日馬富士、傷害容疑で立件も=暴行問題で鳥取県警―角界、過去に逮捕者
大相撲の横綱日馬富士(33)による暴行問題で、被害届が鳥取県警に出され、同県警は14日までに事実関係を確認するために捜査を始めた。
診断書では頭の骨を折るなどしており、故意に暴力を振るい、けがをさせたなら傷害事件として立件される可能性もある。
関係者によると、日馬富士は10月下旬、鳥取市での秋巡業中、酒席で口論となり、同じモンゴル人力士の貴ノ岩に暴力を振るったとされる。貴ノ岩は日本相撲協会に「右中頭蓋底骨折などで全治2週間」との診断書を提出した。
貴ノ岩側が被害届を県警に10月下旬に提出したとされる。県警は被害届について「個別の事案についてはお答えできない」としている。
警察当局者は「暴力は許されない。被害者、加害者双方から聴取し、事実関係を確認した上で、所要の捜査を進めていくことになるだろう」と話した。
角界をめぐる暴力事件では2007年6月、時津風部屋の力士=当時(17)=が、当時の時津風親方(元小結双津竜)らからビール瓶で殴られるなどし、死亡。元親方と兄弟子3人が傷害致死容疑で愛知県警に逮捕され、元親方は実刑判決、兄弟子は有罪判決を受けた。
10年に横綱朝青龍が知人男性の顔を殴ったことが発覚し、現役を引退した。
15年には、男性マネジャーの腰や尻を金属バットで殴打するなどし、打撲などのけがをさせたとして、当時の宮城野部屋の熊ケ谷親方(元十両金親)が傷害容疑で警視庁に逮捕された。有罪判決を受けた。
品格より想像力を 暴行の日馬富士
大相撲の地方3場所で最も集客に苦労する九州場所で、今年は21年ぶりに15日間満員御礼が確実視されている。先発隊をはじめとする日本相撲協会の営業活動、若手力士の台頭などさまざまな努力の成果だが、そんな場所に横綱が泥を塗った。
日馬富士の幕内貴ノ岩に対する暴行。本人は事実関係を認めて師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)ともども謝罪しており、相撲協会は危機管理委員会を中心に事実関係などを詳しく調べた上で、処分を協議する。表沙汰になるまでの経緯には不自然さも感じないではないが、詰まるところ、日馬富士が暴力を振るわなければ何事もなかった。
格闘技はそれ自体、お互いに体で相手の体に痛みを与え合うものだから、競技者が体の痛みに慣れている。激しい気性の持ち主も多い。しかも相撲界の人たちは、とかく自分たちの体がいかに超人的かを自慢する。酒豪、大食漢、怪力。その延長に「親方がゴルフクラブでひっぱたいても、あざ一つできなかった」とか「お相撲さんの頭は中華鍋で殴ったぐらいじゃ平気」といった話も出る。冗談好きな人たちだからどこまで本当か分からないが、痛みに対する慣れと頑丈自慢の表れといえる。
2010年、朝青龍が一般男性にけがをさせて引退に追い込まれたのは記憶に新しい。共通点は力士の手本になるべき横綱の所業であること、酒席で起こしたこと。「酒の席だから」と弁解できたのは過去の話。この2点だけでも責任は重い。
違いは今回の相手が力士仲間であることだが、そこに、力士同士が共有する痛みに対する慣れ、頑丈さへの安心感から来る気の緩みがなかったか。格闘技の世界の暴力は、そうした「生態」をもっと重く見て考えていく必要がありそうだ。
◇危うい相撲ブーム
そしてもう一つ、現在の相撲人気に対する気の緩みはなかったか。「せっかく先場所の逆転優勝で称賛されたのに」と嘆いた親方がいたが、3横綱休場の窮地を自らの優勝で切り抜けたおごりが、日馬富士になかったか。
ついこの間まで、世間でも暴力や体罰を「愛のムチ」や「けんか」と言っていたくらいだから、力士同士の暴力沙汰など珍しくなかった。当時のファンは、そうした粗暴さや、ともすれば「黒い交際」も、これが相撲界と割り切って許容し、その代わり相撲内容にも厳しい目を向けたが、今日の相撲ブームは、観客の層も見る目も変わりつつある。
