日本の宇宙航空研究開発機構JAXA×宇宙ビジネス、世界初の共創プログラムとは?

JAXA×宇宙ビジネス、世界初の共創プログラムとは?

 日本の宇宙開発をリードしてきたJAXA(宇宙航空研究開発機構)が宇宙ビジネス振興にも本腰を入れ始めた。2018年5月、民間事業者等との共創により事業化を目指す新しい研究開発プログラム「宇宙イノベーションパートナーシップ(通称:J-SPARC)」を立ち上げた。世界でも類を見ない取り組みだ。その実行責任者である新事業促進部長の岩本裕之氏に話を伺った。

●世界的に商業化が進む

 従来、宇宙開発は各国の政府や宇宙機関が担ってきましたが、世界的に商業化が進んでおり、民間企業が独自にかかわれるようになってきました。その背景には関連部品が安くなったり、チップが高性能になったり、ロケットの打ち上げ機会が増えたりと、さまざまな要因が折り重なっています。

 すぐにビジネスとして成立するかは別として、既にいろいろな取り組みが行われています。NASA(米航空宇宙局)の例で言えば、かつて国が担っていた国際宇宙ステーションへの物資輸送はSpaceXなどに民営化されており、まもなく宇宙飛行士の往還も民営化されていきます。

 また、小型衛星が地球観測や衛星通信のために使われるようになり、その打ち上げ手段として小型ロケットの開発や国際宇宙ステーションからの衛星放出サービスが行われるなど新しい宇宙産業ができつつあります。

●自分たちが時代を作る

 イーロン・マスク氏やジェフ・ベゾス氏のような資産を持つ起業家の台頭もあります。彼らは自分たちの手で新たな時代を創りたいと思っています。例えば、マスク氏は自らが火星に赴くことを望んでいます。火星には滑走路がないのでSpaceXのロケットは垂直離陸・着陸するように造られるなど、彼らの取り組みの全ては火星に到達することが前提になっています。

 他方、Blue Originを率いるベゾス氏は自分自身が宇宙に行くというよりも、多くの人々が宇宙に行けるようになれば新たな時代が到来する、そのきっかけを自らが作っていきたいという思いをもっています。両者に共通するのは、彼らの下で働くスタッフの多くが、2人のカリスマのビジョンを実現したいと思っていることです。

 また、2010年に日本の小惑星探査機「はやぶさ」によるサンプルリターン(小惑星の表面物資を地球に持ち帰る)の成功が一つのきかっけとなり、近年、宇宙資源探査にも注目が集まっています。このようにさまざまな要因が重なり、宇宙のビジネス化が進み始めていると言えます。

●グローバルマーケットとして捉える

 ビジネスとしての宇宙を考えた場合に重要になるのは、世界をマーケットとして捉えたビジネスを考えることでしょう。米国政府や米国企業がこれまで多くの宇宙技術を利活用してきましたが、その前提には彼らがグローバルに活動を行っているという事実があります。世界をマーケットにしている人が宇宙産業の顧客になります。ソフトバンクの米OneWebへの出資も一例だと思います。

 これから伸びる分野としてはビッグデータ、IoT、AIが考えられており、宇宙開発分野への親和性は高いと思います。政府が衛星データのオープン&フリー化を進めていますし、こうした取り組みは欧州では先行しています。米国でも一時期小型衛星の開発・打ち上げをする企業が乱立しましたが、買収などで集約されはじめています。昨今はデータの処理、さらにはデータの解析へと2~3年のサイクルで宇宙ビジネス業界の中心が変わりつつあります。

 もう一つ、宇宙に出ていく探査分野にも注目しています。スペースデブリの除去、宇宙資源探査などさまざまな分野がありますが、探査していく上での生活関連技術は日本のお家芸だと思います。現在NASAを中心に進めている月探査プログラムでも、日本からは国際宇宙ステーションの実験棟「きぼう」で培った居住モジュール、補給機「HTV-X」で培ったロジスティクス技術、有人の月面走行車技術を提案しています。

●世界初の官民パートナーシッププログラム

 こうした時代、官民連携のあり方も変わりつつあります。大きな考え方としては民間ができることは民間に任せて、国はよりリスクが高いところ、次のステップを狙っていくというものです。民間の取り組みを通じて、宇宙産業界全体が盛り上がっていくことは良いことです。

 日本でも2017年に発表された「宇宙産業ビジョン2030」や、今年に入って安倍晋三首相が発表した、今後5年間で官民合わせて1000億円のリスクマネー供給など、宇宙ビジネスに対する期待が高まっています。こうした背景の中、JAXAは今年度から始まった第4次中期計画において「宇宙利用拡大と産業振興」を柱の1つに掲げています。

 そのための具体的な施策として立ち上げたのが「宇宙イノベーションパートナーシップ(通称:J-SPARC)」です。従来の商業化はJAXAがサービスを開発し、後に民間企業に移管する「ステップ論」でした。他方、J-SPARCでは民間とJAXAが「イコールパートナー」として当初より事業化を見据えて共創していきます。

 官民連携は多くの国で取り組まれてきていますが、J-SPARCのように事業化を見据えて制度として立ち上げたのは、おそらく世界でも初の取り組みだと思います。実際、米国や欧州の宇宙機関からの反響も多いです。現在J-SPARCでは、第1弾として「地球低軌道(LEO)有人活動における事業共創」に関する事業アイデアの募集を行っていますので、できるだけ多くの方々に応募をいただければ幸いです。

 1時間のインタビューはあっという間だったが、民間の取り組みを通じた産業拡大への期待とともに、JAXAとして新たな時代に求められる官民連携のあり方を創っていく強い意気込みを伺えた。今後の成果に注目したい。

(石田 真康)

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