ラーメンチェーン「幸楽苑」から「いきなり!ステーキ」へ、日高屋VS幸楽苑は前者の圧勝

ステーキに業態転換「幸楽苑」低迷の構造

今年11月10日、幸楽苑ホールディングスはラーメン店など561店舗のうち1割弱にあたる52店舗の閉鎖を発表した。同社は先立つ今年10月、「いきなり!ステーキ」のフランチャイズ1号店を福島市にオープンさせると発表している。なぜステーキ店への業態転換を急ぐのか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司氏は、「郊外ロードサイド型の店舗は限界を迎えている」と指摘する――。

「幸楽苑」から「いきなり!ステーキ」へ

今年10月、ラーメン店「幸楽苑」を展開する幸楽苑ホールディングス(HD)が、立ち食い形式のステーキ店「いきなり!ステーキ」を展開するペッパーフードサービスとフランチャイズ契約を結んだ。採算性の低い幸楽苑をステーキ店へ業態転換し、新規でも「いきなり!ステーキ」を出店していく方針だ。

FC1号店となる「いきなり!ステーキ福島太平寺店」(福島県福島市)は、12月21日にオープンする。オープン時には、両社の社長がそろってテープカットにのぞむという。

幸楽苑HDとしては、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長している「いきなり!ステーキ」をFC展開することで、業績を立て直したい考えだ。一方ペッパーフードサービスは、これによってさらなる出店拡大が見込めるようになる。

不採算店舗閉鎖で5億3000万円の特別損失

幸楽苑HDの経営は、厳しい状況にある。11月10日には、全店舗の1割弱にあたる52店舗の不採算店舗を閉鎖すると発表した。それに伴い、5億3000万円の特別損失を計上。これにより、2017年4~9月期連結決算の最終損益は6億4000万円の赤字(前年同期は5億6000万円の黒字)になったと発表した。18年3月期通期の業績見通しの下方修正も発表し、最終損益は2億円の黒字から6億7400万円の赤字に転落するとしている。

幸楽苑HDの売上高はこの数年頭打ちで、最終損益はいつ赤字に転落してもおかしくない状況だった。一方、ペッパーフードサービスは順調に業績を伸ばしている。また、幸楽苑HDと同じようにラーメン店「日高屋」を展開するハイデイ日高も好調で、収益を拡大させている。

何が3社の明暗を分けたのか。その答えを3社の収益構造の違いから探ってみよう。

まずは、幸楽苑HDとハイデイ日高の利益率と経費率を比較検証してみたい。数値は12~16年度の平均値を用いることにする。

経費率のひとつである売上原価率(売上高に占める売上原価の割合)は、幸楽苑HDが26.8%で、ハイデイ日高が27.3%。両社の差はほとんどない。これは大まかに言うと、ラーメンなど商品自体の経費(食材費など)の割合には大きな差がないことを意味する。

では、利益率のひとつである売上高営業利益率(本業の儲けを示す営業利益が売上高に占める割合)はどうだろうか。幸楽苑HDがわずか1.8%であるのに対して、ハイデイ日高は11.9%もあり、10ポイント以上も差が開いている。

日高屋VS幸楽苑は前者の圧勝

なぜ営業利益率に大きな差が生じているのか。答えは、経費率のひとつである売上高販管費率にある。ハイデイ日高が60.8%であるのに対し、幸楽苑HDは71.4%で10ポイント以上も高い。販管費率の差が、そのまま営業利益率の差となっているのだ。

販管費の中で大きな割合を占めるのが人件費と地代家賃だ。幸楽苑HDは、この2つの点で効率化や有効活用ができていないと考えられる。人件費に関しては、無駄な人員配置が多かったり、作業自体に無駄が多かったりする可能性がある。

地代家賃はどうだろうか。幸楽苑は全国に約560店を展開しているが、その大半は郊外のロードサイドにある。このため幸楽苑は4人席など複数人が利用できるテーブル席の割合が高い。一方、同じラーメン店である日高屋は、駅前繁華街を中心に立地し、カウンター席の割合が高い。

幸楽苑では、4人席を1人だけで利用するといった状態が起きやすく、席に遊休(利用されず放置してあること)が生じやすい。また、家族客など複数人で来店する客は1人客に比べ長居になりがちだ。そうなると客の回転スピードが遅くなり、効率は落ちる。結果として、売り上げに貢献しないスペースの割合が高くなってしまい、地代家賃が無駄に膨れ上がることになってしまうというわけだ。

