「Amazon限定」がガジェット周辺で増えつつある理由
Blu-ray Discの映像コンテンツやゲームソフトでは、「Amazon.co.jp限定」の製品はすっかりおなじみだ。他の販売店にはない独自の予約特典が付いたこれら限定商品は、ついつい手が伸びてしまう魔力を秘めている。
そんな「Amazon限定商品」だが、最近はノートPCやディスプレイ、HDD、メモリカードなど、PC周辺機器にも増えつつある。これらの製品は「Amazon.co.jp限定」と記されている他、型番の末尾にAmazon専売であることを表す「-A」などの識別子が振られていることが特徴だ。
もっとも、Blu-rayなどのメディアと大きく違う点が2つある。一つは、オリジナルの製品と明確な違いがないこと。モノによっては、例えばオリジナルにないケーブルが付属するといった相違点もあるが、仕様などは全く同一、パッケージも説明書も使い回しであるケースがほとんどだ。
そしてもう一つの特徴は、元になったオリジナル製品がAmazonでは売られてないケースが多いことだ。Blu-rayやゲームソフトでは、予約特典が不要な人のために、オリジナルの製品が併売されていることがほとんどだが、こうしたPC周辺機器では、独自型番の製品のみが販売され、オリジナルの製品は登録自体がないことも多い。
メーカー視点で考えると、型番を分ければ在庫を他の販路と共有できなくなり、倉庫の負担は増える。両方の在庫を持たなくてはいけないのでキャッシュフローも圧迫される。PC周辺機器は2~3年もたてば終息する製品が多いので、効率という意味でもよろしくない。
こうしたデメリットがあるにもかかわらず、なぜわざわざ特定の販売ルートにだけ、独自の型番を付けた製品を販売しようとするのか。Amazonに限らず、大手通信キャリア向けのアクセサリーなどでも最近増えつつあるこの現象について、今回は見ていくことにしよう。
結論から書いてしまうと、これら「独自型番製品」は、オリジナル製品の価格相場を維持するのが主な目的だ。
これはAmazonに限らずどの販売店にもいえることだが、特定の販売ルートでのみ製品が大幅に値引きされると、他の販売ルートが黙っていない。「どうしてあの量販店だけ安売りして、ウチは高いんだ」と、メーカーに食って掛かるわけである。
実際には利益を削っているだけで、卸価格は同じだったりするのだが、中には客寄せや他店つぶしなどを目的に、卸価格を下回る価格を付けて販売するケースもある。これがクレームの元になるわけだ。
例えば、量販店Aが安売りしているのを、量販店Bが発見してメーカーにクレームを入れる場合、クレームを付けられるメーカーの営業担当も、量販店Aがなぜ安いのか、事情を把握していないことが多い。社内でヒアリングをして初めて事情が分かるわけだが、こうした事態が繰り返し発生すると、量販店Aと量販店Bの営業担当者の間でも、ギスギスが発生することになる。
「いや、量販店Aに安く卸しているわけではなくて、量販店Aが勝手に値引きしているんですよ」と、営業担当が毎回説明したとしても、絶えず疑惑の目は向けられる。こうした量販店は、同じような施策を繰り返し行うので、その度にこうしたギスギスが発生するのだ。
何より、現実的に「量販店Aの方が量販店Bよりも安い」という事実は変わらないので、量販店Bは安くないというイメージが顧客の間で醸成されるとともに、量販店Bの社内で担当バイヤーの評価も下がる。そうなると量販店Bでは、「ロクに対策も取ろうとしないあのメーカーの製品はもう取り扱いをやめてしまえ」という論調になる。ある意味、量販店Aの狙い通りになっているわけである。
ここで登場するのが、冒頭で述べたような、特定の販売ルート、ここで言うと量販店Aに対してのみ独自の型番で製品を卸すという施策だ。こうしておけば、量販店Bに卸しているのとは別の製品であるという口実が成立し、直接価格が比較されることがなくなる。メーカーはクレームを付けられることがなくなり、また価格調整の自由度も増すというわけだ。
中には、独自型番の製品には何らかの特典が付いていて、しかもオリジナルの型番よりも安いというケースもあるが、型番が別であれば、意外なほど風当たりは弱くなる。独自型番を付けているくらいだから、毎月それなりの数量を売る契約になっていて、その分、卸価格も安いのだろう……と、別の販売ルートを諦めさせるさせる効果があるというわけだ。
さて、この独自型番には、もう一つの目的がある。それは自社内での在庫確保だ。
周辺機器やアクセサリー類のように単価がそれほど高くない製品は、倉庫内の在庫は販売ルートごとに決まった数が割り当てられるのではなく、共通在庫として奪い合いになる。いち早くオーダーを取ってきた販売ルートに対して在庫が割り当てられ、商談の成立が遅れると在庫がなくなっていた……というのは日常茶飯事だ。
法人系の大口案件であれば、一定の在庫を確保してから商談に臨むなどの対応が取られるが、毎日少しずつの量を出荷していく量販店ルートでは、こうした施策は難しい。「法人の大口案件が発生したせいで量販店向けの在庫が品切れを起こした」というトラブルもしょっちゅう起こり、そのたびに営業担当は、販売店に頭を下げて回ることになる。
その点、特定の販売店向けの独自型番にしておけば、在庫を独占でき、他の販売ルートに在庫を横取りされることがなくなる。オリジナル型番が在庫切れでも、その量販店向けの独自型番は潤沢に在庫が残っている……というわけだ。
もちろん、型番が増えると在庫管理や発注のプロセスが複雑になるので、購買担当にとっては極力避けたい施策でもあるが、その販売ルートが会社にとって重要で、品切れが許されない場合は、こうした施策はやむを得ないものとして許可されやすい。前述のように、価格の問題でクレームの要因になっているという事情がここに加われば、その傾向はさらに強くなる。
冒頭で紹介したAmazonに限らず、有力な量販店に対しては、取引量が増えるにつれてこうした独自型番が作られるケースが増えていき、それと並行する形で、元になったオリジナル製品は扱われなくなっていく。Amazonなどでは独自型番とオリジナルとが併売されているケースもなくはないが、それはここまで述べたような事情を知らない末端の出品者が、自前で登録したようなケースに限られる。
こうして誕生した独自型番の製品は、あくまでもメーカー側の事情によって型番を分けているだけなので、外観上はオリジナルと全く見分けがつかなかったり、既存のパッケージにシール対応しただけという形になりがちだ。わざわざパッケージや取説まで作り直すとコストが合わないし、サポートも煩雑になる。
見た目にはほとんど違いのない、型番だけがその販売ルート向けに独自に取得した製品が売られているのは、こうした事情によるものだ。ユーザーからすると、価格が安いか高いかの違いだけで、どちらを買っても問題はない。
ただし、こうした独自型番のPC周辺機器などは、将来的にその製品を中古で買い取りしてもらう場合、データベースにその型番がないという理由で、査定が渋くなる可能性があることは、頭に入れておいた方がいいかもしれない。
