ユニクロ、絶好調の秋商戦に潜む一抹の不安、大きな課題が露呈した。「エアリズム」が猛暑でも快適な理由

ユニクロ、絶好調の秋商戦に潜む一抹の不安

 好調だった秋商戦の裏側で、大きな課題が露呈した――。

 12月4日、ファーストリテイリングは衣料品店「ユニクロ」の11月の国内既存店売上高が前年同月比8.9%増だったと発表した。ここ数年と比べ寒さが厳しかった今年の秋は、ヒートテックやシームレスダウン、フリースなどの売れ行きが好調に推移した。

■感謝祭初日からトラブル発生

 11月はユニクロ恒例の大セール「感謝祭」が開催される書き入れ時。今年は昨年よりも2日短く、11月23~27日の5日間、店舗とネット通販の両方で感謝祭を実施した。

 満を持して臨んだはずの感謝祭だったが、初日から思わぬ事態が発生した。11月23日の午前9時頃からネット通販のサーバーがダウンし、パソコンやアプリでの注文が出来ない状態に陥ったのだ。ユニクロは同日午後6時半ごろからネット販売を休止したうえでシステムメンテナンスを実施。復旧にこぎ着けたのは翌24日の午前11時過ぎだった。

 ユニクロはサイトやツイッター上で、「多大なご迷惑をおかけし深くお詫び申し上げます」と謝罪文を掲載。11月23~24日の2日間の限定価格で販売する予定だった商品を、ネット販売に限って25日にまで延長するなどの対応を取った。売り上げへの影響については、「(感謝祭期間中に)ほぼ1日ネット販売が止まっていたことになるので、まったくなかったわけではない。ただ寒い時期と重なったため、感謝祭自体の売り上げは好調だった」(会社側)という。

 実はユニクロのネット通販では昨年の感謝祭でも、同様のシステム障害が発生した。昨年は3時間で復旧したが、今年はほぼ1日の時間を要した。度重なるアクシデントの原因について、会社側は「アクセス集中が起因であることは明らか。事前の準備は当然していたが、想定を超える数のお客様からのアクセスがあった」と説明する。

 結果的に感謝祭は好調だったとはいえ、今回の事態はファーストリテイリングが成長戦略の柱の一つに掲げるネット通販拡大の面で大きな課題を残した。柳井正会長兼社長は、国内ユニクロの売上高に占めるネット通販の売り上げ構成比率を中長期的に30%へ引き上げる方針を表明している。

 ただ、8月末時点における国内ユニクロのネット通販比率は6%。同じアパレル企業のユナイテッドアローズの18%(9月末時点)や、アダストリアの15.7%(8月末時点)と比べても低い水準だ。国内のアパレル市場は、「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」を筆頭に、ネット通販の取扱高の伸びが著しい。

■脆弱なネット対策の改善が課題

 こうした状況下で、ユニクロはコンビニでの購入商品受け取りサービスの導入や、オンライン限定商品の拡充など、ネット通販の強化に向けた手を打ってきた。

 前2017年8月期は当初、ネット販売の売上高を年間で40%引き上げる計画を打ち出した。しかし、昨年から稼働した有明の大型物流倉庫がうまく機能せず、翌日配送が出来ないなどといった混乱が発生。その結果、ネット通販の売上高(487億円)の伸び率は15.6%にとどまった。

 現在は有明倉庫の物流機能も改善しつつあるが、ネット販売の拡大を掲げる以上、物流面とシステム面双方での強固なインフラの整備が急務となる。アパレル業界に詳しいアナリストは「アリババは11月11日の大セール日(独身の日)に1日で約3兆円の売り上げを出してもサーバーダウンしなかった。ユニクロは『情報製造小売業』という目標を掲げる割に、ネット対策が脆弱すぎる」と指摘する。

 今2018年8月期も海外ユニクロの成長を軸に、過去最高益を見込むファーストリテイリング。柳井会長は「日本企業なので日本で稼がないことには始まらない」と強調する。ネット通販におけるトラブルを回避し、成長を継続させることができるか。足元の好調な業績にうつつを抜かしている暇はなさそうだ。

