「女性のニーズに対応しよう」400万DLの女性向けアプリを立ち上げた、新卒男性リーダーの成長

400万DLの女性向けアプリを立ち上げた、新卒男性リーダーの成長

 「女性にウケる商品を!」「女性のニーズに対応しよう」という掛け声に頭を悩ませている人は多いのではないだろうか。当事者である女性社員に任せてしまおう、という方法も一つの手かもしれない。

 だが、成果を出す方法は他にもある。女性向けサービスを立ち上げ、ヒットさせた男性もいる。情報キュレーションアプリを運営するGunosyグノシー)の渡辺謙太さんだ。新卒3年目ながら、執行役員 LUCRA事業部部長を務める。渡辺さんは女性向け情報を配信するアプリ「LUCRA(ルクラ)」の立ち上げに入社1年目から参加し、その後「プロダクトオーナー」に抜てきされた。2017年5月にリリースしたLUCRAは約1年半で400万ダウンロードを達成(18年10月時点)。成長を続けている。

 細やかな“女性目線”が必要なアプリ開発の分野で、どのようにサービスをつくり上げていったのか。若手社員がチームをまとめる難しさも感じたという渡辺さんに、LUCRA立ち上げの経験について聞いた。

男性だけで始まったアプリ開発

 LUCRAは、10代後半~30代の幅広い世代の女性に向けて、さまざまなトレンド情報などを発信するアプリ。美容、ファッション、ライフスタイル、恋愛、子育て、グルメなどがテーマとなるメディアの記事を独自のアルゴリズムで収集し、配信する。1日の配信本数は1200本以上に上る。

 「女性向けの新サービス」を立ち上げるために、開発が始まったのは17年2月。渡辺さんは大学在学中にインターンシップ生としてGunosyの事業に携わり、16年4月に新卒社員として入社。Webメディアの企画や開発を担当していた。新サービスの開発メンバーとして声をかけられたものの、開発チームは「最初は1人だけだった」という。当時のCTO(最高技術責任者)にサポートしてもらいながらのスタートだった。

 その後、エンジニアを2人採用し、アプリ開発を本格化させた。しかし、男性だけの開発チームはいきなり壁にぶつかった。女性が好むコンテンツや「かわいい」デザインを調べ、それを反映してアプリの試作を重ねたが、「実際に女性に見てもらうと、『違和感がある』という声が絶えませんでした」

「ネイル」と「美容」は別? 感覚が分からない

 女性目線で“違和感がある”と指摘されたデザインの一つが、画面に表示させる記事をカテゴリーごとに切り替える「タブ」の分け方だ。「この情報とこの情報は一緒に見ないから、違うカテゴリーにしてほしい」という要望が寄せられた。

 例えば、「ネイル」に関する情報の扱い方だ。「男性から見れば、化粧品もネイルも『美容』の情報だろうと考えます。でも、ネイルの情報は『美容』とひとくくりにしてほしくない、単独で見たいという意見が多くありました。最初はその感覚が分かりませんでした」と渡辺さんは振り返る。

 カテゴリー分けに関する要望を反映し、実際のアプリでは、美容の分野でも「ビューティー」「ネイル」「ヘアスタイル」とそれぞれ別のカテゴリーに分け、タブで切り替えられるようにした。

 デザインは見え方が少し違うだけで、イメージが大きく変わる。細かい調整が必要な箇所は他にもたくさんあった。「良い」と思った工夫が逆効果になることも。「当初、文字の大きさや濃さは、『読みやすいように』と考えて設定したのですが、女性からの反応は『文字が大きい』『ダサい』でした」。細部にわたって確認を重ねながら、見せ方を決めていった。

 渡辺さんは「女性が当たり前のように知っていることを知らない、というのはディスアドバンテージ」だと感じていた。自分たちの不利な点を埋めるため、女性の関心が高いトレンドについて、チーム全員で共有することを心掛けたという。「女性向け雑誌を十数冊購読し、ランチの時間にみんなで読み合いました。トレンドをインプットする場を意図的に作るようにしています」

「自分にぴったり」のアプリになっていく

 渡辺さんは「LUCRAは世界観を好きになってもらうのではなく、『便利で役立つから使う』アプリにすることを重視しています」と話す。そのための試行錯誤は、アプリをリリースした後も続いている。継続して使われないと収益にはつながらない。飽きられない工夫が必要となる。

 そのための武器の一つとなっているのが“パーソナライズ体験の提供”だ。LUCRAの記事配信ロジックでは、上位表示される記事が機械学習によって選別されていく。自分がよく読む記事と同じカテゴリーの記事や興味を持ちそうな記事が優先的に配信されるようになるのだ。使い込んでいけば、自分にぴったりのアプリに変わっていく。

 この機能は、ユーザーのニーズに合った情報を提供するという意味で、コンテンツの質を向上させることにもつながっている。

 「当初はファッションのカテゴリー内で、プチプラ(安価)ブランドとハイブランドの情報が並んで表示されていて、そこも女性目線では違和感がありました。でも、読まれない記事は表示されなくなっていくため、ハイブランドの記事は自然と出なくなっていきました」と渡辺さんは説明する。LUCRAのユーザーはプチプラを好む人が多く、そのニーズに合ったアプリへと変化している。

 また、より使いやすいアプリにするために、ユーザーへのインタビューも継続的に実施している。使い心地や不便な点などを聞き取るほか、実際にアプリを使っているところを観察して、スムーズに使いこなせていない部分を把握する。さらに、LUCRAを使っていない人にもインタビューし、普段のスマホの使い方やライフスタイルなどについて質問するという。女性のトレンドやライフスタイルを常に念頭に置き、改良につなげている。

「腹を割って話す」ためのコミュニケーション

 若手でありながらチームをまとめる立場になった渡辺さん。最初は開発メンバーの3人だけだったチームは、今では10人以上の部署になり、さまざまな年齢や立場の人が所属するようになった。「チームが大きくなるにつれて、コミュニケーションの面で悩むこともありました」と振り返る。

 特に、自分よりも年上で経験もあるメンバーには、自分の意思や指示をうまく伝えれらなかった。「どうすれば動いてもらえるのか、分かりませんでした。なかなか腹を割って話すことができなかったんです」

 接し方や指示の出し方など、試行錯誤を重ねて学んだのは、「自分の“弱み”を素直に伝える」ことの大切さだった。チームメンバーの仕事を振り返るだけでなく、自分自身についての振り返りもメンバーと共有する。そして、「自分ができなかったことや苦手なことを1on1(1対1のミーティング)の場で伝えて、助けてもらうようにしました。できないことを素直に伝えると『こうやるといいよ』と教えてくれたり、得意な分野で助けてくれたりする人が増え、とても動きやすくなりました」

 今では「まだパーフェクトではないが、いいチーム」になった。これからもお互いの強みと弱みを理解し合い、より「腹を割って話せる」関係になっていきたいという。「事業をやっていく上で、業績が伸びているときとそうでないときもありますが、良くないときもみんなで頑張れる、変化に強いチームにしていきたいです」と意気込む。

 LUCRAは、コンテンツの改良と開発チームの成長によって進化を続けている。渡辺さんは「LUCRAをより大きなメディアにしていくことが最大のミッション」と語る。さらに、女性のライフスタイルや消費行動をサービスに生かす面白さを知ったことで、「女性向けサービスをさらに深掘りしてみたい」という目標もできた。

 「将来的には、100~200人が関わる大きな規模の事業を動かしていけるように、ステップアップしていきたいです」と話す渡辺さん。試行錯誤でさまざまな逆風をはねのけた経験は、キャリアの中で大きな自信になった。

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