郵便ポストの中身が丸見えに? 日本郵便がテクノロジーで描く、物流の将来像
手紙や封筒に切手を貼って、ポストに投函すると全国に届く──。存在が当たり前すぎて普段から意識することが少ない「郵便」は、私たちの生活に欠かせない社会インフラだ。国営時代から数えて約140年もの歴史を積み重ねてきた日本郵便はいま、テクノロジーの助けを借りて変革を生み出そうと試行錯誤している。同社が描く郵便の将来像を聞いた。
●郵便にも人手不足の波、対策は
2018年、日本全国には約2万4000カ所もの郵便局が存在する。年間取扱個数は、手紙やはがきなどの郵便物が約172億通、ゆうパックなどの荷物は約8億8000個に達している。
膨大な郵便や荷物の取り扱いがあることに加えて、日本郵便も物流業界全体が抱える人手不足の波は避けられそうにない。同業他社が行っている荷物取扱量抑制などの影響を受け、ゆうパックの取扱荷物は16年度に比べて25.6%増を記録。これは過去最多の数字となった。6月末には、安定的なサービスのための十分な配達員確保を理由として、法人向けに提供していた郵便物の集荷サービスを廃止した。
一部報道では、郵便法で定められた月曜日から土曜日の郵便配達を、平日のみ(速達と書留は除く)とする法改正について、総務省が議論を始めたとも報じられている。
通販の普及などで人々のライフスタイルが変わりつつある中、日本の物流で重要部分を担う日本郵便は、どのような体制でこの変化に対応するのか。
●「郵便・物流事業は想像以上に人手が掛かる」
「物流業界全体として、電子商取引(EC)市場の発展による取扱物量の増加と人手不足の問題は大きな課題であり、日本郵便も例外ではありません」──日本郵便の瀧本直哉主任(事業開発推進室)はそう話す。
配達の効率化は物流業界全体の課題でもある。国土交通省の調査によると、宅配便全体の取扱個数のうち、約15%が再配達によるものとなっている。これを受け、日本郵便は荷物の再配達問題にも取り組んできた。コンビニ店舗などを活用した荷物の受け取りサービスや、郵便局や店舗に設置した宅配ロッカーで荷物を受け取ったり発送したりできるサービス「はこぽす」など、受け取りチャネルの拡大だ。
「現状は現場の力で対応できていますが、これからも物量が増えるのは間違いありません。現場を助けるために、テクノロジーを活用したいと考えています」(瀧本主任)
これらの背景を踏まえて日本郵便が17年から取り組んでいるのが、テクノロジーを活用して郵便や物流の課題を解決しながら、新規事業創出を目指すオープンイノベーションプログラム「POST LOGITECH INNOVATION PROGRAM」だ。
●ベンチャーと共創、テクノロジーで課題解消を目指す
ベンチャーキャピタルのサムライインキュベート(東京都品川区)と共同で行うこのプログラムは、郵便や物流が直面している課題解決をテーマとして、スタートアップ企業からアイデアを募るものだ。採択された企業は、サムライインキュベートからの出資を受けられる他、日本郵便が持つ郵便局や郵便ポストなどの拠点・設備、配達車両などを使った実証実験を行えるなど、アイデアの早期実用化に向けた支援を受けられる。
このプログラムで掲げるテーマは「郵便・物流のバリューチェーン全体をテクノロジーで変革する」というもので、さらに個別テーマとして「物流拠点におけるオペレーションの自動化・見える化」「郵便配達エリアの最適化とポスト内の見える化」「郵便局間における運送便ダイヤの最適化」「国際郵便などのオペレーション効率化」などが挙げられている。これらを見渡すと、未来の郵便をイメージするヒントが浮かび上がってくる。
テーマを設定した背景について、瀧本主任は次のように説明する。
「プログラムで示されたテーマは、日本郵便が実業務の中で抱える問題を具体化したものです。例えば、物流拠点で重い荷物を運ぶのは郵便局員の大きな負担です。荷物を配達先住所の都道府県に振り分けるのは機械が行っていますが、トラックからの積み降ろしは人が行っている。これらをロボティクス技術による自動化などで、作業の軽減が図れないか模索するものです」(瀧本主任)
