4Kテレビで「4K放送」が見られない深刻問題、4K放送開始の認知度はわずか12%

4Kテレビで「4K放送」が見られない深刻問題

 「4Kテレビを購入されるお客様から、4K放送を見たいという声はほとんどない。放送が始まっても、チューナーを買って視聴するという流れにはならないと思います」――。大手家電量販店の店員はそうつぶやいた。

 新4K・8K衛星放送の開始まで4カ月を切った。4Kは現行のフルハイビジョンの4倍の画素数があり、高精細かつ臨場感のある映像が実現できる。現在、4KコンテンツはCSの一部やケーブルテレビで放送されており、ネット動画配信サービスでも視聴できるが、12月から新たにBS・110度CSで放送が始まり、視聴者にとってより身近な存在となる。テレビ業界にとっては2011年の地上デジタル放送移行に続く”大きな節目”だ。

■4K放送開始の認知度はわずか12%

しかし、4K放送を視聴するには店頭で販売されている4K対応テレビを購入するだけでは視聴することができない。実際には4K対応テレビに加えて、専用チューナーが必要になるケースが大半だ(アンテナなどの機器や配線の交換が必要なこともある)。昨年来、複数のメディアで指摘されてきたが、いまだに多くのユーザーがこの事実を知らない。

 5月に放送サービス高度化推進協会(A-PAB)が公表したウェブ調査(5000人が対象、2月実施)は驚きの結果だった。4K放送の視聴に際し、テレビに加えてチューナーが必要なことを知っていたのはわずか13.0%、4Kテレビ所有者でも34.8%にとどまった。このままでは「4Kテレビを買ったのに、4K放送が見られない」という事態が続出すると考えられる。そもそも、2018年に4K放送が始まることを知っていたのも12.2%と低水準だった。

 昨年来、総務省はチューナーの必要性が知られていないことなどから、周知・広報の強化に乗り出している。視聴方法などを示したリーフレット(A-PABが制作、総務省と経済産業省が監修)の刷新に加え、テレビの価格表示の周辺に説明書きのポップを掲示すること、カタログや取扱説明書に注意書きを加えることなどを要請し、量販店やメーカー各社との連携を進めてきた。

 だが8月上旬、秋葉原、東京、有楽町、上野、池袋と、都内の主要駅近くの家電量販店の売り場を歩いてみたものの、業界大手の店舗ではポップの掲示を見つけることができなかった。積極的に取り組む中堅の店舗もあるというが、足並みはそろっていない。

 リーフレットは特段、目立つ場所に置かれておらず、店員に質問を投げかけてみても、必ずしも4K放送の視聴方法について説明されるわけではない。これでは、顧客が4K放送視聴における注意点を知るのは無理がある。総務省は注意書きのポップを掲示しない店舗があることを認識しており、さらに働きかけを強める方針だ。

■慎重姿勢の各メーカー

 とはいえ、ひとえに量販店に責任があるとも言いがたい。売り場で製品のマイナス面を大々的にアピールするわけにはいかないだろう。4Kテレビには液晶と有機ELがあり、多数のモデルが売り場に並ぶ。限られた時間で顧客のニーズを聞き出し、製品を選び、特徴から注意事項まですべてを説明するのは難しい。さらにいえば、そもそも大半の顧客が4K放送について知らないため、視聴方法を聞かれること自体多くないようだ。

 メーカー側はどうか。実は、現行の機種で4K放送が見られるのは、6月に東芝映像ソリューション(2018年3月から中国ハイセンス傘下)が発売したチューナー内蔵型の「4K液晶レグザ」しかない(10月以降に送付されるBS/CS 4K視聴チップを装着することで視聴可能)。

 ほかの大手メーカーはチューナー内蔵テレビの発売時期を明らかにしていない。各社に問い合わせると、「検討中」(ソニー)、「検討しており、タイミングを見て発売」(パナソニック)、「検討しているが詳細は未定」(シャ-プ)といった回答だった。放送開始の12月までに、各社のテレビが出そろわない可能性もある。

 各社がチューナー内蔵テレビの発売に慎重なのは、4K放送に対する認知度が低いため、より高価格になってしまう内蔵テレビのニーズを見極めたいという思惑があるからだろう。製品が先行していないことは4K放送の知名度が低い一因だが、メーカーの判断は合理的ともいえる。

 一方で、チューナーについては、パナソニックは10月中旬、シャープは11月下旬、東芝映像ソリューションは今年秋、ソニーは今年中に発売予定と公表している。チューナーの発売が放送開始に間に合わない、という最悪の事態は避けられそうだ。

 量販店やメーカーの事情に加えて、4K放送は、そもそも多くの視聴者を抱える地上波と無縁であること(地上波は今後もハイビジョンの放送を継続)。地デジ化の時のように、従来のテレビが見られなくなるわけではないこと。薄型テレビへの買い替えを狙った家電エコポイント制度(2009年開始)などの経済政策が打たれていないことも、周知が進まない一因だろう。

■視聴者に求められる知識

 今後は4K放送でどんな番組が放送されるかがポイントだ。秋頃には各局の放送内容が明かされる見通しで、視聴者の関心を引きつけられるかが勝負になる。民放首脳も「地デジ移行のときと同様、普及に必要なのは放送局がどんなコンテンツをそろえられるかだ」と語る。

 こうした動きに合わせ、A-PABは動画やテレビCMの放送、イベントなどに力を入れる。イベントではIT見本市の「CEATEC JAPAN 2018」(10月)や映像・通信の展示会「Iner BEE」(11月)などに出展。そのほか、総務省と連携した展示や地方の民放局、NHKと協力したイベントなどで一気に4Kに対する理解を広める考えだ。

 野田聖子総務相も、6月に行われた新4K8K衛星放送開始の半年前セレモニーで「チューナーやアンテナの交換などが必要になることをご存じない方が多数いる。視聴者に混乱が生じないよう丁寧な説明と周知徹底をお願いします」と呼びかけている。

 総務省をはじめ、関係団体や企業は、広報の強化と視聴者保護の取り組みを急ぐ必要がある。視聴者側も多少の知識は必要だ。現在、4Kテレビ購入を検討している人は、自分が見たいコンテンツが見られるのか、本当にニーズに合っているのか、機能や仕様をよく確認してから購入に踏み切るべきだろう。

田邉 佳介 :東洋経済 記者

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