小泉純一郎さん!いま、安倍降ろしはないでしょう

小泉さん! いま安倍降ろしはないでしょう

 中曽根康弘元首相に議員引退勧告を出した張本人は小泉純一郎首相(当時)であった。

 その小泉氏が高齢になり、しかも議員でもない今日、安倍晋三政権(の倒閣意図であろうが)を批判する姿は本人の美学に反するであろうし、それ以上に民主主義の根幹にかかわり、また国益も害する。

 米国の民主主義がすべてにおいて良いわけではないが、大統領を退いた後は指導者時代の言動をはじめ、映像やテープなど、ありとあらゆる関連資料を取集して自身の名を冠した図書館などを建立し、また著作などに専念して後世の研究者に役立つ努力を惜しまない点は称賛に値する。現指導者に余計な口出しもしない。

 そうした点から見る限り、日本の歴代首相には自身が国家の運営に関わり、国内外情勢とのかかわりでいかに状況を判断し、決断し、行動したかなどを自分自身で回顧し、後世に資する姿勢は見られない。

 また、米国では大統領経験者が党派を超えて協力し、国家の難局に立ち向かう「プレジデント・クラブ」があり、成果を上げてきたとされる。

 戦後最大の転換点を迎えようとする国際情勢は、日本にも大きな影響をもたらす。今ほど世界を俯瞰した指導者が日本に求められる時はない。

 日米同盟に日本存続の重心を置く日本において、その真価を発揮できるのはドナルド・トランプ大統領と格別の信頼を確立してきた安倍晋三氏以外にない。

 そうした状況を一顧だにせず、政局にして安倍首相に引導を渡そうとする小泉氏の心が理解できない。なお、小泉氏の独善的行動については、以下のJBpress論文で、筆者の意見を開陳している。

●「大局観を欠く小泉氏の『即原発ゼロ』発言と行動―自民党の団結を乱し、安倍政治にブレーキをかける危惧」

●「濡れ衣で安倍政権を倒して日本沈没を望むのか―いまこそ地球儀外交の力を発揮すべきとき」

●「日報問題は『文民統制』を理解しない政治家の責任―パッション政治が自衛隊に混乱をもたらしている元凶だ」

平成の笛吹き男

 小泉首相(在任2001年4月~2006年9月)はブッシュ大統領(息子、在任2001年1月~2009年1月)と馬があったばかりに、皮肉にも米国の要求に対して「100点満点の回答を出さざるを得ない状況」を作り出してしまったと、原田武夫氏は『仕掛け、壊し、奪い去るアメリカの論理』で述べている。

 原田氏は12年間キャリア外交官として勤務し、小泉首相が訪朝して拉致被害者5人を帰国させる前後の責任部局の担当課長を最後に外務省を辞職する。日本が米国から搾取されている実態を知り、外交官では果たせないもっと大きな視点で国民を啓蒙するためである。

 実際、20004年の対日要求(医療機器・医薬品、金融サービス、民営化、商法改正など)の多くが2年後の2006年までにほとんど実現してしまう。

 郵政民営化に至っては参院で否決され、衆院の解散・総選挙に打って出た。民営化反対者は対抗勢力として刺客を差し向けられ、多くの憂国の士が惜敗した。

 イラク戦争に関しても、当時の福田康夫官房長官は日本がイラクについての情報を持ち合わせていなかったし、米国からも情報が与えられなかったが米国の要請を支持したことを明らかにしている。

 果せるかな、「自衛隊派遣ありき」で、PKO参加5原則に抵触しないことだけを念頭に「靴に足を合わせる」、あるいは「闇夜に鉄砲」の非常識なパッションで、「自衛隊派遣地域が非戦闘地域だ!」と豪語する。

 ところが、基地を開設したサマーワにはロケット弾が撃ち込まれたし、経路上では地雷が爆発したこともあった。

 クウェートからイラクへの飛行中にロックオンされた「C-130」輸送機は、ミサイル被弾を避けるためチャフ・フレアを散布している。

 派遣された指揮官の報告にある通り、軍事常識的には「戦場」であり、「戦闘」も起きていた(余談ながら、今日の日報問題もブッシュ・小泉の皮相な友情が生んだ悲劇ではないだろうか)。

 ブッシュ大統領はイラクを4回訪れ、米兵を激励しているが、小泉首相は現地を訪問して隊員を激励することはなかった。

 湾岸戦争の教訓から悲願の自衛隊派遣を行いながら、国家を代表して派遣された自衛隊に責任を押しつけただけで、最高指揮官としての矜持さえ持ち合わせていなかったという以外にない。

 原田氏は先述の著書で小泉氏を、「ハーメルンの笛吹き男」になぞらえて「平成の笛吹き男」と揶揄している。日本の国益でなく、米国の国益に資する無責任な男という意味であろう。

