マツダの「哲学」とは?商品本部・猿渡健一郎副本部長に聞く

マツダの「哲学」とは?商品本部・猿渡健一郎副本部長に聞く

 マツダの車づくりの「哲学」とは何か。長年エンジン開発企画を担当し、2009年よりアクセラの担当主査を務め、現在は商品本部副本部長である猿渡健一郎さん(52)に話を聞いた。

――実際にマツダの車に試乗させて頂き、安全機能のご説明を伺いました。一番のポイントはどこでしょう?

 車は人が運転するものです。人が正しく認知・操作をできるよう、車の骨格としてしっかりと作りこまなければならない部分と、後からでも付けられる部分の区分けをすることから始め、骨格から車を作り込んでいきました。特に車の基礎部分となるプラットフォームは、それをベースに長い時間をかけて車を作り続けます。簡単に修正や変更をできるものではなく、開発にも莫大なお金がかかります。だからこそ、しっかりと作りこむことが大事だと考え、こだわりました。

――多くの部署が関わって車を作っています。話し合いの中でマツダの独自性を生み出したのですか?

 そうですね。今回の新世代安全装備の特徴は「一括企画、一括開発」ということです。これまでは各プログラムに責任者がいて、その人の思いでそれぞれ車を作っていましたが、そうすると必ずしも思想が一致しているわけではなく、ズレが出てきてしまうことがありますよね。だから、実は今回、エンジンもトランスミッションもプラットフォームも全部一気に作り変えたのです。

―― 一気に、ですか!

 はい。我々は小さな会社です。一括で企画・開発をして、すべての車にその機能を搭載することが、効率的で正しいことなのではないか?と考えたのです。エンジニア全員が集まって、優先順位を決めました。「走る歓び」を掲げている以上、人間を中心に物事を考えようと。結局、人が車を運転するわけですからね。

 例えば、ステアリングの位置。マツダの場合、ステアリングは運転する人の体の真ん中にあるようになっています。いろいろな車を見ていただくと分かると思うんですが、だいたい中心からずれていて、つまり体がねじれた状態で運転しているわけですよ。これって正しい?本来は真ん中にあるべきでは?と考えて、マツダは真ん中にステアリングを配置し直しました。

――なるほど、開発時から人間中心に考えたわけですね。

 足の置き方についても同じです。普段、皆さんは座ってリラックスする時、足を前に出しますよね。我々は、この状態で足を置くのが一番理想的だと考えました。自然に座った状態から股関節とかかとを軸に足を内側に回転させる角度(内旋角)を考え、楽にアクセルとブレーキを踏めるようにしたのです。この理想を実現させるためにはタイヤやエンジンの位置なども考えなくてはならなかったので、一番大変でしたが、とても大事なことだったと思っています。

――部署による意見のぶつかり合いが当然あったと思いますが、どう乗り越えていったのでしょう。

 それも「人間中心」というキーワードです。人間中心というキーワードを土台にして、人間をどう座らせるか?と考えていく。人間を起点にして考えると、すっと道筋が見えてくるのです。

――ユーザーの反応はどうですか。

 安全についての評価はしっかりと頂戴しています。私が意識しているのは、事故について正しい認識をしてもらうこと。多くの人は「自分は運転が上手だから事故は絶対起こさない」と思っています。でも、誰もが事故を起こす可能性があることを冷静に認識していただく必要があります。その上で、マツダの考え方やさまざまな安全装備を丁寧に説明することで、「あ、なるほどね」と納得していただけるのです。

 今回、エンジニア18人とサービス担当とで、全国およそ60か所のマツダの店舗をすべて回りました。店頭販売の担当と一緒に、基本的なご説明はもちろん、安全装備でも回避できないリスクなどをお話したのです。こうした取り組みで、サービス担当・営業担当の事故に対する認識や安全装備への理解が深まりました。本当に安全な交通社会を作っていこうと思ったらコミュニケーションをとらないとダメだと思っています。

――猿渡さんご自身、安全を本気で考えはじめたのはいつからですか。やはり入社当初から?

