総合デジタル通信網ISDNサービス終了「24年問題」EDI対応費は5000億円

ISDN終了「24年問題」 EDI対応費は5000億円

■伝送遅延問題が発覚

 NTT東日本・西日本が2024年1月に固定電話をIP網に移行する。これに伴う総合デジタル通信網(ISDN)サービス終了でデータ通信が利用できなくなったり、加入電話を使った通信に遅延が発生したりして、企業間取引に影響を与えることが懸念されている。産業界では企業への周知や代替策の検討など「24年問題」への対応が急務となっている。

 「産業界にとっては大ごとだ」―。ITベンダーで構成する情報サービス産業協会(JISA)EDIタスクフォースの藤野裕司座長はこう訴える。

 IP網移行により現行の一般加入電話網(PSTN)で提供するNTT東西のISDNサービス「INSネットディジタル通信モード」が終了する。加入電話の通信は移行後も利用できるが、IP化に伴うデータの変換処理が必要で「伝送遅延が生じる」(同)ことが分かった。

 いずれも企業間の取引データをやりとりする電子データ交換(EDI)などのインフラネットワークで、商品の受発注や部品の調達など用途は幅広い。JISAによると、自動車や家電、流通、化学業界などEDIの利用企業数は30万―50万社(ISDNと加入電話)。対応するには新しいシステムを構築せざるを得ず「代替システムの導入費は全体で3000億―5000億円かかる」(仲矢靖之副座長)という。

■固定電話苦戦続く NTT東西が決断

 NTT東西はIP化に向けデータ通信の代替策を示している。IP変換装置を使わずアクセス回線を光回線などでIP網につなぐ方法だ。「IP―VPN」(閉域網)や「ひかり電話データコネクト」(帯域確保型)を活用し、ISDNサービスと同等の環境を実現する。対応が間に合わないユーザーには既存機器に変換装置を用いた補完策で、27年まで提供する。

 これらの方法はセキュリティー性や通信速度の帯域保証が必要だったり、当面の対策として利用するユーザーには有効。だが、用途によってISDNサービスに比べ費用対効果が低かったり、通信の遅延がネックになりかねない。

 複数の企業間で取引するEDI用途にはハードルが高く、多くの企業でインターネットを活用した方法を採用する見込み。NTT東西はこれを理解しており「ユーザーに合った代替サービス移行に向け引き続き協力していく」(NTT東の一ノ瀬勝美ネットワークサービス担当部長)。

 だが、ISDNサービスの利用が多い中小企業への周知は簡単ではない。そのため企業へのダイレクトメール(DM)発送や訪問、窓口の設置、新聞・テレビ広告などの施策を講じて訴求する。

 IP網に移行するのはPSTNを構成する中継・信号交換機が25年に寿命を迎えるため。莫大な投資で維持してもユーザーにコスト上昇分を転嫁できない。ユーザーに負担をかけず固定電話を利用できる環境を提供するため移行を決めた。

 NTT東西の固定電話契約数は約2000万契約と10年前の半減以下で収支は赤字。NTT東西にとってはIP網移行で投資を抑え、将来の維持コストを軽減する狙いもある。例えば中継・信号交換機に代わるルーターは汎用性が高く調達費削減につながる見通しだ。さらにNTT東の飯塚智営業企画部門長は「PSTNの知識を持つ人が減ってきており、ネットワークを保守する人的なコストを含めIP網の方が安上がり」とみている。

■JISA、インターネットEDIへの移行推奨

 産業界では業界団体が対応策の方向性を打ち出している。JISAはインターネットEDIへの移行を推奨する。ネット経由で企業間のデータ交換を行って取引を自動処理する仕組みだ。仲矢副座長はその理由を「サービス提供ベンダーが多く、高速なデータ交換ができる。複数の企業間でメッシュ状にデータ交換できるのも利点だ」と説明する。