 2005年に「原子力政策大綱」を策定し、「原子力の利用推進」を閣議決定したのは小泉政権であった。その後、3.11と呼ばれる東日本大震災(2011年3月11日)で福島第1原発が壊滅的な被害を受ける。

 原子炉自体の異常が原因ではなかったが、放射線被害が起き、原子力の安全神話が揺らいだ。菅直人首相(当時)のリーダーシップ不足で有効な放射能対策が遅れ、被害を相乗的に拡大した。

 総電力の30%を供給していた原発に代わる数%の自然エネルギーで賄えるはずもなく、一時は計画停電のやむなきに至り、社会を混乱に陥れた。

 機を見るに敏な小泉氏は、フィンランドの核廃棄物最終処理場オンカロを訪ねた後から「原発ゼロ」を打ち出す。

 小学生の見学ではあるまいし、国家計画として自分が先導した「原子力の利用推進」はどうしたのだろうか。単にパッション(情緒)で動く、「平成の笛吹き男」は言いえて妙である。

庶民の生活が見えない小泉氏

 東日本大震災後の原発の停止で家庭用電気料金は平均で最大時は25%値上がりした。

 こうしたことが国民生活に与える影響について、請われて政府機関の委員会で話した常葉大学経営学部教授の山本隆三氏に対し、委員の1人から「月当たり1000円とか2000円の電気料金値上がりは大した問題ではない」という趣旨の発言があったという(「『貧困』をもたらした元首相二人の責任」、『WiLL』2017年9月号所収)。

 山本教授は日本には平均所得の半分にも満たない貧困層が約2000万人いることから説きはじめ、電気料金の値上げは日本の産業の中心を担う製造業への影響が大きく、世帯収入の減少をもたらす結果、家庭の支出額が減ることを示す。

 2人以上世帯の月平均支出額は2000年には平均31万7000円であったが、2016年になると28万2000円まで落ち込む。支出の中で食費は余り減らすことができないのでエンゲル係数は23.3から25.8に上昇し、交際費、衣類、旅行や書籍などを切り詰めるしかない。

 ところが電気料金だけは無情にも上昇する。2000年には月当たり9700円であったものが2014年は1万1200円と1500円、約16%の上昇である。

 政府は2020年のオリンピックを控え、観光業に力を入れている。収入減の日本人には期待できないので、外国人への期待となり、来日観光客を3000万人とも4000万人とも計画するが、2016年における外国人宿泊数の比率は14%でしかない。

 外国人が2倍になったとしても外国人宿泊比率は30%以下で、日本人がもっと国内旅行をしなければ観光業の大きな発展にはつながらない。

 とはいえ、宿泊・外食が作り出す付加価値額は国内総生産額(GDP)の2.5%と規模が小さく、成長しても増加額には限度がある。

 これに対し、製造業はGDPの20%以上を稼いでいる。製造業の稼ぎで周辺のサービス業にも金が回るため製造業の成長は最も重要であるが、電気料金が足を引っ張る。

 2010年に104兆円であった製造業の付加価値額が、東日本大震災で翌2011年は97兆円に落ち込む。その後停滞が続き、2014年に漸く101兆円となる。

 電気料金の上昇は、原発停止による火力発電所の稼働率上昇に必要な石油・石炭等の購入費増と、太陽光・風力などの再生可能エネルギー導入のための固定価格買い取り制度(FIT)による再生エネ賦課金の影響である。

 FITをいち早く取り入れたのはドイツやスペインなどであるが、製造業に与える影響が大きいため、ドイツは原則廃止し、スペインは減額している。

 しかし、日本は20年間保証であり、早急な制度変更を行わなければ製造業の競争力が失われるとされる。

 小泉元首相は、吉原毅・城南信用金庫元理事長が設立した城南総合研究所の名誉所長(2代目)に就任し、「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」が進めるソーラーシェアリング設備(農地の上部に太陽光発電設備を設置)の開所式(2017年4月)に菅直人氏ともども出席している。

 原発の停止と再エネ導入促進政策が電気料金を引き上げ、産業に大きな影響を与え、巡り巡って家計も圧迫している現実を、小泉氏は理解しようとしない。「原発ゼロ」を容易に叫び続けることができる所以である。

 1990年代後半に突入したデフレから脱却するには需要を作り出す必要があったが、小泉政権は構造改革や規制緩和で供給を増やす政策でデフレを一層悪化させ「失われた20年」を決定的にした。

 小泉元首相は裕福な政治家一家で、電気料金1000円や2000円の値上げがどれほど家計に影響するかなど考えることもないであろう。

 しかし、電気料の値上がりは製造業から活気を奪い、家計収入を減少させ、ひいては日本国家の衰退さえもたらしかねない危険性を擁している。

 広い視点に立てば、日本が活性化するまでは「原発ゼロ」のワン・フレーズで騒いでいる場合ではないし、電気料金値上げに向き合わないのは庶民感覚を持ち合わせないというしかない。

