なぜ、会社を辞めた人のことを悪く言おうとするのか?
「あの人は仕事のミスが多いから、上司を怒らせた」「すさまじいトラブルメーカーだった」…。
会社員だけではなく、社長や役員たちも同じようなことを言う。私が、社長や役員を取材していると、退職者のことを「彼は優秀だった」などと肯定的にとらえ、話す人はまずいない。
これは、大企業から中小・ベンチャー企業まで全般に言えることだ。今回は、その理由を私の取材で感じ取っていることをもとに考えてみたい。
■心を落ち着かせる
退職者をバカにすることは、会社に残った社員からすると、安心するのだ。その話が事実であるか否かは、関係ない。皆で辞めた人をバカにすることで、嫉妬心やねたみ、ひがみの心を落ち着かせることが、狙いなのだ。言い換えると、辞めた人がうらやましいのだ。だが、転職先を見つけることもできないし、独立し、自営業を始める力もない。そこで、皆で退職者をバカにする。
■一体感
退職者をバカにすると、社員たちは一体感を感じることができる。社員間には様々な競争があり、昇進・昇格、配置転換や人事異動もある。そこに必ず、感情的なしこりや摩擦がある。そのマイナスの空気やエネルギーを退職者にぶつけることで、日々の対立や衝突から目を背けることができる。つまり、退職者という共通の敵をつくることで、スクラムを組む。鬱積した不満を解消することもできる。不満に満ちた職場から抜け出すことができない社員が互いに支え合う一体感があるのだ。
■精神的な負担が少ない
退職者をバカにすることは、残された社員からすると、精神的に負担が少なく、ストレスがない。本来、退職に至った理由や経緯は、人事部などで事実に基づいて検証され、会社として何らかの改善策を練り、今後に生かさないといけない。だが、このようなことをしている会社は少ない。それは、エネルギーや時間などのコストが必要だからだ。
人事部などが検証しようとすると、退職者の上司や周囲の社員にヒアリングをしないといけない。人事部員が責められたり、批判を受けたりすることもある。人事部員も会社員であり、そこまでして社員の退職の真意を知ろうとはしない。とりあえずは、退職した社員の仕事ぶりや性格、勤務態度などに問題があったという結論にしておくのが、妥当と判断するのだ。
■宿命から逃げることができる
多くの会社員は、何らかの不平がある。だが、辞めることができない。時間が経ち、年をとる。転職も難しくなる。結局、今の会社に残る。そして、若い社員に自分の武勇伝などを話し、大きく見せようとする。多くの会社員は、このような宿命を抱えて生きている。辞めていく人をけなすと、この悲しい性から解き放たれた解放感に浸ることができる。強いアルコールを飲むと、酔いが回り、とりあえずは、日々の不満を忘れることができるのと同じだ。
■社長や役員、管理職などが黙認する
社長や役員、管理職などは、退職者をバカにする社員を厳しく叱らない。誹謗・中傷を言っていても、黙認している場合が多い。それには、いくつもの理由がある。1つは、退職者はある意味での裏切りをしたからだ。「辞めていった彼は、立派」と称えてしまえば、退職者が増えていくかもしれない。むしろ、「うちの会社を辞めたところで、あいつは上手くはいかない」と言い、辞めることをためらうように仕向ける。こういう文化があるからこそ、退職者をバカにする社員は減らない。
■本当にダメな人材であった
バカにされる退職者は、本当にダメな人材であった可能性もある。例えば、遅刻が多く、仕事のスピードは遅い。上司の命令・指示も正確に理解できない。取引先やクライアントとの関係も悪化させるばかり。ところが、悪びれた様子がない。反省もしない。むしろ、居直りともとれる言動をとる。皆から浮きまくりとなり、孤立し、ひっそりと辞めていく。こういう社員はやはり、バカにされやすい。
会社を辞める人がいたら、その後を観察してほしい。「あの人はひどかった」「迷惑だった」「もっと早く辞めればよかったのに…」とバカにされる人がいたら、今回の記事を思い起こしてほしい。取り上げたいずれかの理由で、そのようになっているからだ。それを探ると、職場や会社の問題点なども見えてくるはずだ。退職者をバカにしたところで、その社員たちの前途が明るくなることはまずない。