地代家賃は固定化された建物や土地などが関係するため、すぐに効率化を図るのは難しい。一方で、多くの客を呼び込み、売上高を十分に確保できるのであれば、地代家賃の比率は抑えることができる。2013年度以前は売上高が増加していたので販管費率は抑えられ、5~7%程度の営業利益率をたたき出していた。しかし、13年度以降は売上高の成長が止まり、販管費率が上がったため、営業利益率が低下してしまったのだ。

幸楽苑HDの売上高が低迷するようになった理由はいくつかある。

そもそも、ラーメン店は複数人で来店する客よりも1人客になじみやすい業態だ。カウンター席が数席しかない個人経営のラーメン店でも繁盛しているところが多いのもこのためだ。1人で黙々と食べることができるのは、ラーメン店の魅力のひとつといえる。

ラーメン店は、ファミレスよりは牛丼店に近い。牛丼店は1人客が多く、席の遊休が他業態と比べて少ない。また、黙々と食べて帰る客が多いため回転が速く、収益を確保しやすい。本来、ラーメン店が目指すべきは牛丼店のような形態だったはずなのだ。

幸楽苑は4人席が多く、家族客など複数人で来店する客を多く取り込む必要がある。当初はその路線が功を奏して業績を伸ばしてきたが、今や頭打ちになったと考えるのが順当だろう。

家族客狙いの郊外型店舗に吹く逆風

家族客狙いの方向性が困難になってきた理由のひとつとしては、単身世帯や共働き夫婦が増加し、人々の都心回帰が進んでいることがあげられる。このため郊外ロードサイドで十分な収益をあげられる立地が少なくなり、出店余地がなくなってきたことから、郊外型店舗は厳しい状況に置かれつつある。

また、飲酒運転に対する世間の目が厳しくなり、郊外ロードサイド店でのアルコール販売が難しくなっていることも影響しているだろう。これらは幸楽苑にとって向かい風といえる。実際、幸楽苑と似た店舗展開を行っていた「長崎ちゃんぽんリンガーハット」は、業績が落ち込んでいた09年2月期に、郊外ロードサイドを中心とした不採算店舗50店舗を閉鎖している。その後、大型ショッピングセンターや駅前への集中出店を行うことで収益の改善に成功した。

幸楽苑に特有の問題もある。16年10月に発覚した異物混入問題だ。店舗で提供した商品の中に、誤って切断してしまった幸楽苑従業員の指が混入してしまった事件が大きく報じられた。この1件も、客離れの重大な原因になっているだろう。

こうした理由が積み重なり、幸楽苑HDの業績は低迷していった。

次に、ペッパーフードサービスの収益構造を見ていきたい。同社は複数の業態を展開しているが、幸楽苑HDがFC展開する「いきなり!ステーキ」の収益構造を確認するのがここでは妥当だろう。

「いきなり!ステーキ」は利益率が高いビジネスモデルだ。原価率は、ステーキやライス、サラダ、アルコールなどを含めて60%程度とみられ、他の飲食店と比べてその割合は高いが(一般的な飲食店の原価率は30%程度)、販管費率が低いため利益率は高い。14~16年度平均の営業利益率は6.4%にもなる。

「いきなり!ステーキ」は立ち食い形式のため、長居する客が少なく客の回転がはやい。また1人客も多く、席の遊休が少ない。狭い敷地に25~35席程度しか設けていない店舗が多いが、それでも十分に高い収益を上げることができる。

狭くてもやっていけるということは、地代家賃が高い駅前での出店が可能になるということでもある。収益を上げれば地代家賃を含む販管費率が下がり、高い利益率を確保することができる。

こういった視点で考えると、立ち食いか否かという違いはあれど、「いきなり!ステーキ」と日高屋のビジネスモデルはよく似ている。両者はともに、客の回転を早くすることで収益を確保しているわけだ。

「いきなり!ステーキ」は郊外でも好調

「いきなり!ステーキ」の勢いはとどまるところを知らない。18年度には、200店の新規出店を計画している。結果、18年度末には店舗数が387店にもなるという。これまでは駅前を中心に出店し人気を博してきたが、今年5月末から出店を開始した郊外ロードサイド店も人気で好調だという。「いきなり!ステーキ」であれば、前述の通り、いま苦戦を強いられやすい郊外型店舗でも、席の遊休は生じにくいだろう。今後は郊外ロードサイドでも出店を加速していくものとみられる。

幸楽苑HDも勢いに乗る「いきなり!ステーキ」をFC展開することで、低迷している業績を上向かせたい考えだ。

ただ、本業はあくまで幸楽苑であって、既存の幸楽苑の店舗を立て直さないことには抜本的な解決にはならない。メニューの強化はもちろん、現実に即した内装への変更や、店舗運営の効率化など、あらためて厳しい目線で精査する必要があるだろう。

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