ユニクロ「エアリズム」が猛暑でも快適な理由

梅雨が明け、いよいよ夏本番。うだるような暑さの中、平日の午前にユニクロ銀座店のメンズフロアを訪れると、ワイシャツ姿の男性たちが次々にパッケージに入った商品をまとめ買いしていた。快適性をうたった機能性肌着の「AIRism(エアリズム)」だ。

これまで日本で肌着といえば、汗をよく吸う天然繊維の綿製が長年の常識だった。しかし、綿は吸水性が高い反面、乾きが遅いため、多くの汗をかくと肌着がべちょべちょになってしまう。

一方、化学繊維を使ったエアリズムは汗の乾きが早く、サラサラ感が続くのが大きな特長。10年前の発売当初は化繊の肌着に抵抗を感じる消費者も多かったが、着用時の快適さが口コミなどで広がり徐々に浸透。シリーズ全体で年5000万枚以上売れる商品に育ち、今や日本の「夏の定番肌着」と呼べる存在になった。

男性用はすべて東レが担当

それを技術面で支えるのが、国内最大手の繊維メーカー・東レだ。同社はユニクロの発熱機能性インナー「ヒートテック」などの製造を手掛ける企業として有名だが、エアリズムも男性用はすべて東レが担当。糸の製造から縫製まですべての工程を担っている(女性用は基本的に東レと旭化成が分担して原糸を供給)。

「同じエアリズムでも、男性用と女性用では優先している要素が異なる。男性は汗をかく量が多いので、特に吸汗速乾性を重視した商品に仕上げてある」。東レでユニクロ商品の開発を担当するGO事業部戦略開発グループの田畑次郎・技術主幹はそう話す。

使っている基本素材は、衣料用化繊で最も一般的なポリエステル。化繊は綿に比べて乾きが早い。ただ、それは化繊自体にほとんど吸水性がないからで、そのまま肌着の衣地として使っても汗を吸ってくれない。

そこで東レは、繊維構造に工夫を施すことによって、化繊生地に吸水性を持たせ、同時に速乾性もより高めた。田畑氏によると、活用したのは理科の時間に習う「毛細管現象」の原理。液体が重力とは関係なしに細い管の中やすき間を上昇していく現象だ。

実は、男性用のエアリズムは、100本近いポリエステル原糸を1本に束ねた糸で生地を編んでいる。右下の断面拡大写真を見てわかるように、束ねられた各原糸の間には微細なすき間がある。

ここがポイントで、かいた汗は毛細管現象によってこのすき間を通り、生地の肌面から表側へと移動しながら拡散して蒸発する。このため、エアリズムは化繊なのに汗をよく吸い、しかも通常の化繊着より乾きも早いのだ。

独自の極細糸で薄さや軽さを実現

毛細管現象を利用した吸汗速乾着はスポーツウエアなどで以前からあり、原理自体は新しくない。技術的に見てエアリズムがすごいのは、最先端の超極細糸でそれを実現している点だ。

先述した原糸の太さは8マイクロメートル(0.008ミリメートル)、髪の毛の約12分の1。当然軽く、たとえば長さ1万メートル分でも重量はわずか70グラム弱に過ぎない。東レが専用に開発したマイクロ繊維で、5年前に今のレベルの細さに到達した。

いくら吸汗速乾性が高くとも、着心地が悪いと消費者から支持されない。スポーツシャツならまだしも、肌着であればなおさらだ。「エアリズムでは、まるで着ていないかのような着心地が求められた。薄さと軽さ、しなやかさをすべて実現するには、極限まで糸を細くする必要があった」(田畑氏)。

男性用は発色の良い改質ポリエステル(カチオン可染型)で原糸を造っており、このタイプのポリエステルは糸を細くしようとすると切れやすい。それをここまで極細化できたのは、東レの高度な技術があってこそだ。同社の中でもこの超極細原糸を安定した品質で生産できる工場は限られ、石川工場(能美市)の特殊な設備を用いて製造している。

エアリズムは消臭機能の向上など細かな改良が毎年のように施される一方、商品ラインナップも増えている。男性用では、2015年に通気性を高めた「メッシュ」編みタイプ、2016年にはシャツの上から肌着が透けて見えないよう、縫い処理の凹凸を極力なくした「シームレス」タイプの商品が登場した。

