「子連れ電車移動」日本と欧州はこんなに違う

「子連れ電車移動」日本と欧州はこんなに違う

昨今、日本でにわかに議論されるようになってきた、子供連れの乗客に関する問題。子供連れがうるさい、ベビーカーを畳まずに邪魔だ、などという意見と、子供連れだって電車に乗って移動する権利がある、自分たちだって昔は子供で親は苦労していた、などという子供連れとそれ以外の乗客の意見がぶつかり合い、お互いを非難しあう状況に発展することもある。

 もちろん、双方がお互い少しずつ譲歩すれば良いのだろうが、色々制約がある中で、相手のことまで考えるのが難しい状況があるのも事実だ。

■子連れでの移動に気を遣う日本

 小さい子を連れて出かけることがどれほど大変かは、実際に親になったものにしか分からない。ベビーカーの置き場から始まって、車内で騒がないかとか、乳飲み子であれば車内で泣きださないかとか、トイレの問題とか、挙げれば枚挙に暇がない。大半の子供連れの親は、いろいろと気を遣って列車を利用している。

 それが直接の原因というわけではなくても、子育て中に気を遣う煩わしさが、少子化問題に少なからず関わっていることは否めないだろう。子供連れでは、やりたいこともできず、行きたい場所へも行けないのであれば、子供はいなくても良い……と今の若い人たちが考えても不思議ではない。そう感じるほど、子供を連れて公共交通機関で移動することは難しい。

ヨーロッパではどうしている?

 しかし一方で、車内で静かに過ごしたい人が多くいることも事実で、その人たちに言わせれば、子供を静かにさせない(できない)親に対して苛立ちを感じることもあるだろう。特に、親同士はおしゃべりに夢中で、子供たちが大声をあげているのを止めようともしないマナー違反を見かければ、咎めたくなる気持ちも分かる。

 いったいどうすれば、双方がお互い気持ちよく車内で過ごすことができるのだろうか。ここでは、ヨーロッパ諸国の事情をご紹介し、その解決方法を探ってみよう。

■根本的に違うのは「混雑度」

 ただ、ヨーロッパでの事例を示す前に、まず日本とは混雑の度合いが違うという点に触れなければならない。

 日本が、ヨーロッパ諸国と根本的な部分で異なるのが、特に大都市圏におけるラッシュ時の混雑度だ。ヨーロッパではパリやロンドンなど、人口500万~1000万人以上の大都市圏でもピークの時間が短く、車内も身動きできないほど混雑している時間は少ない。それこそ、ほんの30分~1時間ほど時間をずらせば、これらの大都市圏でもベビーカーを畳まずに乗ることは可能だ。

 つまり、日本の大都市で問題となるような、車内でベビーカーを畳むか否かについて、大きな議論となるような問題にはならない。わずかなピーク時間を外せば、空いているスペースにベビーカーを載せて利用することができるのだ。

 ……それでは日本とは事情が異なるので、ということで話が終わってしまうが、もちろんヨーロッパ諸国も子供連れ利用者のために、様々な仕組みやマナーがある。

「会話をしてはいけない」車両に注意!

 例えばそのベビーカー。いつでもどこでも我が物顔で列車に載せて良いわけではない。混雑のピーク時間帯は折りたたんで載せるよう案内されるし、載せる場所も多目的スペース、いわゆる車椅子スペースに極力載せるように指示される。また、その多目的スペースはあくまで車椅子が優先で、もし車椅子利用者が乗車してきたら譲って欲しいと車内に記載されている。より弱い立場にいる人が優先というわけで、理にかなっている。

 高速列車など、都市間を結ぶ長距離列車では、車内の過ごし方によって客車を分けている列車も多い。携帯電話の通話はもちろん、乗客同士の会話も禁止されている「サイレントカー(スペース)」も長距離列車など一部の列車に設けられている。当然ながら、小さい子供連れで、子供が声を上げるのを止められない乗客は、サイレントカーとは別の車両を利用しなければならない。

 以前、息子がまだ幼かった頃、確認せずに空いている席へ座ってしゃべっていたら、ここは会話禁止だと近くの乗客に注意されてしまったことがある。サイレントカーの場合、ステッカーなどで明示されているので、乗車の際は注意しなければならない。

■ファミリー向けスペースが充実! 

