労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日、「売切」普段の東京駅ではほとんど見かけない光景

労働組合が東京駅の自動販売機を空にした日

 先週4月18日、JR東京駅構内の自動販売機で売り切れが続出しているという情報がインターネットを駆け巡った。きっかけは労働組合・ブラック企業ユニオンによる次のツイートだ。

 このツイートは、4月23日現在で約6万リツイートに達しており、延べ800万を超えるユーザーが見たという。

普段の東京駅ではほとんど見かけない光景

 実際、ホームによってもばらつきがあるが、駅構内の設置場所によってはかなり売り切れが目立っていたようで、ひどい機械では1台あたり7つも「売切」の赤いランプが点灯していた。これは普段の東京駅ではほとんど見かけることのない光景だ。

 今回の事態が起きたのは、JR東京駅構内の自動販売機の補充を担当する、サントリー食品インターナショナルグループの自動販売機大手「ジャパンビバレッジ東京」に勤務する社員10数名が労働組合に加盟し、「順法闘争」を行ったためだった。法律に従い休憩を1時間分取得し、残業を全く行わずに仕事を切り上げるという戦術である。

 もちろん、本数を少なめに入れるとか、仕事をサボタージュしているわけではない。単に法律や社内規則にのっとって自動販売機を回っただけで、補充の追いつかない機械が続出してしまったというわけである。普段から休憩すら取れず、いかに過密な業務を強いられていたかがわかるというものだろう。

ごまかされた残業代未払い

 なぜ、このような事態が起きたのだろうか。今回、ジャパンビバレッジ東京に対して順法闘争に踏み切ったのは、 ブラック企業ユニオン という労働組合だ。現在、ジャパンビバレッジの現役社員14名が組合に加入して団体交渉をしているという。

 同社の問題は複数あるが、その一つが残業代の未払いだ。同社では、昨年12月まで、自動販売機の飲料を運搬・補充する外回りの業務に対して、残業代を支払っていなかった。ひどい場合は、1日4時間以上ただ働きをさせられている労働者もいた。

 この違法な「定額働かせ放題」を是正するため、ブラック企業ユニオンの組合員が労働基準監督署に申告を行った。昨年12月に労働基準監督署が同社に対して、労働基準法違反の是正勧告を出している。

 ところが同社は、あろうことか「労基署とは見解が異なる」「残業代未払いはない」として、現役社員に対して、少額の金銭を支払うことで事態の収拾を図ろうとした。具体的には、社員一人ひとりを急に呼び出して面談を行い、根拠の不明瞭な金額を提示して、その場で強引に同意書を書かせるという手法である。ここで会社側は社員に、「これは残業代ではない。社長のご厚意だ」とまで説明していたという。

労基署に通報した組合員を懲戒処分へ

 また、同社ではほとんどの社員が休憩1時間を取れず、食事も満足に取れていなかった。業務量自体が過剰であり、何時間外回りしても残業代が払われない以上、早く帰るために休憩を取らないという労働者も多かった。

 ところが上記の面談で、会社は毎日1時間の休憩を丸々取れていたとして、同意書にサインさせていた。中には「休憩を取れていなかった」と、面談で1時間くらい粘ったにもかかわらず、無理矢理サインさせられた労働者もいた。

 このように、現場の実態を全く顧みず、労働基準監督署の行政指導に対して少額の金額でごまかすのは、偽装「働き方改革」にほかならない。このことに怒った労働者たちが、実態を認めて残業代を払うようにと、ブラック企業ユニオンに多数加入したということだ。

 それだけではない。今回、ブラック企業ユニオンが順法闘争に踏み切った理由はもう一つある。それは、残業代未払いをはじめとした労働問題を率先して問題化し、労働基準監督署への申告を行った現役社員の組合員に対して、ジャパンビバレッジが懲戒処分を検討しているからだ。

 残業代を請求した労働者を狙い撃ちした可能性が高い。今回の順法闘争は、この懲戒処分に対する抗議の意味も大きいという。

「働き方改革」の限界と労働組合の意義

 現在、政府による「働き方改革」が進められており、ジャパンビバレッジ東京に対しても、労働基準監督署が是正勧告を出したのは前述のとおりだ。

 しかし、ジャパンビバレッジ東京は「労基署とは見解が異なる」と行政指導に従わず、水面下では、面談で未払い残業代をごまかしている。さらに労基署に通報した社員に対して、懲戒処分をしようとしている。こうした「働き方改革」の裏をかく悪質な手口に対して、労働基準監督署は何も対応できていないのが現実だ。

 この状況を打開しようとしたのが、今回のブラック企業ユニオンによる順法闘争だったというわけだ。実は、労働組合はある面では「特別の力」を持っているのである。

 簡単に説明すると、労働組合に入ることで、労働者は会社と「団体交渉」と「団体行動」を行うことができる。会社は団体交渉を申し込まれると、誠実に応じる義務があり、無視すると法律違反になってしまう。また、労働組合は、街頭宣伝やストライキなどの団体行動を合法的に行うことができ、刑事上の処罰や損害賠償請求からも免責される(つまり、正当な組合活動であれば、会社に迷惑をかけても損害賠償の対象にはならない)。

 とはいえ、会社の中に労働組合がなかったり、会社の中の労働組合が頼りなかったりという場合も多いだろう。そこで、会社の外部の個人加盟ユニオンがおすすめだ。今回のブラック企業ユニオンも、どのような会社や業種で働く人でも入ることができる労働組合である。

 今回の順法闘争を受けて、ブラック企業ユニオンでは5月6日にイベントを開催する。順法闘争の経緯や、組合員の労働実態などを、組合員自身の発言や映像を通じて報告し、ブラック企業との闘いかたを多くの人に知ってもらうための企画だ。筆者もゲストとして発言する。自分も労働組合でブラック企業と闘ってみたいという人は、ぜひ参加してみてほしい。

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