MS、新OSとSurface Laptopで教育市場に本腰 巻き返しなるか
米Microsoftが教育分野向けOSとして、「Windows 10 S」を発表した。あわせて、同社ブランドのPCであるSurfaceの新製品として「Surface Laptop」を6月15日から米国で発売することを発表。同製品にも、Windows 10 Sが搭載されることになる。
●Windows 10 Sの特徴は
Windows 10 Sの特徴は、利用できるアプリがWindowsストアアプリに限定されたという点だ。
Windowsストア以外からアプリをダウンロードしたり、インストールしたりしようとすると、使えない旨を示すアラートを表示し、Windowsストアから似た機能を持つアプリを紹介する。Microsoftでは、WordやExcel、PowerPointなどのOffice 365アプリとして「Office 365 Personal」を、Windowsストアを通じて提供することを発表。これも、Windows 10 Sの提供開始にあわせた施策の1つだ。
さらにUSBメモリを活用することで、PCごとの環境を容易に設定することができるため、教育の現場では、授業を始める際に、生徒ごとの環境を設定するといったことも可能だ。
Windows 10 SおよびSurface Laptopの日本での投入時期などについて、現時点では明らかにはなっていないが、最近、Microsoftのグローバル向けの発表では、北米だけの提供時期が示されることが多い。日本の展開時期については、別のタイミングで発表されることになるだろうが、それほど期間を置かずに発表される可能性が高そうだ。
●教育市場で巻き返すための切り札に
今回のWindows 10 SおよびSurface Laptopの発表は、Microsoftの戦略において、大きな意味を持つことになりそうだ。
1つは、Microsoftにとって、教育分野での巻き返しに向けたのろしになるという点だ。
日本では、富士通クライアントコンピューティングやNECパーソナルコンピュータ、東芝クライアントソリューションなどが、教育分野において高い実績を持つことから、Windowsの浸透率が高いが、米国では、グーグルのChrome OSが高いシェアを持ち、教育市場のシェアは50%を超えるという調査結果もある。
PC領域において圧倒的なシェアを持つMicrosoftにとっては、唯一、この市場が攻めきれていない大型市場ともいえる。
グーグルのChrome OSは、テバイスメーカーとの連携で、2011年から欧米市場を中心にChrome OSを搭載したChromebookを発売。当時から200ドル前後という低価格設定や、「Windows環境に比べて75%の導入および管理コストの削減が可能になる」(グーグル)という導入・運用コスト面でのメリットが教育分野で評価されている。また、授業のたびに全てのPCを初期化したり、特定のアプリをダウンロードできるように設定したりできるといった、教育現場における管理のしやすさにも注目が集まり、シェアを高めてきた経緯がある。
Windows 10 Sは、こうしたChrome OSが先行する教育市場において、真っ向から対抗するものになる。
というのも、Windows 10 Sでは、教育分野をターゲットとする仕様にしただけでなく、それを取り巻く製品群においても、教育分野をターゲットにした製品を用意し、Chrome陣営に対抗できる体制を整えたからだ。
例えば、Surfaceブランドの製品として新たに加わったSurface Laptopは、999ドルからという価格設定で、Chromebookと直接、競合するものではないが、Acer、ASUS、デル、富士通、東芝、HPなどのデバイスメーカーが発売する教育市場向けのWindows 10 S搭載ノートPCやタブレットは、189ドルからの価格設定となっており、Chromebookに十分対抗できる価格設定になっている。
さらに、Windows 10 Sでは、Office 365 for Education with Microsoft Teamsのライセンスと、Minecraft Education Editionの1年分の利用権も提供する。日本では、Officeをプリインスートルして販売するのが一般的だが、海外ではOfficeが一緒に提供されるのはイレギュラーな措置であり、ここにもMicrosoftの戦略的意図が感じられる。そして、同社が今後の戦略的コラボレーションツールに位置付けるTeamsをここに加えたり、教育分野に不可欠なMinecraftを提供する点でも、力の入れ具合が並々ならぬものであることを感じさせる。
教員や生徒にも、Windows 10環境を使ってもらうためのハードルを下げることで、最新の機能やセキュリティを体験してもらい、教育分野からWindowsファンを育てていくことになる。
Windows 10 Sの戦略性は、もう1つの観点からも推し量ることができる。
それは、利用できるアプリをWindowsストアからダウンロードしたものに限定したという点だ。
この点に関しては、同じくマーケットプレイスから提供されるアプリだけを利用できる仕組みを採用しているChrome OSにあわせたものという論調の記事が多いが、これはMicrosoftにとっては、デスクトップアプリへの決別に向けた大きなステップと見ることができるだろう。
とくに、Windows 10 Sでは、教育分野向けという切り口で提案しており、これからPCを利用する若い世代に対して、Windowsストアで提供される「UWP(Universal Windows Platform)」のアプリのみを利用する環境を提供。デスクトップアプリを利用しないという世界へと導く狙いがある。極端なことをいえば、これからの世代に対しては、「ブラウザはIEを使わずに、Edgeを使ってほしい」という、隠れたメッセージであるともいえよう。
そしてこのOSは、Surface Laptopへの搭載からも分かるように、教育分野以外にも提供されることになる。その点では、Microsoftが中長期的な視点で、UWP環境へと完全移行するための布石の1つと受けとれなくもない。数年後のUWPへの一本化にソフトランディングするためのきっかけになったOSといわれるようになるかもしれない。
もう1つ気になるのは、Surface Laptopの存在だ。
Surfaceシリーズの新たなラインアップとして用意された同製品は、Windows 10 Sが搭載されており、教育分野向けという側面が強く打ち出されているが、Windows 10 Proにもアップデートが可能であり、一般利用も想定していることが分かる。実際、教育関係者であれば無料でWindows 10 Proへのアップデートができ、一般ユーザーの場合でも49ドルというアップデート料金が発表されている。学生であれば、無償でアップデートできる仕組みと理解してもいいだろう。
現時点では、日本での発売時期などについては明らかにはなっていないが、Surface Laptopが日本でも発売されれば、SurfaceBookで人気が高かったデザイン性を踏襲しながら、コストダウンを図った点は高く評価されそうだ。学生をはじめとする若者や、女性層にも人気を博しそうな予感がする。
そして999ドルという価格帯をみれば、Macbookとの競争力がさらに高まるともいえるだろう。日本では、フル機能を搭載したWindows 10 Proにしたいと考えるユーザーも多いだろうが、そうした要望にも、アップデートで対応できる点は日本向けの施策ともいえそうだ。
Microsoftは、「地球上の全ての個人と全ての組織が、より多くのことを達成できるようにする(Empower every person and every organization on the planet to achieve more)」というミッションを掲げている。だが、より多くのこと(Achieve More)を達成するためには、最新の環境に移行することが前提であり、古いWindows環境やOffice製品、各種デスクトップアプリを利用する過去の環境のままでは、それは成し得ないと考えている。
今回の一連の発表は、教育分野に新たなWindows環境へのシフトを促すとともに、HoloLensによって実現するMR(Mixed Reality:複合現実)との組み合わせによる新たな提案の加速や、Teamsによる会話を通じた新たなコラボレーションを教育分野で実現する可能性の追求、Minecraftのさらなる広がりなど、将来に向けた多くの要素が盛り込まれている。
教育分野に対して、また、若い世代に対して、Microsoftが目指す「より多くのこと(Achieve More)」を実現するための仕掛けという点では、大きな一歩になるものといえよう。
