無戸籍者「全国に最低でも1万人はいる」目指せ無戸籍者ゼロ 取得支援に向け協議会設置へ

目指せ無戸籍者ゼロ 取得支援に向け協議会設置へ 法務省

 親が出生届を出さないなどで「無戸籍」になっている人をなくそうと、法務省は21日、無戸籍者の情報収集の徹底を市区町村に要請するとともに、戸籍取得を支援する地方協議会を設置することを決めた。協議会は各地方法務局が主体となって、関係機関に協力を呼びかける。

 親が出生届を出さない理由はさまざまだが、「離婚後300日以内に生まれた子供は前の夫の子供と推定する」と定めた、民法の「嫡出推定」の規定の影響も指摘されている。例えば、離婚成立前に夫以外の男性と交際し、離婚成立後300日以内にこの男性との間の子供が生まれた場合、出生届を出すと戸籍上は前夫の子供になってしまうため、親が躊躇(ちゅうちょ)するケースもあるという。

 法務省は無戸籍者が問題になった平成26年以降、実態調査を実施。それによると、今年10月時点で同省が把握した全国の無戸籍者は計1495人に上った。このうち780人は既に戸籍を取得したが、715人は未取得になっている。法務省によると、715人の未取得者のうち、約75%は嫡出推定がネックになって取得手続きに踏み切れないという。

 既に戸籍を取得している人がいるように、離婚後300日以内に生まれても、裁判手続きで前夫との子供でないことを確定させることはできる。ただ、未取得者の親が「前夫と顔を合わせるのは嫌だ」「弁護士費用がない」などの理由で二の足を踏んでしまうことも多いようだ。

 そこで各地方法務局が、経済的問題を抱える人の弁護士費用立て替え事業などを行っている法テラスや弁護士会、各家庭裁判所に呼びかけて協議会を設置し、問題解決を図る。また、無戸籍者は今後も生まれることが考えられることから、市区町村に無戸籍者情報の収集を求める。

 戸籍がないと原則パスポート取得ができないなどの不利益がある。

離婚やDV増のツケ…無戸籍者「全国に最低でも1万人はいる」

 関東地方のある中学校の会議室。「九九の6の段、次の授業までに覚えてきてね」。先生が優しく語りかける。生徒は介護職員の冬美さん(34)=仮名=1人だけだ。

 8月から週1回、国語と算数の授業を受けている。「最初はどれくらいの学力があるのか、私も先生も分かりませんでした」

 冬美さんは子供時代、小学校も中学校も通ったことがない。戸籍がなかったからだ。幼稚園を卒園後、近所の目を気にしてランドセルだけは買ってもらい、遠い私立小学校に通っているふりをした。それも続かず、間もなく引っ越した。

 それからは家で家事をしたりテレビを見たり。たまの外出はあったが、10代後半からは引きこもりに近い状態になった。「友達は1人もいません。外の人と接したのは母親の友人くらいです。全部で4、5人」。冬美さんが戸籍を得て、介護施設で働くようになってから、1年ほどしかたっていない。

 冬美さんが自分の「無戸籍」にうすうす気がついたのは平成19年ごろ。テレビで「無戸籍」を扱う番組を見て「自分と同じ状況だ」と思ったからだ。だが、そのときはまだ引きこもり状態で、「怖くて自分で誰かに相談しようとは思わなかった」という。

 26年になって、冬美さんは意を決して、この問題に取り組んでいる「民法772条による無戸籍児家族の会」代表の井戸正枝さん(50)に連絡を取った。

 子供が無戸籍になる理由はいくつかある。もっとも多いのは「嫡出推定」の制度が壁となるものだ。嫡出推定は民法772条で規定され、離婚後300日以内に生まれた子は前夫の子と推定。法律的に前夫の子と推定されるのを避けるために、出生届を出さないケースが多い。

 最近増えているとみられるのは、DV(ドメスティックバイオレンス)が関係しているケースだ。

 冬美さんの場合、母親が元夫からDVを受け、別居状態となったが離婚もできず、別のパートナーとの間に生まれた冬美さんの出生届を出さなかった。

 暴力から必死で逃げてきたのに、離婚のために連絡を取れば居場所がばれる。が、そのまま出生届を出せば、法的に元夫の子となってしまうからだという。

 行政も無策だったわけではない。19年以降、戸籍がなくても住民票作成や婚姻届、義務教育などが受けられるようになった。

 法務省が把握する今年10月時点の無戸籍者の数は694人。文部科学省の調査によると、無戸籍で義務教育段階の子供は今年3月時点で191人。2年間未就学だった1人を除いて小中学校に就学しているが、77人は学用品代などの就学援助を受けるなど、経済的に厳しい状況にあるという。

