命絶った未成年女性アイドルの自殺案件も…訴訟費用のクラウドファンディング広がる

女性アイドルの自殺案件も…訴訟費用のクラウドファンディング広がる

 インターネットで支援を募る「クラウドファンディング」(CF)を活用し、裁判にかかる費用を集める事例が増えている。訴訟に特化した専用サイトも登場。社会的な問題を訴える裁判では、弁護士らがボランティアで活動することも少なくない。専門家は「CFで資金面の制約がなくなれば、訴訟のハードルが下がる」と注目している。

 「あなたの支援が社会を変える」。こううたった訴訟専用のCFサイト「リーガルファンディング」が、今年10月にできた。東京の弁護士らで作る社団法人が運営している。

 サイトでの第1号は、愛媛県を拠点とする女性アイドル(当時16歳)の自殺を巡る訴訟だ。過重労働やパワハラが原因だとして、遺族が所属会社などに損害賠償を求めている。弁護士の交通費など300万円を募り、10月から今月25日までに、延べ378人から計約200万円が集まっている(来年12月まで)。

 法人代表理事の望月宣武(ひろむ)弁護士は「資金がなくて裁判を諦める人を減らしたかった」と話す。薬害など公益性の高い問題に関する訴訟は長期化し、費用が膨らんで取り下げられたり、勝訴しても実質は「赤字」になったりする例が多いという。

 サイトは「寄付型」と呼ばれる形式で、裁判の状況は報告するが、返礼品はない。提訴しないなどのトラブルを防ぐため、弁護士の受任が条件。支援者はクレジットカードで寄付し、集まった金額の10%が手数料として法人に入る仕組みだ。弁護士が一般人と報酬を分けるのは弁護士職務基本規程で禁止されており、資金は依頼者が受け取る。

 国内で初めてCFを活用したとされるのが、医師免許がないのに入れ墨(タトゥー)を客に施したとして医師法違反罪に問われた訴訟。罰金30万円の略式命令を受けた彫り師が、自ら正式公判を求めた。今年4月までに約340万円を集め、海外の判例の翻訳費用などに使われた。1審は有罪判決だったが、大阪高裁は11月に無罪を言い渡した(検察側が上告中)。担当の亀石倫子弁護士は「弁護士業界も手弁当で続けるのは限界。CFで広く支援が集まれば、活動の支えになる」と話す。

 東京医科大の入試で女子受験生らが不利になる得点操作が行われた問題でも、弁護団がCFサイトで寄付を募集。目標の250万円を大きく超え、25日現在で約680万円が集まっている(28日締め切り)。

 CFに詳しい桃山学院大の松尾順介教授(証券論)は「費用だけでなく、裁判への共感を広げる意味でCFは効果的。資金がどう使われたか、透明性の確保が大切だ」と指摘する。【戸上文恵】

 ◇クラウドファンディング(CF)

 クラウド(群衆)とファンディング(資金調達)を組み合わせた言葉で、インターネットで不特定多数の人から小口の資金を集める仕組み。返礼品のない寄付を求める「寄付型」や、金額に応じた商品やサービスを届ける「購入型」などがある。被災地への寄付など、多様な分野に活用が広まっている。

アクセス命絶った未成年アイドル 過酷な労働環境の実態は

 松山市を拠点に活動するアイドルグループのメンバーだった少女が、今年3月に自ら命を絶った。遺族は10月、過酷な労働環境や所属事務所のパワハラが原因だったとして損害賠償を求める訴訟を松山地裁に起こした。事務所はパワハラなどを否定している。法的責任の有無は今後法廷で争われ、少女の置かれていた状況も明らかになるが、この問題をきっかけに未成年のアイドル活動の実態に注目が集まっている。「夢」と引き換えに搾取される子供たちがいるのではないか。【宇多川はるか/統合デジタル取材センター】

「寝ぼけた事言えばブン殴る」

 亡くなったのはアイドルグループ「愛(え)の葉(は)Girls」のメンバーだった大本萌景(ほのか)さん(当時16歳)。遺族が当時の所属事務所だった「Hプロジェクト」(松山市)を訴えている。

 訴状によると、大本さんは2015年から同社に所属し、イベントなどで未成年にもかかわらず早朝から深夜まで平均10時間以上も拘束された。また、同社に「脱退したい」と伝えた際、スタッフから「次また寝ぼけた事言いだしたらマジでブン殴る」などとLINEでメッセージを送られたり、「辞めるのであれば1億円支払え」と言われたりといったパワハラを受けた。さらに、芸能活動について「口外禁止」の契約条項があり、家族にも相談できず一人で思い悩み、精神的に追い詰められ3月21日に自宅で自殺した--などとしている。

 提訴後に記者会見した大本さんの母幸栄(ゆきえ)さん(42)は「最愛の娘を亡くした。娘が残した言葉の意味を会社側は裁判を通してしっかりと話してほしい」と訴えた。これに対し、同社はパワハラを否定し、争う構えだ。

つらい時は「逃げ出せばいい」

 遺族提訴の報道に、ツイッター上でこんな反応があった。

 <同じような生活を中高時代に強いられた子たちをたくさん知っている>

 一般社団法人「Colabo(コラボ)」の仁藤夢乃(にとう・ゆめの)代表の投稿だ。東京の渋谷や新宿で夜の街をさまよう女子中高生の居場所作りに取り組んできた。報道に接して「アイドル活動で孤立し、心身を壊した子たちが思い浮かびました」と語る。

