なぜベンツのミニバンは売れないのか?オーナーが語る最新Vクラスの魅力

なぜベンツのミニバンは売れないのか?──オーナーが語る最新Vクラスの魅力

メルセデス・ベンツの「Vクラス」は、国産ミニバンの陰に隠れてしまいやや地味な存在だ。とはいえ、“メルセデスのミニバン”という響きに気になる向きも多いはず。そこで、実際にVクラスを所有するモータージャーナリストの橋本洋平に“本音”を語ってもらった。

妻の意見に押されて購入したVクラス

メルセデスベンツのラインナップ中、唯一のミニバンがVクラスだ。そう聞くと、「きっと豪華なんだろう」と期待する向きも多いだろうが、それは半分くらい合っていて、半分は当たっていないというのが本当のところ。

現行型のW447になり、コクピットまわりはCクラスと同等の装備やクオリティを得ることに成功したが、一方で各席のシートは小ぶりであり、硬さを伴うやや商用車チックな部分が存在する。

Vクラスはメルセデス・ベンツの商用車部門が仕上げたと聞けば納得いくかもしれないが、日本のミニバンのようにオットマンが装着されてエンタメも満足……と、何もかもが至れり尽くせりで、お茶の間のように扱えると思ったら大間違いである。

なぜにそこまで言い切れるのか? それは僕自身がVクラスのオーナーだからだ。国産のミニバンを所有したあとに行き着いたのだが、実は妻の意見に押されて購入しただけの話。ハッキリ言えばノリ気じゃなかった。だからこそ武骨な乗り味には眉をひそめるばかり。「どうせブランドイメージや上品な見た目にダマされたんだろう!」と、ややVクラスをナナメに見ているところがあった。

大きさは慣れの問題

だが、1年半にわたって使い続けてくると、いつの間にかVクラスの良さにやや洗脳されはじめている自分がいることに気づく。硬さを伴うシートは、ロングドライブでは逆に疲れないのだと実感した。

また、全幅が広すぎると感じていたが、FRレイアウトを採用したことで、フロントタイヤがシッカリと切れることもあって小まわり性能も十分。都内の住宅街であっても、それほど取りまわしに難しさを感じることもない。360°カメラによって映し出される合成処理された俯瞰画像が、取りまわしのしやすさをさらに高める。

我が家のVクラスはシリーズ中、最も全長が短い“標準”モデルだ。国産ミニバンと同等の長さということでそれを選んだが、運転に慣れるとロングボディ仕様を選択しても良かったのではないか、と思い始めた。

いずれにせよ、ボディの大きさは慣れの問題であり、それを気にしてVクラスを諦める必要はないだろう。ちなみに現在販売されるVクラスは全長4905mmの標準ボディ、全長5150mmのロングボディ、そして全長5380mmのエクストラロングボディの3タイプをラインアップする。

走りや安全性はメルセデスの名に恥じない高レベル

そして走りもなかなかだ。国産のミニバンに比べればかなりのロングホイールベース(標準車とロングは3200mm、エクストラロングは3430mm)となるVクラスは、高速走行時の直進安定性が高く、実に快適に突き進んでくれる。

また、路面からの入力をしなやかにいなす足まわりは、ストロークをタップリととりながらフラットライドを実現する。また、コーナーリングも悪くない。走行状況に応じて減衰力を調整してくれるセレクティブダンピングシステム・「AGILITY CONTROL」を採用するからだ。

通常走行時にはしなやかに、急激なコーナーリング時などには減衰力を高めて車体をシッカリと支えてくれる。背が高く、標準ボディでも2.3トンを超える重量があるVクラスではあるが、意外にもシャシー性能は優れているのである。

さらに、突然の横風を受けた時は、「クロスウインドアシスト」によって車体を制御する。これは時速80km/h以上で走行中、横風によって走行ラインが乱れそうだとESPが判断した場合、片側のブレーキ制御をおこない、走行ラインをキープしようとするもの。アクアラインを走行中にそれが作動した経験があるが、これは背が高いミニバンにとっては有難いと感じた。

くわえて、メルセデス・ベンツのウリのひとつである先進安全装備群「Radar Safety Package」によって、衝突リスクを軽減するのも魅力だ。「ディストロニック・プラス」によって先行車両との車間をキープしたクルーズコントロールを実現することは、ロングドライブにおける疲れを軽減する。シャシーを磨き上げつつ、リスクマネジメントにも気を遣うところは、さすがはメルセデスと思える部分だ。