 約4000社がEDIを利用している電子機器業界。電子情報技術産業協会(JEITA)はネットEDIの通信方式について「ebMS手順(ECALGA標準)」を推奨している。データ項目の拡張など将来の拡張性が高く、国際標準規格でグローバル取引に対応できるという。

 24年1月からIP網に切り替わるが、23年1月にNTT東西以外の他事業者発のIP化が始まるため、通信の遅延が発生する可能性がある。JEITA情報技術委員会の佐藤広隆委員長は「(遅延が発生する前の)22年12月末までにEDI移行を完了するように会員に呼び掛ける」と語る。

 銀行と企業間で振り込みや口座照会などを行うエレクトロニックバンキング(EB)などでISDNサービスや加入電話が使われている。3メガバンクと契約する企業だけで約10万社、月間取引件数は約1億件。全国銀行協会事務・決済システム部の九鬼康調査役は「決済に関わるため(伝送遅延による)経済的な影響は計り知れない」という。

 そのため全銀協は広域IP網を活用した「全銀協標準通信プロトコル(TCP/IP手順・広域IP網)」を策定し、適用回線としてネットなどの利用を認めている。九鬼調査役は「契約先が多くない地方銀行はインターネットバンキングに移行すると聞いており、対応は個々の銀行に委ねている」と話す。

■回線使用は年5000回、悩む放送用途

 ラジオ放送でも利用されている。ラジオ局の本社と、屋内外からの番組中継を結ぶ際の通信だ。全国約100社の民放ラジオ局が利用し、回線使用数は年約5000回。EDI用途に必要なメッシュ状の通信と異なるため、日本民間放送連盟企画部の高田仁専任部長は代替手段について「NTT東西の代替策や補完策を検討している。光回線敷設が困難な場所での対応を含め放送用として音質や遅延に問題がないか検証する」という。

 今後の課題は中小企業に対する誘導。市場規模の小さい業界は団体が主導して会員に情報提供したり、対策を示したりするのは難しい。そのため業界の大手企業が道筋を付け、中小企業が追っかける流れになる。

 全国中小企業団体中央会の丸山博志政策推進部長は「主要な団体や企業の代替手段の方向性が見えた上で周知を徹底して対応したい」としている。多くの企業は日々の業務で通信回線を意識せずに利用しており、まずは自社システムの把握から始める必要がありそうだ。

≪IP網への移行とは≫
 加入電話やISDNのネットワークをIP網に移行する。既存のメタル回線を生かしたままルーターやサーバーで構成するネットワーク上でパケット化したデータを伝送する。家庭や企業からNTT東西の局舎まで引かれたアクセス回線は継続し、NTT東西が固定電話サービスを提供する通信設備を置き換える。

 移行に伴う手続きやユーザー宅での工事は不要で従来の電話機などはそのまま利用できる。裏側のネットワークがIP網となるため距離に依存せず、通話料金は全国一律3分8.5円(消費税抜き)。

パナソニック、ISDNからMVNOへの移行サービス来月開始

パナソニックは5日、2020年度にサービス終了予定のISDN(総合デジタル通信網)について、自社のMVNO(仮想移動体サービス事業者)回線に移行するサービスを10月上旬に始めると発表した。通信容量3ギガバイト(ギガは10億)の利用料は月1000円程度(消費税抜き)で、ISDNの約3分の1に抑制できるとしている。

ISDNは音声とデータの両方の通信が可能。駐車場や店舗レジ、監視カメラ、電子商取引などで利用されている。現在、ISDNの法人利用は約280万回線あるとみられている。サービス終了までに30万回線の移行契約の獲得を目指す。

MVNO回線への移行に必要な専用端末(写真)をセンチュリー・システムズ(東京都武蔵野市)と共同で開発した。カメラやレジなど既存の機器を同端末にそのまま接続し、端末内のSIMカードで通信できるため、導入が容易。導入費用は10万円以下(消費税抜き)。

パナソニックのMVNOサービスは14年から法人向けを中心に展開している。契約数は現在約5万回線を超えている。

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