YouTube Music上陸を歓迎する日本の音楽業界、各サービスが日本市場でしのぎを削る中

YouTube Music上陸を歓迎する日本の音楽業界

各サービスが日本市場でしのぎを削る中、YouTube Musicが登場

 11月14日、YouTube Musicが日本でも正式にローンチした。2015年に相次いで始まったApple Music、AWA、LINE MUSIC、遅れて始まったSpotifyなどに続き、日本における最後の大物登場といった趣がある。グーグルが提供するサブスクリプション型の音楽サービス(以下、サブスク系サービスと表記)という意味では、Google Play Musicが存在したが今後、YouTube Musicに統合していくそうだ。

 2015年6月にLINE MUSICが始まる際、LINE MUSICの幹部は着うた最盛期のユニークユーザー数2000万人という数字を引き合いに出し「市場全体で同程度のユーザー数を集めることができればうれしい」といった趣旨の発言をしていた。現状では、図のように各サービスが日本市場でしのぎを削る状態だが、一部には「想定どおりのユーザー数を集めることができていない」(アグリゲーター幹部)のが実情だ。

 各社ともに、正式な数字を公表していないので、業界内で囁かれるウラ取りができないユーザー数しか手元にはないのだが、「Apple Musicで100万ユーザーに達するかどうか、LINE MUSICやSpotifyは、それぞれ数十万ユーザーといったところではないか(すべて有料ユーザー)」といった言説が流布している。「Spotifyは2年で100万ユーザーを目指していたが未達成」(関係者)という声も聞こえる。

ストリーミングサービスが敵ではないことに気づいた音楽業界

 ユーザー数の真意の程は別にしても、多くの業界人にとって、海外ニュースで伝えられる「Spotifyの有料ユーザー数が8000万人を超えた」「Apple MusicがSpotifyを抜いた」といった景気の好い話との格差に愕然とせざるを得ない。そこにやって来たのが、YouTube Musicだ。「スマートフォンとYouTubeが日本の音楽市場をめちゃくちゃにした」(関係者)という被害者意識的呪縛から逃れられない物理メディア依存型業界人にとっては、呪詛すべき存在の本家本元が乗り込んできたわけだから、怨嗟の対象にもなろうかと想像するのだが、どうも様子が違う。

 諸手を挙げて歓迎という雰囲気はないのだが、抵抗勢力がうごめく様子はなく、YouTube Musicの上陸を淡々と受け止めている印象だ。それには理由がある。日本におけるサブスク系サービスの本格開始から3年余、まだまだ発展途上とはいえ、この手のサービスにおける自社音源の販売状況や売上の推移が明確な数字となってわかるにつれ、「敵ではないのかもしれない。ちゃんと育めば利益を確保できる」ということに気づいたのではないか。

 ここで、弱小インディとして、音楽制作業を営む筆者のレーベルの例を示そう。弊社のカタログ曲数は、わずか2000曲程度であるにもかかわらず、サブスク系サービスからの売上は、ダウンロード販売の落ち込みを補ってなお右肩上がりで、毎月、増加傾向にある。カタログ曲数が少ないので売上の絶対値は大したことはないのだが、右肩上がりを続けているという事実が大切なのだ。

 アルバム数が徐々に増え楽曲のカタログ数が増加していることは確かなのだが、カタログ数の増加率に対し売上の上昇率の方が勝っているので、サブスク系サービスそのものによる売上上昇効果を感じている。従来であれば死蔵ストックであった音源がストリーミングされることで「チャリンチャリン」とお金を稼ぐストックビジネスの形ができ上がりつつあるのだろう。

 筆者のような弱小インディレーベルでそれを感じるだけに、これが、数十万曲、数百万曲というカタログ数を誇る大手レーベルだったらどうだろうか。チャリンチャリン効果は、さらに大きなものになっていることは想像に容易い。つまり、多くの業界人が「サブスク系サービスの売上効果に気付かされた」といったところであろう。

Mr.Children、椎名林檎、井上陽水、松任谷由実など大物アーティストが続々と登場

 Mr.Children、椎名林檎、井上陽水など、これまで様子見だった大物アーティストのストリーミング配信も続々とスタートしていることが、それを物語っている。9月には、松任谷(荒井)由実の全424曲配信も主要なサービスで一斉にスタートした。彼女ほどのビッグネームと楽曲数であれば、今後継続的に累積されるストリーミング数は、膨大なものになるであろう。ステイクホルダーの面々は、新旧の楽曲から得られるサブスク系サービスによるストックビジネスの醍醐味を、堪能しているのではないだろうか。

 そのような状況だけに、音楽を供給する側からすると、販売のチャンネルが増えるれば増えるほど、売上的には有利になる。チャンネルが増えたからといって提供コストが増加するわけではないからだ。サービス事業者のサーバーに置いておけば、チャリンチャリンと将来的な売上が見込める。従って、YouTube Musicのような有名サービスが新たにローンチすることは、基本的には歓迎なのだ。実際、筆者のレーベルの音源も、YouTube Musicに対し、喜んで追加の許諾を出した。

 かつて筆者は、「サブスク系のストリーミングからの売上は、パッケージメディアやダウンロード販売として50分の1になる、いや、100分の1だ!」などと危機感を感じそのような記事を書いた。iTunesにおけるダウンロード販売の場合、150円の楽曲が売れると60〜80円の収入がある。一方、サービスの全売上を総ストリーミング数で按分し、それを各楽曲のストリーミング数に応じて分配するApple Musicの場合、1ストリーミングあたりの収入が0.4〜0.6円前後という、めまいすら覚える数字に愕然としたからだ。

 だが、今から思えば、ダウンロードとストリーミングは、配信形態がまったく異なるだけに単純比較はできない。ユーザー目線で考えても、クリックで課金が発生するダウンロード配信と、課金抵抗感のない聴き放題では、音楽に対するアプローチもまったく異なる。いまさらながらに、当時の心痛が杞憂だったことに安堵する。

dヒッツやレコチョの利用率が低迷すればレーベルは潤う?

 サブスク系のサービスにおける単価について、やじうま的余談を披露しよう。全売上を総ストリーミング数で按分するサブスク系のサービスでは、1ストリーミングあたりの単価について面白い現象が起きる。インプレス総合研究所が2018年3月に調査したサブスク系サービスの利用動向調査がある。利用率に注目すると、Prime会員を有するAmazon系が47.6%とダントツで、Apple Musicの10.6%、LINE MUSICの8.1%と続く。

 一方、350万契約(2017年3月)を誇るNTTドコモ系の、dヒッツが5.1%、レコチョクが1.3%と低迷している。Apple MusicやLINE MUSICよりはるかに多いユーザー数を擁するNTTドコモ系の利用率がなぜここまで低いのか。理由は、レ点営業にある。その多くは、NTTドコモのショップ店頭での抱き合わせ契約で獲得したと思われるユーザーだけに、皆その存在を忘れておりサービスの利用率が上がらないのだ。

 一部のNTTドコモ系サービスの場合、そこまで単純ではない面もあるのだが、他のサービス同様、基本的には全売上を総ストリーミング数で按分する形になることから、売上が多く、総ストリーム数が少ない状態だと、1ストリームあたりの単価が上昇する。そうなると、ランキングの上位に位置するストリーム数の多い楽曲は、他のサービスと比較してかなりの利益を得ることになる。もしかしたらその単価は、ダウンロード販売以上に上昇する可能性もあるわけだ。メジャーレーベルからすると、NTTドコモ系サービス様様といったところであろう。

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