 その逆で、ファミリー向けスペースを備えた列車もある。日本でも、観光地へ向かう列車の一部には子供用のスペースが設けられている列車があるが、ヨーロッパではフィンランドやスイスのインターシティといった一般的な都市間特急列車にも、子供たちが騒いでも大丈夫な専用区画が設けられている列車がある。オーストリアの特急レイルジェットには、子供たちがアニメを見て楽しめるミニシアターまで設けられている。

 このように、ヨーロッパでは乗客たちの多様な声を基に、それぞれに適した座席を用意しているのが特徴だ。日本でも、こうした目的別の座席を設ける取り組みは一部の列車で行なわれているが、まだ一般的とは言い難い。禁煙・喫煙で車両を分けることは一般的に行なわれてきたが、ほとんどの列車が禁煙となった今、次は「音」による車両の区分けが検討されても良いのではないだろうか。

 音に関しては、単純に分けるだけであれば、喫煙車のように灰皿を用意するといった設備的な投資は必要なく、車両ごとの区分けはステッカーによる表示程度で済み、コストもさほどかからないだろう。日本の混雑状況を考えれば、一般的な列車に遊具を備えた子供専用スペースを設けることはなかなか難しいことなので、せめて子供たちがしゃべっていても許される区画があっても良いと思う。

バリアフリー化は進んでいなくても…

 ところで、バリアフリー化が日本より進んでいる印象の強いヨーロッパだが、それは大きな間違いだ。比較的システムが新しい都市を除いて、意外とバリアフリー化は進んでいない。特にロンドンやパリなど、ヨーロッパの中でも歴史ある大都市は、行く先々で障害が待ち受けている、と言っても過言ではない。

 世界最古のロンドン地下鉄は、150年以上の歴史を誇るだけあってシステム全体が古すぎ、地下深くに掘られたホームへ、地上からエレベーターだけで到達できる駅はかなり少ない。日本でも同じ状況が指摘されているが、地下にあとからエスカレーターやエレベーターを設置しようとしても、地中にある多くの埋設物を避けて設置することは困難を極める。

 そんなロンドン市内へ地下鉄を使って出かけると、ベビーカーを押していれば様々な障害に直面する。

 しかしロンドンで、ベビーカーを押していて困ったことは、ほとんどなかった。何故なら、ベビーカーを押していれば、それが男性であれ女性であれ、何人もの人が階段で手を貸そうと、間髪入れずにすぐ申し出てくれる。これはもはや、システム云々の話ではなく、社会全体の基本的構造が、弱者に手を差し伸べるよう構築されているということなのだ。

■寛容さを失うほどの混雑が問題だ

 これはヨーロッパのみならず、海外暮らしをしている多くの子持ちの親から、幾度となく聞いた話だ。私自身も一人の親として感じたことだが、残念ながら同じ状況に直面した際、日本では「間髪入れずに」というほど、手助けを申し出てくれる人が多くなかったことは事実だ。

 決して日本人がダメだという話ではなく、これは日本人特有の国民性で、そういう場面ですぐに声を掛けることをつい躊躇ってしまう、シャイな一面なのだと理解しているが、相手を思いやり、困っている人を手助けできる、広い心を皆が持てるような、そんな社会になって欲しいと強く願っている。

 システム全体について話を戻すと、日本国内の大都市圏の公共交通機関は、乗客が子供連れに対して寛容になれない、心の余裕を生み出すことができないほどに混雑しているという点も問題として考えなければならない。せめてラッシュピーク時以外は、小さい子供を連れて安心して乗れる公共交通機関であって欲しいし、それだけの十分なスペースを取れるような、余裕のある環境となることを切に願う。

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