 ただ、井戸さんは「訴訟の数や匿名での相談数などから推定すると、無戸籍の人は全国に最低でも1万人はいる」と見る。

 無戸籍のまま大人になれば、アパート、携帯電話の契約も難しい。銀行口座も開けず、就ける職業は身元確認を要しないアルバイト、日雇い労働などに限られてくる。冬美さんは両親と同居し、無職だった。

 井戸さんは「無戸籍」について「離婚やDVの増加という現実に、明治時代以来の民法が対応できなくなっている」と指摘、「現代社会全体の傷みを象徴している」と話す。

 「一番悲しかったのは、『あの時こんなことがあったね』という思い出が何一つないこと」。冬美さんの子供時代を取り戻す生活は始まったばかりだ。

  「誘拐ではないか!」「子供はどうなるんや」

 近畿地方の児童相談所が虐待の疑われる0歳の乳児を一時保護した直後。20代の母親は泣きながら児童福祉司に詰め寄り、父親は強い口調で抗議した。

 数日前。両親は乳児を医療機関に診てもらっていた。「泣き声が聞こえて振り向いたら、ベッドから床に落ちていた」と母親は説明した。脳内出血が確認されたが、「外傷がないのは不自然」と医師が児相に通報した。

 児相が調査すると、母親は健診の際、保健師に「1人目の子供で育てるのが不安」と相談していた。医師の診察で、乳児のあばら骨に骨折の痕も見つかった。

 事故か、故意か。断定はできなかったが、報告を受けた児相所長は「いったん分離して子供の安全を考えなければならない」と判断した。母親も後日、「そういうことがあったかも」と警察に虐待を認め、最終的に一時保護を受け入れた。

 現在は親子関係の修復(再統合)に向け、児相との面談を繰り返す。

 「一時保護にマニュアルはない」。児相所長は判断の難しさを明かす。

 一時保護は18歳未満の子供を原則2カ月まで保護者から引き離す緊急処分。保護者の同意は必要ないが、「誘拐」「拉致」などと反発を受けることもある。

 その後の「再統合」を担うのも児相である。もともと福祉機関であり、親との人間関係を作る中で、親子関係を改善させるのを理想とするからだ。

 強制的な一時保護と親子関係の再統合という、相矛盾する役割に葛藤を抱える児相関係者は多い。ある児相職員は「一時保護や警察への通報を行えば親子は引き離され、再統合に向けた道程が険しくなる」と打ち明ける。その結果、“荒療治”に二の足を踏み、ときに手遅れを招くのだ。

 両親から虐待を受け児相に通所していた相模原市内の中学2年の少年=当時(14)=が自殺を図り2月に死亡した問題もそうだった。少年自ら「保護してほしい」と訴えていたにもかかわらず、児相が一時保護を見送ったのは、「全体で情報共有できず、気持ちに寄り添えなかった」(市の報告書)からだという。

 東京都葛飾区で平成26年1月、当時2歳の女児が父親から暴行を受け死亡した事件では、児相が女児宅を見守り対象としていた事実を警察に伝えていなかった。女児が死亡する数日前、泣き声がするとの通報を受け自宅訪問した警察官は虐待を見抜けなかった。

 「理念が児相の不作為の口実になっていないか。『福祉絶対主義』が子供の命を犠牲にしている」。警察OBで児童虐待問題に取り組むNPO法人「シンクキッズ」代表の後藤啓二さん(57)は痛烈だ。

 一時保護の件数は26年度1万6816件と10年間で倍増した。しかし、これは虐待通報自体が増えたためで、虐待の顕在化にすぎない、と後藤さんは指摘。「事実上、児相に放置されたことで、“殺された”子供は数多い」とみる。

 高知県では20年、児童が同居人の暴行を受けて死亡した事件を機に、児相と警察の連携を強化。市教委なども加わり、通告があった虐待情報を共有する。高知市内の児相担当者は「24時間体制の警察と双方の情報が積み重なることで対応に違いが出る」と話す。

 児相所長の判断で行われる一時保護基準を法的に明記することも急務とされる。厚生労働省の専門委員会は今年3月、司法の関与強化を提言。虐待が疑われる保護者に児相などの指導に従うよう家庭裁判所が直接命令できる制度などを検討すべきだとした。

 「児相は子供の命を守ることが最大の役割。早期対応が結果として“勇み足”と批判を受けたとしても、甘んじて受けるくらいの気概を持ってほしい」。児相所長の経験を持つ津崎哲郎・関西大学客員教授(72)は苦言を呈した。

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