ただし、ロングホイールベースを採用する弊害は少なからずある。よくある輪留めに合わせてクルマを駐車させるとフロントノーズが飛び出ることになるのだ。国産のミニバンと比べ、リアタイヤが後ろ寄りになったことで、オーバーハングが短くなるからだ。自宅駐車場なら輪留めを移動して対処すれば良いかもしれないが、出先では“運転ヘタクソ”に見えてしまうところが残念な部分でもある。

動力性能や燃費は良好! ただしディーゼル特有のデメリットも

動力性能については、全グレード共通の2.2リッター直列4気筒ターボディーゼルを採用しているおかげもあり、低速域から力強く、ストレスが溜まるようなことはない。採用する電子制御可変ターボチャージャーは、吸気側ブレードが可変する。だからこそ、低速では鋭く立ち上がり、高回転でもシッカリとパワーがついてくるのだ。巨体をものともせずにスピードを上げて行く様は、頼もしさすら感じる。

燃費についてもJC08モードで15.3km/Lをうたうが、実際に使っていても、12~13km/Lは必ず約束される燃費には満足している。しかも使う燃料は軽油であり、日々の出費が減少した点はありがたい。“大きい、重い、だけど走る”となれば、きっと燃料代は嵩むだろうと思っていたが、これは嬉しい誤算だった。

ただし、ディーゼルエンジンはメリットばかりではない。振動や音に関してはガソリンエンジンやハイブリッドなどと比べてしまえば明らかに劣る。室内に伝わる音に関してはかなり軽減されているが、フロア振動や室外騒音についてはそれなりに発生する。これは慣れの問題もあるのだろうが、静かなクルマに親しんでいる人々なら、はじめは面食らう部分だろう。

シートアレンジは諦めよう

インテリアについては前述した通りのシートがいかにも商用車チックだが、話はそれだけに終わらない。それはシートアレンジがとにかく厄介なのだ。

2列目シートはキャプテンシート、3列目はベンチシート風の3人乗りとなるのだが、この3列目シートを折りたたむのがとにかく重たい。しかも荷室はフラットにはならず、折りたたんだとしてもシートが多少小さくなるくらいの話。

もしも荷室を満足に使いたいのであれば、“シートを外してどうぞ”という造りになっている。ベンチシート風の3人乗りシートは、1人乗りのシートと2人乗りシートの2分割になっていて、それを外すことになるのだが、1人乗りのシートでおよそ20kg、2人乗りシートがおよそ40kgとひとりで外すにはぎっくり腰になることを覚悟の作業が待っているのだ。

1度それにトライしたことがあるのだが、もうやりたくはない。それにこのシートをどこに放置して行けばいいのだろう? 広大な室内ガレージを持つユーザーならともかく、我が家のような青空駐車場の場合、シートを放置して外出というのは非現実的だ。

もしも荷物を多く積みたいのであれば、ロングかエクストラロング仕様をオススメしたい。そうすればシートアレンジの問題はなくなる可能性が高い。

ちなみに、テールゲートは電動開閉できるが、ガラス部分だけを手動で開閉出来るのは重宝する。普段使いはそれだけで十分こなせるのだ。

細かな改良で魅力的なミニバンへ

気になる部分も色々とあるVクラスではあるが、近年は改良が進み市場の声にも耳を傾けていると思えるところが多くなってきた。

ディーゼルエンジンに採用する排出ガス浄化システム「BlueTEC」は、排出ガス中にAdBlue(尿素水溶液)を噴射し、有害物質を軽減するが、このAdBlueタンクが初期型は小さかった。実質1万kmちょっとでカラになる計算だったが、改良によって倍増した。

また、インテリアに対する不満も解消すべく、オットマンをオプションではあるが設定した。2列目以降をフルフラットに出来るよう改良したモデルもある。さらに標準ボディにも、これまでなかったスポーツグレード(革シートやAMG仕様のバンパーやホイールを装備)を用意した。極めつけはポップアップルーフを装備した「マルコポーロホライゾン」と呼ぶモデルをラインアップするまでに成長したのだ。

こうなるとVクラスという選択も大いにアリだと思う。やや商用車チックな部分もあるのは事実ではあるが、使えば使うほど道具として頷けるところも多いクルマだ。使い倒してこそ味が出てくるその造りは、気になる向きにはぜひとも試して欲しい、と素直に勧めたい。

目先の豪華さだけではなく、クルマとしての本質を磨き込み、安全装備まで配慮したその造り込みは、メルセデスのエンブレムを掲げるに相応しい。きっと長く愛せる相棒となってくれるのは間違いないだろう。

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