 ある少女は、所属事務所から事前に仕事の詳細を知らされないまま会場に行き、いきなり水着や体のラインを強調するようなピチピチの服を着せられた。「やりたくない仕事だったと泣いていました」(仁藤さん)。他にも「有名メンバーが熱を出し、代わりのメンバーが深夜から寝ないでフリを覚えた」「過酷なダンスレッスン中に過呼吸で倒れた」「研修生という名目で、早朝から深夜まで無給で働かされた」などの話をよく聞いた。

 仁藤さんは、こうして追い詰められた子供たちが自分を責めてしまう傾向を懸念する。「『芸能界とはこういうものだ』『事務所は夢を応援してくれている』と思い込まされ、メディアもその過酷さを『美談』のように伝えてきました。まだ子供なのに心身を支配される。虐待ですよ」と仁藤さんは言う。「だからこそ『逃げたらダメ』ではなく、『つらく苦しい時には逃げ出せばいい』と伝えたい。つらい時に支えてくれる大人たちの存在も大事だと思います」

アイドル急増で全国に1万人?

 「実際ここ2、3年ほどで、アイドル活動を巡るトラブル相談が急増している印象がある」と語るのは、芸能人の権利擁護に取り組む弁護士グループ「日本エンターテイナーライツ協会」の河西邦剛弁護士だ。河西さんの事務所だけでも芸能活動を巡り毎月数十件の相談が寄せられている。約半数が未成年のアイドル関係者からの相談で、所属する芸能事務所による過重労働やパワハラ、セクハラを訴える声が多いという。同協会の弁護士たちは大本さんの訴訟で遺族側の弁護も担う。

 河西さんは、メディアの多様化などを背景にアイドル人口が増え、それにつれてトラブルも増加していると考えている。アイドルの人数について正確な統計はないが、一説には1万人いるとも言われる。約20年前、活躍の場は主にテレビだったが、インターネット動画の登場で10年代に様相は大きく変わった。誰でも手軽にネット上で歌って踊る姿を伝えることができる。「アイドルになりたい子のうち、限られた一握りがテレビに出られる時代から、なりたいと思えば『なれる』時代になったのです」(河西さん)。一つのグループに大人数が属し、ライブハウスで活躍してファンとの距離を縮めた「AKB48」ビジネスの成功も、この流れを後押しした。

国は「地下アイドル」対策検討を

 アイドルが増加し、所属事務所も増えた。「運営主体は、テレビに売り込める大手事務所が主流だったころと違い、今は『芸能プロ』と名乗っていても、ノウハウも実績もない元アイドルファンによる個人事務所だったりする」と河西さんは言う。こうした事務所には大手メディアに露出せずに地方などで活動する「地下アイドル」が所属するケースが多く、トラブルも多発しているという。

 「事務所にとって少女たちは『商品』ですが、ノウハウがなければライブハウスでコンサートを開いても数人しか客が来ないこともある。利益は上げられないが『商品』が逃げ出すのは困るので、恐怖と契約で少女を縛るところも出てくる」と指摘する。

 アイドルを夢見る少女たちは活動の場を失いたくないと思い、事務所に身を委ねる。河西さんは言う。「無給は当たり前、奴隷と言われてもステージに立ちたい、という姿勢の子供が少なくありません。給料を払うプロのマネジメントか、単なる労働力の搾取なのか線引きがあやふやな中で、非常識な運営がまかり通っています」

 同協会は、特にリスクが高い「地下アイドル」について、悪質な事務所に対する法的対応や、未成年の健康、学習権の保障に配慮したガイドラインの策定など国にしっかりとした対策を求めていく構えだ。河西さんは「芸能人の契約は、業界の特殊性から一般の労働契約と比べて複雑かつ専門的で、保護者でも契約の適否の判断が困難な部分もある。業界に応じたルールを検討し、未成年が安心してアイドルを目指し、活躍できるようにすべきです」と強調する。

中森さん「芸能活動を学校の部活に」

 アイドルの増加自体は、夢をかなえる少年少女たちが増えていることを意味する。「活動形態やメディアの多様化は、さまざまな可能性を生み出しています。アイドルたちはテレビへの依存から抜け出し、簡単に消えてしまうこともないでしょう」。そう語るのはアイドル評論家の中森明夫さんだ。

 「いまや無名のアイドルがどこのまちにもいて、まちおこしに携わって地域を盛り上げている」。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」の主人公たちが「ご当地アイドル」として震災復興に尽力する--という物語の設定は記憶に新しい。立憲民主党の枝野幸男代表ら政治家も公然と「アイドル好き」を自称する時代になっている。

 大本さんの死について中森さんは「痛ましく残念だ」と哀悼の意を表し、「アイドル業界は事業参入のハードルが下がり、過重労働やパワハラ、セクハラ被害が一部で横行している。保護者は『芸能界は特別』などと考えず、労働条件を冷静に、常識的に判断してほしい」と呼びかける。

 そして、中森さんは大胆に提案する。「アイドル活動を『可愛い子が歌って踊らされるもの』ととらえず、日本特有のクリエーティブなカルチャーとして根付かせたい。そのために、芸能を学校の部活動にするのです。学校に『アイドル部』ができれば、子供たちは演出やプロデュースも学ぶことができます」。部活動に地域の人々もかかわれば、多くの大人たちが子供たちを見守ることができる。「大本さんの件でも、学校が関与していれば防げた可能性もあったのではないか。社会の隅々にまでアイドル活動が広がった実態を踏まえ、教育の観点からもアイドルカルチャーを考えるべきです」

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