このシームレスは、別の意味で画期的な商品である。というのも、首回りと袖部分の衣地の端が裁断されたままの状態で、「ほつれ防止」の縫い処理加工を完全に省いているからだ。にもかかわらず、洗濯を繰り返してもほつれず、多少力を込めて引っ張ろうが破けない。

東レによると、この商品だけは引き裂きに強いナイロン製の極細原糸を使用し、特許製法を用いた特殊な経(たて)編み組織と特殊加工の組み合わせによって実現したのだという。男性用で昨年発売されると、ユニクロには女性から同様の商品を望む声が相次ぎ、今年から東レが手掛ける女性用シームレスタイプも発売された。

衣料用繊維の4分の1がユニクロ関連

東レと、ユニクロを展開するファーストリテイリングは、今や切っても切れない深い間柄だ。両社は2006年に第1期の5カ年戦略パートナーシップを締結。東レはユニクロの専任部署まで設立し、ヒートテックや超軽量防寒着の「ウルトラライトダウン」、エアリズムといった大ヒット商品を生み出してきた。

繊維ビジネスは東レの祖業で今も経営の大黒柱。昨年度(2016年度)の部門売上高は8561億円で、その約6割が衣料用途だ。ユニクロとの年間取引額は千数百億円規模にまで増え、今や衣料用繊維事業の売上高の4分の1を占める。

ユニクロにとって、ごく普通の化繊衣料はコストの安い中国企業などの活用で十分事足りる。東レが担当するのは化繊衣料の中でも、技術によって快適性などを高めた「機能性衣料」のカテゴリー。ユニクロが考える商品コンセプトを聞いたうえで、糸の種類や生地の編み方・織り方などの仕様を詰めていく。東レが自ら商品の企画を提案するケースもある。

「あらゆる点で従来の常識が通用しない」。GO事業部戦略開発グループの渡橋淳二・主任部員は、ユニクロとの取引をそう表現する。なにしろ、1アイテムの発注ロットがケタ違いに大きいうえ、商品の開発にはスピードが求められ、しかもコスト面の要求は非常に厳しい。

そうしたユニクロとの取引で東レの繊維事業は鍛えられたと言えるが、渡橋氏は、意識面や商売のやり方も大きく変わったという。「かつての東レは、『こんなすごい糸、生地ができました』と。しかし、いちばん大事なのは、その技術でどんな商品を作れば消費者に喜んでもらえるか。ユニクロとの提携を通じて、消費者にとっての価値を真っ先に考える習慣が身に付いた」。

今年、春・夏シーズンで大ヒットした男性用の「感動パンツ」と「ドライEXウルトラストレッチアンクルパンツ」は、東レの独自技術と、そうした消費者の視点に立った細部の作り込みによって多くの支持を得た商品だ。いずれも通気性と速乾性に優れたパンツで、主にビジネスシーンでの着用を想定した感動パンツは薄くて軽く、幅広い年齢層に売れている。

動きやすさとファッション性で人気に

一方、ウルトラアンクルは、くるぶし丈のスポーティなパンツ。特殊なストレッチ糸を使い、非常に伸縮性が高くて動きやすい。しかも、生地に適度なハリ・コシを持たせたことで、ジャージーをはいたときのようなたるみができにくい。快適なうえに、ファッション性も兼ね備えるため、若い世代を中心に街着としても愛用する男性が続出している。

ファストリと東レは一昨年秋、3期目となる新5カ年の戦略パートナーシップを締結。ユニクロはH&M、ZARAなど海外ライバル勢との差別化にもつながる機能性衣料カテゴリーをさらに強化し、2006年からの第1期で2500億円、2011年からの第2期で6000億円(いずれも5カ年合計)だった東レからの調達額を、次の5年間では1兆円にまで増やす計画だ。

もちろん、東レにとっては絶好のビジネスチャンス。「われわれGO事業部の役割は、ユニクロが目指す『ライフウエア(究極の日常着)』の実現をサポートすること。原糸から衣地、縫製に至るまでの技術、ノウハウを生かし、魅力的な商品の開発に貢献していきたい」と技術主幹の田畑氏。ユニクロとの協業でどれだけヒット商品を創出できるかが、東レの衣料用繊維事業の成長性をも左右する。

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