針に対し、著作権法の専門家らが一斉に反対の意思表明をすることはきわめて異例という。

●「立法措置を図るに際しては、さらに慎重な議論を重ねることが必要」

緊急声明の呼びかけ人は、高倉成男・ 明治大学知的財産法政策研究所長、中山信弘・東京大学名誉教授、 金子敏哉・明治大学法学部准教授。賛同者は研究者や弁護士、ジャーナリストら84人とクリエイティブ・コモンズ・ジャパンとなっている。

緊急声明では、今回の方針はクリエーターやネットユーザーから懸念の声が上がっていることからも、法改正の前提となる立法事実や、国民生活に及ぼす影響についてもいまだ十分な検討がされているとはいえないと厳しく批判。

「私的使用目的の複製に係る権利制限が、私的領域における情報収集の自由を確保する機能を有し個人の知的・文化的活動、さらには日本の産業を支える法的基盤となっていること」なども指摘し、DL違法化の対象範囲について、「立法措置を図るに際しては、さらに慎重な議論を重ねることが必要であると考える」としている。

また、今回の方針決定の背景となった「漫画村」などの海賊版対策については、「その法改正はあくまで被害が深刻な海賊版への対策に必要な範囲に限定されるべきである」として、「刑事罰についてはその萎縮効果の大きさに鑑みて更なる限定を行うことが不可欠であると考える」と表明した。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