物流業界のロボティクス活用例としては、Amazonが物流拠点などに導入しているロボット在庫管理システム「Amazon Robotics」などが注目を集めた。拠点をロボットが縦横無尽に走り回り、在庫商品を運ぶ仕組みだ。
しかし、これは取り扱う商品が決まっているからこそなせる技でもある。宅配便を取り扱う日本郵便の拠点では、単純に各工程を機械化することは難しい。
「個人の宅配便は荷物によって梱包される箱のサイズや袋の種類が異なり、さらには壊れやすい物などもあります。形や重さは千差万別です。それらを識別して取り扱わなければいけません」(瀧本主任)
●ポストが同じ場所に2つ並ぶ? テクノロジーで解決したいこと
物流拠点で改善が見込める点は他にもある。例えば、郵便局から県外の郵便局などに荷物を運ぶトラックの運行ダイヤだ。現在は、熟練した社員が長年培った経験則に頼っているところが大きいという。
「実際にトラックがどこに移動したのか、荷物量は、郵便局へ一度に入れるトラックの数は──といった情報を細かく分析することで新しい発見があるのではと考えています」(瀧本主任)
荷物を配達先に届ける直前(ラストワンマイル)にもテクノロジーの活用を見込む。17年に行われたPOST LOGITECH INNOVATION PROGRAMの採択企業である名古屋大学発ベンチャーのオプティマインド(名古屋市)は、AI(人工知能)を使った郵便配達ルートの最適化を行う仕組みを開発し、現在は東京と名古屋で試験的に運用しているという。
オプティマインドはこの技術を使うことで、これまで人の手で行ってきた配達ルートの作成を自動化し、新人でもベテランレベルの効率的な配達ができることを目指すという。
街にある郵便ポストにも創意工夫の芽はある。例えば、ポストの中身を可視化することで郵便物の集荷を効率化するというものだ。都心部などでは郵便ポストが同じ場所に2つ設置されていることがあるが、これは郵便の差し出しが集中する場合がまれにあり、一方のポストが郵便であふれてしまうことへの対策が主な理由だ。現状は集荷の回数を増やすことで対応しているが、ポストの中身を前もって知ることができれば、少ない人員で効率よく回れるようになる。
「人の目でしか確認できなかったものが機械で確実に確認できるようになれば(課題解決の)選択肢が広がるはずです」(瀧本主任)
●ドローンを使った郵便配達は現実化するか
物流業界ではドローンを使った荷物の配達などを検討する動きもあるが、本当に実現するのか疑問に思う人も多いだろう。日本郵便では、近い将来にドローン技術を配送分野に導入することを見込んでおり、16年から国交省などと共同で、実証実験を行ってきた。
現時点では、障害物が多い都心部では、ドローンを飛ばすには解消すべき課題が多くあるが、山間部や過疎地、離島などでは、郵便局から郵便局、または郵便局から配送拠点までといった使い方では実現できる可能性は高い。
「ドローンや自動運転車による配達が実現すれば、配達の風景は大きく変わるでしょう。しかし、郵便局の一番の強みともいえる、顔と顔を合わせるFace to Faceのつながりは変わらないと思っています」(瀧本主任)
●人々の生活に寄り添う、必要不可欠な社会インフラとして
17年に始まったオープンイノベーションプログラム。実際にスタートアップ企業からは、日本郵便の社内では思い付かないようなアイデアや、瀧本主任らが驚くような新技術を続々と提案されているという。
新規事業を推進する部門だけでなく、経営陣も含めた企業全体が郵便や物流の課題に対する危機意識があるからこそ、一体となって取り組めていると瀧本主任は話す。
「郵便局の社会的使命は、地域に寄り添いながら支えることです。これは、どんなにテクノロジーを取り入れようとも、何ら変わるものではありません」(瀧本主任)