主権在米経済の郵政民営化

 「民にできることは民に」と叫び、いかにも自分の発想ででもあるかのようにカムフラージュして、米国が命ずるままに郵政を民営化して国益の大なる棄損をもたらしている。

 何よりも日本の良き慣行であった終身雇用や年功序列を弊履のごとく廃棄し、日本社会の安定を喪失させたのがほかならぬ小泉氏である。

 ワン・フレーズは力強くて国民受けもするが、何ら内容を説明しないまま、ムードに流されては日本を殺(あや)めかねない。

 終身雇用や年功序列が実力本位の国際標準に合わないのは確かであろうが、日本には日本なりの漸進的な変革の方法があってもよかったはずである。

 あまりに急進的、革命的であったために非正規雇用社員などで溢れ、いまに至るまで大きな社会的混乱をもたらしている。

 郵政民営化は小泉首相の持論であったかもしれないが、強権的手法は米国が日本に押しつけた要求に小泉政権で応えようとしたからだ。

 ブッシュ大統領に招かれた小泉首相はエルビス・プレスリーのロカビリーに浮かれていたかもしれないが、大統領は米国の国益を増大するという自身の責務を忘れることはなかったのだ。

 郵政民営化に反対し、刺客(小池百合子氏)に敗退した小林興起氏の懺悔録とも言うべき、『主権在米経済』という著書がある。

 「討ち死にした政治家がいまさらこんなことを言っても、もはや誰も聞いてはくれまい。『負け犬』の遠吠えとしか思ってくれないだろう」と述べつつ、「郵政民営化」ではなく「郵政米営化」だったから猛反対したとし、「いまも自分が正しいことをしたと信じている」と書いている。

 どういう点が「米営化」で「主権在米」になるのかなど、民営化騒動の舞台裏については本書を読むとして、ざっくり言って、日本は世界一の「対米貢献国」になるという。

 米国から押しつけられる要求は、その名もずばり「日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づくアメリカ政府から日本政府への毎年の改革への要望」となっており、略して「年次改革要望書」と呼ばれる代物である。

 「自民党議員のほとんどが知らなかった」要望書について警告を発したのは関岡英之氏(『拒否できない日本』)で、いかに日本政府が米国政府の要求どおりに動いているかを描いている。

 その後の小林議員らは関岡氏を招き、勉強会を開き、郵政民営化をはじめとする年次改革要望書が日本の国益を毀損する、即ち主権在米経済をもたらすと確信し、危機感を募らせていく。

  小林氏がもう1つ参考に挙げるのが前出の原田武夫氏の『騙すアメリカ 騙される日本』である。

 原田氏は本書で、「戦後日本の『すべて』が、アメリカ合衆国の対日国家戦略の決定的な影響力の下にある。(中略)もっと適切な言い方をすれば、『操作』されている」と述べ、その種明かしに努力している。

おわりに

 小泉純一郎元首相は、自民党の二階俊博幹事長、山崎拓元副総裁、武部勤元幹事長、小池百合子東京都知事らと4月18日夜、東京都内で会食した。

 ここで、森友・加計疑惑や財務事務次官セクハラ問題などで火だるまになっている安倍晋三首相の政権運営、9月の総裁選について意見交換したとされる。

 それより1週間前の11日、55分にわたって週刊朝日の独占インタビューを受け、その全文が、27日号に掲載された。

 「小泉純一郎氏 ついに安倍首相に引導を渡した」の掲題で、「もう引き際だ」「3選はないね」「バレてる嘘をぬけぬけと…」などのつぶやきが激白として書かれている。

 しかし、内容は昼の高齢婦人相手のワイドショーで語られる程度のことばかりで、国際情勢を一顧だにしていないことや、長期政権を確立して国際社会のリーダーを目指す群雄が割拠する中に伍していける指導者などに触れることもなく、推測や憶測などからくることばかりでしかない。

 小川榮太郎氏は「肌通じた外圧の痛覚を取り戻せ」(「産経新聞」平成30年4月4日付「正論」)で、「今も、世界は『非合理な情念』に満ちてゐる」としたうえで、「中国の国威発揚と日本圧服への情念、北朝鮮による核・長距離ミサイル開発、露のプーチン氏4選――強力で反日・侮日的な軍事独裁政権が日本の近海に勢揃ひした」と現状を分析・披歴する。

 そして「その最中、日本では安定してゐた安倍政権が森友・加計問題での一部メディア発の倒閣運動で、苦戦を強ひられてゐる」と困った現実を指摘する。

 小川氏ばかりではない。国際社会に真摯に向き合い、歴史に学んでいる識者は、「いま」を幕末と大東亜戦争に匹敵する状況とみており、よほどの識見がないと乗り切れないとみている。

 福澤諭吉の「智戦」の時である。それには、地球を俯瞰し、世界のリーダーと渡り合ってきた実績を持つ指導者が今しばらくは必要であろう。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