ミナミ一等地 損壊空き家放置 台風被害 所有者特定が難航
大阪・ミナミの玄関口に、9月の台風21号の強風で大きく損壊した空き家が放置されたままになっている。南海難波駅近くのスクランブル交差点にあり、終日多くの人や車が行き交う。大阪市は対処するため所有者を捜しているが、特定できないままだ。近隣住民からは「次に大きな台風が来れば倒壊するかも。早く対処してほしい」と不安の声が上がっている。(小松大騎)
「なぜ、ミナミの一等地にお化け屋敷みたいな空き家が放置されているのか」。外壁や屋根などが崩れ、がれきが積み上がった木造2階建ての空き家を見ながら、通行人の男性会社員(34)がつぶやいた。
近隣住民によると、空き家は平成25年ごろまで80代くらいの男性らがカメラ店を営んでいたが、体調不良などから店をたたんだ。その後、月1回のペースで男性が訪れて換気や掃除などをしていたが最近は姿を見かけなくなったという。築年数は少なくとも50年以上とみられる。
9月4日に近畿地方に上陸した台風21号の暴風で、空き家は大きく損傷。周辺の歩道や道路上には木材などが飛散して一時通行不能になった。隣の飲食店の男性従業員(41)は「このまま放置すれば夏場に虫がわいたり、次の台風で倒壊したりするかもしれないので不安だ。早く撤去してほしい」と憤った。
一方、大阪市は今年6月に、大阪府警南署から「道路側に傾いている空き家がある」と連絡を受けて存在を把握したという。その後、台風21号の被害で空き家の倒壊の危険性や衛生状態が急速に悪化したことを受け、市が「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づき、自治体が所有者を特定して撤去や修繕の指導や命令などを行える「特定空家」に認定した。
大阪市は9月末から土地や建物の登記簿を調べているが、所有者を特定できず、空き家を放置せざるを得ない状況が続いている。担当者は「古い住宅の場合は土地や建物の権利関係が複雑で、所有者の特定に時間がかかる。住人が死亡した後も登記が残っているケースも多く、法定相続人を探すとなればさらに膨大な時間が必要だ」と説明する。
使用されないまま放置される空き家の対策は全国的な課題だ。国土交通省によると、今年3月時点で全国では1万676件が特定空家に認定され、このうち行政が所有者に代わって空き家を強制撤去する「行政代執行」は23件で、所有者が判明しない場合の「略式代執行」は75件だった。全国的に空き家数は年々増加しているが、所有者にたどり着くことが困難なケースが相次いでいるという。
空き家問題に詳しい岩手県立大の倉原宗孝教授(住環境計画)は「行政が認定せずに、表面化していない空き家は全国にもっとある」と指摘。老朽化した空き家は台風や地震などの際に火災や倒壊などの二次災害が起きる恐れがあるとしたうえで「地域住民も行政まかせにするのではなく、普段から危険な空き家に目を配り行政に情報提供するなど連携して空き家問題を考えるべきだ」と話している。