 最初からでは全然ないんですよ!ロータリーエンジンがやりたくて入社したので、「燃費なんてどうでもいい!」みたいな若さを持っていた時期もありますからね(笑)。でも、年と経験を重ねるごとにだんだんと考え方が変わり、特に安全を意識し始めたのは2009年にアクセラの開発主査になった時からですかね。車種全体を見るようになって、お客様に何の価値を伝えるのが大事か、真剣に考えるようになったんです。

 そのあとにドイツに行ったことも大きいです。ドイツはアウトバーンの国なので、メーカーは時速200キロ以上の巡航速度を想定するわけです。なぜドイツのメーカーが安全にこだわって、車を作ってきたのかが肌感覚で分かりました。

――その安全に対する思いや思想を「サポカー」などで国も広げようとしています。

 安全はマツダ1社がやればいいっていうものではないと思います。車は、いろんなメーカーが作っているし、いろんなドライバーがいるわけですから。メーカー各社、ドライバー各々が、安全について真剣に考えていくことが、安全な交通社会を作ることになるのかなと思っています。国交省や経産省が「サポカー」を推し進めようとしているのは、長期的にアプローチしたいからこそだと思います。

――車の評価トリップで地球35周分を走行したと伺いました。開発のモチベーションはどこから生まれるのですか。

 自分たちが作った車で事故を起こさせたくないという思いからです。35周してもまだ我々が知らない状況はたくさんあるので、これからも走り続けます。例えば、輪留めって、世の中にものすごく沢山の種類があるんですよ。それを一個一個乗り越えないような制御を目指していますが、先日、CM撮影でスペインに行った時、とある輪留めを乗り越えてしまって(笑)。世の中に知らないことはあるし、我々が作ったものが、本当に正しく働くかというのは見てまわるしかないのです。

 正直に言えば、システムは誤作動をゼロにはできません。例えば、BSM(ブラインド・スポット・モニタリング)は、車がいないのに警告音が鳴ることがあります。車に反射するはずの電波がガードレールで乱れ、あたかも車がいるように反応してしまう。システムには限界がある。でも、その原因を1つ1つ調べていき、潰していくことが大事だと思っています。お客様が安心して車に乗れることにつながっていくのです。

――猿渡さんにとっての理想な車とは。

 乗っていて楽しいと思う車です。何のストレスもなく、どこまでも走りたい、どこまでも走れる車が理想です。それを実現するためには、運転手が疲れない工夫やヒヤッとした思いをしない工夫など、いろんなファクターを考えなくてはいけません。でも、まだまだ実現できているとは思いません。だからこそ、車の開発は面白いのです。いつもその時の技術の限界で車を開発するじゃないですか。でも数年後には、もっといい車ができている。我々は常に限界を突き詰めているし、さらに個々のエンジニアがいろんなことを考えて、新しい提案をして、チャレンジをし続けて、ようやくブレイクスルーができるのだと思います。

――各エンジニアの思いを吸い上げる努力はどのようにされているのですか。

 我々の「哲学」である「人間中心」から、各エンジニアが方向性を間違わないように、ずれないようにすることでしょうか。実際、エンジニアの部屋に人体模型ありますからね。乗り心地を見るときに、内臓の周波数を図って、どうやったら酔わないかを研究したり、骨盤の動きで座り心地を研究したり、首の筋肉の緊張度合いや負荷のデータを取っていたり…。車の「走る・止まる・曲がる」を研究するのに、人体を研究しています。

――想像するエンジニア像とはだいぶ違います。

 違いますよね!マツダには心理学者までいますから。それぞれの領域の人間が、あらゆる点で人間を研究するわけなのです。自分のフィーリングに合うか合わないかではなく、実際に数値化して構造に落としていく作業をしています。我々は小さな企業ですから、コミュニケーションが比較的取りやすいのです。壁はそんなに高くないと思います。

――最後に。これからの夢を教えてください。

 やっぱり乗る人の笑顔が見られる車を作ることです。それはドライバーの笑顔だけではなくて、家族もパートナーも、みんなの笑顔が見られることです。車は人間をいろいろなところに連れて行ってくれ、そこで感じた楽しい思いや経験が人生を豊かにすると思うのです。車が人生を豊かにする手段であるなら、どこまでも乗りたいと思える車を作れるかどうか。みんなが笑顔の方が楽しいじゃないですか。すべての人が笑顔になる車をこれからも作りたいと思いますね。

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