福岡県篠栗町から来た川端律子さん(48)は「残念ですよ。日馬富士はちょっと厳しそうな印象があったけど、それでも横綱は神様ですからね」と話した。連れていた友人の息子は2歳4カ月。最近、四股を踏み始めたという。
3年ほど前から夫と毎年来ている宮本良子さん(33)=熊本市=は、7カ月の長男を抱きながら「日馬富士は優しそうなイメージが崩れてしまいました。2、3日前に横綱の中で誰が一番好きかという話になって、私は日馬富士だと言ったのに」と残念がった。
「お相撲さん 気は優しくて 力持ち」が今日の、特に女性や子どものファンが抱くイメージだろう。力士たちにも、気のいい青年が増えた。かつてのように、混雑した支度部屋で気の荒い付け人に払いのけられることなどめったにない。ましてファンに対しては、にこやかに優しく接する力士が多い。そこには時代の変化とともに、不祥事続きで升席がガラガラだった時期の苦い経験が生きている。
そうした「イメージ」で成り立っている相撲人気に、先場所は3横綱休場、今場所はこの騒ぎと、頂点に立つ者が水を差した。横綱の品格などという特別であいまいなものより前に持つべきは、世の中のリーダーたちと同じように、自分が今、何をしたらどうなるかという想像力だろう。
日馬富士、最初はビール瓶 素手で30発 マイクに灰皿も…注意中にスマホ操作の貴ノ岩に激怒
大相撲の横綱・日馬富士(33)=伊勢ケ浜=が、前頭8枚目・貴ノ岩(27)=貴乃花=に暴行を加え、大けがをさせたことが14日、分かった。10月25日夜に鳥取県内でビール瓶などで殴打したという。日馬富士は相撲協会に「左上腕骨内側上果炎、左尺骨神経痛で約6週間の治療を要する見込み」との診断書を提出して休場。横綱審議委員会の北村正任委員長(76)は日本相撲協会に厳しい態度で接するよう求め、進退問題に発展する可能性も出てきた。
午前8時半頃、福岡・太宰府市の部屋宿舎で疑惑について「どっか(報道)に出たの?」と語った日馬富士は、記事を見て「怖いな」とつぶやいた。稽古後は一転、暴行の事実を認めて謝罪。「けがについては貴乃花親方、貴乃花部屋の後援会関係者の皆様、相撲協会、うちの部屋の親方に大変迷惑をかけたことを深くおわび申し上げます」と観念したように言葉を並べた。
鳥取巡業を翌日に控えた10月25日夜に“事件”は起こった。宴席には日馬富士と貴ノ岩のほか白鵬、鶴竜のモンゴル出身3横綱や鳥取城北高相撲部出身の関脇・照ノ富士、日本人力士や関係者ら10人前後が参加。1次会から酒が進み、2次会へ移ると雰囲気が一変した。貴ノ岩は日馬富士から兄弟子に対するあいさつが足りないなどと注意されていた。その時、着物の帯に差していた貴ノ岩のスマートフォンが鳴った。
操作しようとした瞬間に暴行が始まった。日馬富士がテーブルのビール瓶で、近くに座っていた貴ノ岩の頭部を殴打。「人が話をしている時に…」と激怒し、血を流して倒れた相手にのし掛かるようにしながら、素手で殴打を繰り返した。カラオケのマイクや曲を入れる端末機、灰皿まで振り上げたという情報もある。
同席者は「周りが気付かないほどの速さでゴーン!という大きな音が聞こえた。そのまま20~30発は手で殴っていた。貴ノ岩は両手で防ぎながら、殴られ続けていた」と証言。日馬富士の同部屋の後輩、照ノ富士も数発食らったという。荒れた日馬富士は止めに入った白鵬を突き飛ばし、後輩横綱の鶴竜に「お前がしっかり指導しないからだ」とかみついた。宴は重苦しいムードで終わった。
酒癖の悪さは何年も前から指摘されていた。感情の起伏が激しく、いったんキレると元に戻れない性格。ある40代の親方は「あの横綱は酔うと手が付けられなくなると聞いていた。でもまさかこんなことになるとは…」と驚いていた。
