5G「大容量」「低遅延」「多接続」が切り拓く、2020年以降の社会、私たちの生活に起きる変化とは?

「5G」が切り拓く、2020年以降の社会──私たちの生活に起きる変化とは?

2020年の東京五輪に向け、大手携帯キャリアは5Gの時代に向けて動き出している。しかし「大容量」「高速化」「多接続」といった箇条書きの特徴だけをみても、これ以上どう便利になるのか、いまいち想像がつかない人も多いかもしれない。

「いま、まさに多様なソリューションの下地が整い始めている」と語るのは、ICT基盤研究部主任研究員の中村邦明。先日、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイルカンファレンス『Mobile World Congress 2018』を訪れ、5Gという技術への「温度の高まり」を肌で感じたという。

その最先端のネットワークシステムは社会にどのような変化をもたらすのか。5G技術の現在、そして少し先の未来像について伺った。

5Gが私たちの社会をどのように変容させるのか

──5Gの特徴として「大容量」「低遅延」「多接続」が挙げられます。4Gの時代と具体的にどのような違いがあるのでしょうか?

中村氏:5Gでは扱えるデータのトラフィックがLTEの1000倍、遅延は1mm秒以下、同時接続できるデバイス数は10倍に達するといわれています。大容量のデータをより素早く、複数のデバイスに対して同時に伝送できるようになる。

また5Gの登場に伴い、サーバーのクラウド化も加速すると考えられています。複数の端末を同時に接続して大量の情報をやり取りするために、物理的なサーバーを毎回設置するのは非効率です。

──3つの特徴を備えた5Gが導入されることで、どのような変化が起きるのでしょうか?

中村氏:一番わかりやすい変化は動画の視聴形態でしょう。4Kや8Kなど高解像度の動画を素早く効率的にやり取りできるようになり、スマートフォンなどモバイル機器で観られる動画の質が格段に上がります。

VR(仮想現実)やAR(拡張現実)の視聴体験も大幅にアップデートされます。映像の解像度が上がるだけではありません。光や影、周囲の情景をリアルタイムで制御したり、装着している人の動作を仮想空間内に反映させたりと、より実在感のある空間が構築できるようになる。それに加え、クラウド上ですべての処理が可能になるため、VRやARデバイスもより小型化されていくはずです。

──すでに医療や自動車など多様な領域で5Gの活用事例が出てきていると聞きます。中村さんはどのような領域に注目されていますか?

中村氏:ひとつは医療領域での活用ですね。VRデバイスと触覚的なフィードバックを与えるデバイスを掛け合わせ、遠隔で手術を施す事例が登場している。こうした『ハプティック手術』の実証実験は、スウェーデンの通信機器メーカーのエリクソンが牽引しています。

視覚や聴覚、触覚に関する情報を遅延なく伝送できるため、遠隔で治療を受けざるを得ない人にも、より精度の高い手術が提供できるようになるでしょう。

──地理的な制約が5Gによって解消される、と。他にも活用が広がっていく領域はありますか?

中村氏:個人的に関心を持っているのは「スマートファクトリー」です。これはあらゆる機械をクラウドに接続し、そこから制御や管理を一括で行う工場のあり方を指します。

この「スマートファクトリー」に汎用性の高いロボットアームが導入されると、時期に応じて、異なる企業が異なる製品を製造するといった、工場のシェアリングができるでしょう。これまで固定されていた工場という場所にモビリティが付加されていく。

また地理的な制約がなくなるという点では、VR内でコミュニケーションを取るようなアプリケーションの発展にも注目しています。5Gによって臨場感あふれるVR空間と、遅延のないコミュニケーションが実現されると、VR空間でのビジネス会議も決して違和感のある体験ではなくなるはずです。

──自動車や家など私たちの暮らしに近い領域は、5Gによってどのように変わると思いますか?

中村氏:クラウドと接続するコネクティッドカーの可能性はますます広がるでしょうね。例えば車内でアプリケーションを用いて作業し、その続きを自宅のディスプレイで再開できるようなシステムも構築できるでしょう。

そうすると車や自宅の家具など身の回りのモノが、スマートフォンのように情報を媒介するデバイスとして機能するかもしれません。

誰が5Gを制するか。世界各地で始まる競争

──欧米では5Gを日本よりも1年前倒しして、2019年の商用化に向けて動き出していると聞きます。日本では今後どのようなタイムラインで5Gの導入が進んでいくのでしょうか?

中村氏:日本では大手キャリアが2020年の商用化を目標に、実証実験を重ねています。2020年にはオリンピック会場など、産業領域から少しずつ導入が広がっていくでしょう。先ほど挙げたようなソリューションが形になり、わたしたちの生活に浸透するのは、2024年頃ではないかと考えています。

──米国では国を挙げて5Gを推進していると聞きました。こうした国の支援や法整備が今後の5Gの進展を左右していくのでしょうか?

中村氏:医療や自動車など実社会と結びつく領域で変化が起きますから、各国の政府がどのように動くかは重要になると思います。

おっしゃる通り、米国は国を挙げて5Gを支援しています。政府も積極的に周波数を実験用に解放し、アンテナの付設権にまつわる手続きの整備も、着々と進めている。すでに米国は4G時代で勝利を収めたわけですから、国全体で再び勝ちを取りにいくという機運があるんです。


またイタリアのミラノ市では、実際の利用シーンを想定して、市内全域で5Gの実証実験を始めています。例えば、コネクティッドカーの救急車に5Gのネットワークを活用してもらう実験などを行ったと聞きました。

日本もこうした動きを踏まえ、スピード感を持って動いていく必要がある。神奈川県で5Gの実証実験が予定されていますが、今後はより大規模な規制緩和や実証実験も検討すべきだと考えています。

──5Gの到来によって実社会にも大きな影響がありそうだと感じました。「5Gの時代」を一般の人も体感できるようになるのはいつ頃なのでしょうか?

中村氏:『5Gに移行した』と一般の人が強く意識する日は、もしかしたら来ないのかもしれません。というのも通信システムの変化は、その時代の人々のニーズを満たすアプリケーションやデバイスの登場と並行して起きるからです。

2Gから3Gへ移行した際には音楽を1曲丸ごと端末にダウンロードできるサービスが登場しました。そして4Gの到来はスマートフォンの普及時期とも重なっています。パソコンでしかできなかった重い作業を、モバイル端末からも行えるアプリケーションが次々に生まれました。

こうしたアプリケーションを無意識に利用していくうちに、新しい通信規格がスタンダードになり、いずれアップデートが求められる。

この繰り返しによって、モバイル技術は進歩してきました。そして5Gでも同じ流れがみられるのではと期待しています。

数十年後に5Gの普及を振り返るとき、私たちはどのようなアプリケーションを想起するのだろうか。そう最後に尋ねると、中村氏は「VRやAR」を真っ先に挙げてくれた。5Gの到来は、現実と仮想空間の境目が曖昧になり、物理的な制約から解放される時代の始まりなのかもしれない。

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