貴ノ岩は「脳振とう、左前頭部裂傷、右外耳道炎、右中頭蓋底骨折、髄液漏の疑い」の診断を受けて初日から休場している。日馬富士は事件の詳細などを語らず、伊勢ケ浜親方も「もう(協会に)話したから。今は場所中で相撲のことに…」と言葉を濁した。品格を問われる現役の横綱が、事実を伏せたまま初日から2日間、土俵に上がった。相撲人気に水を差した。
◆日馬富士 公平(はるまふじ・こうへい)本名・ダワーニャミーン・ビャンバドルジ。1984年4月14日、モンゴル・ゴビアルタイ出身。33歳。伊勢ケ浜部屋。2001年初、安馬(あま)のしこ名で初土俵。04年春、新十両。同年九州、新入幕。08年九州場所後に大関に昇進し、日馬富士に改名。12年秋場所後に第70代横綱に昇進。優勝9回。得意は右四つ、寄り。186センチ、137キロ。家族は夫人と1男2女。
日馬富士暴行の酒席は20年以上続く「モンゴル人飲み会」当初は3人でスタート
大相撲の横綱・日馬富士(33)=伊勢ケ浜=が、前頭8枚目・貴ノ岩(27)=貴乃花=に暴行を加え、大けがをさせた件で、問題となった酒席はモンゴル出身力士の先駆けとなった元小結・旭鷲山のダバー・バトバヤル氏が関取になったことを機に少人数で始め、20年以上続く「モンゴル人飲み会」だった。
バトバヤル氏が95年に十両に昇進して初のモンゴル出身の関取となった後、元関脇・旭天鵬(現・友綱親方)と元幕下・旭天山の3人で酒席を設けるようになったという。東京のモンゴル大使館で正月に集まったり、巡業先で食事をしたりする形で年に数回開催。同氏は「けんかや暴行は一度もなかった」と残念そうだった。
【横綱・日馬富士暴行】ビール瓶で殴打に「殺意」の有無は…「力士には腕力があり、生死に関わる行為」専門家らが立件可能性に言及
幕内力士への暴行問題が14日発覚した横綱日馬富士関。貴乃花親方(元横綱)は鳥取県警に被害届を提出しており、角界の看板力士による不祥事は、刑事事件に発展する可能性が出てきた。県警が事実関係の確認などを進めているが、刑法に詳しい専門家らは「違法性は極めて高い」「被害者の生死に関わる問題」と厳しい見方を示す。
問題では、暴行に至った動機のほか、“凶器”とされるビール瓶を使った暴行の状況の解明も焦点になるとみられる。
甲南大法科大学院の園田寿(ひさし)教授(刑法)は今後の捜査について、当事者や目撃者などへの聴取から、暴行に至る経緯や動機を明らかにすべきだと指摘した。
その上で、日馬富士関がビール瓶で貴ノ岩関を殴りつけたとされる行為を重視。さらに、負傷状況から人間の急所である頭部を殴った可能性が高く、「一般人よりも力士には腕力があることは明らか。生死に関わる行為ともいえ、殺意があったと判断されても不思議ではない」と推測する。仮に被害者側の貴ノ岩関の言動が暴行を誘発していたとしても「手段としての違法性は極めて高い」とみる。
また、中央大の藤本哲也名誉教授(犯罪学)は、被害者側の態度が軟化しなければ「立件される可能性は高いとみられる」とし、今後の当事者間の話し合いなどの行方を注目。近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)も示談成立の可能性はあるとしたが、「貴ノ岩関のけがと、日馬富士関の行為との因果関係は明らかにすべきだ」と述べた。
「スポーツは暴力を否定することが当たり前。ただ相撲界には、いまだに暴力を否定できない風土があるということだ」
こう批判するのはスポーツ評論家の玉木正之氏。「横綱の個人の問題で終わらせてはいけない。こうした風土に目を向けなければ、第二、第三の日馬富士関がいつ出てきても不思議ではない」とし、問題の徹底解明を求めた。
モンゴル人飲み会か?モンゴル人はやっぱり「モンゴル国」に戻るべきだ。