定年後、夫婦は「共通の趣味」を持つべきか
前回の記事では「定年後、年収が激減しても夫婦でもめない法」を書いたが、今回も定年後の夫婦が快適に暮らすにはどう時間を過ごせばいいのかに焦点を当てたい。読者のみなさんは、趣味をお持ちになっているだろうか。多くの方々は「たくさん持っている」とおっしゃるかもしれない。だが、その中で本当に「打ち込める」ものや「得意」と言えるようなものは、はたしてどれだけあるだろうか。なぜそんな質問をするかといえば、定年を見据え、シニア夫婦が円満な夫婦生活を送るうえで、お互いの趣味を尊重することはとても大切になるからだ。
もちろん、趣味の考え方はひとそれぞれだ。だが、ハードルを高くして考えると、自分でも「一生モノの趣味」といえるようなものは、10年くらいはそれを続け、その奥深さを知るくらいでないといけない。昔、そんな話をいただいて、そのとおりだと思ったことがある。
私の趣味といえるものは「食」に関すること以外は、あまりない。そもそも「食」の領域は非常に奥が深い。私は中でも「野菜」が好きなのだが、「トマト」ひとつとっても、品種、地理・気候・世界史・文化史・栄養・加工保存技術など、アプローチは本当に幅広く、学ぶべきことは尽きない。
■とりあえず「相手の趣味」に付き合ってみることが大切
では、夫の趣味(または本当に好きなこと)とは何か、ご存じだろうか? もちろん、逆もそうだ。夫婦でお互いの趣味をどれだけ把握しているだろうか。
実は、私の夫は、もともと音楽が好きということもあり、定年前からアルトサックスを習い始めた。退職金で夫が最初に買ったものはアルトサックスである。教室に通い、30歳前の若い講師に「イロハ」から教えてもらい、家でも突拍子もない音を出しながら練習をしていた。楽器をお持ちになったことがある方ならわかると思うが、結構大きな音が出る。なので、ご近所には配慮が必要だ。「家で練習をするなら、大きい音は、日の高いうちに終了するように」という取り決めをした。
夫がアルトサックスを習い始めて半年後、発表会があるという。「聞きに来ないか?」と誘われた。発表会なので、聴衆は参加者とその家族くらいということだった。「父兄参観」というか「家族参観」ということならば行かざるをえない。「行く! 行く!」という積極的なレスポンスではなく、「わかりました」という回答をしたように思う。この辺りの「微妙なニュアンス」が夫に伝わったかどうかは疑問ではあるが、とにかく「拒否しなかった」わけだ。
発表会が近くなるにつれて、夫はカラオケボックスへ楽器を持って練習に通う頻度が高くなった。1度ボックスに付き添いで行ったときなどは、受付の人が“いつもの(アルトサックスの)練習ですね”、といった顔で、カラオケ用のマイクを渡さず、すぐに部屋を案内してくれたぐらい、夫の顔は知られていた。平日の日中、カラオケボックスは「シニアのたまり場」になっており、「歌って、しゃべって、時には食べて」と、エネルギー発散の場となっていることも、帰り道に聞かされたものだ。
さて、いよいよ発表会の当日。私は夫と同じ初級クラスに通うおじさまたちや若者にごあいさつさせていただいた。出番を待っている間、夫も含め彼らは曲や練習方法について熱心に情報交換していた。さあ、本番だ。実を言うと、完全に「幼稚園のお遊戯会の保護者の気持ち」だった。
この種の発表会は最後まで参観者にいてもらうために、発表順は初心者から徐々に上級者へと移り、聴きごたえのある内容となっていく。もちろん、夫はかなり初めのほうだ。肝心の演奏はというと、上手とはいえないものだった。だが本人がとても楽しくノッていたので、会場は大いに盛り上がった。
その後、「初級クラスメンバー」での演奏も無事こなし、そのあとは夫婦そろって上級者の演奏を一緒に聴いた。高校時代からやっているという「20年選手」の若者とは格が違うことは、ど素人の私にもよくわかった。しかしいずれも音楽を、そしてアルトサックスをとても楽しんでいる。それが好きな人ばかりだった。「こういう世界もいいなあ」と感じた。
この「アルトサックス参観」、2回目の公演の時は、「行く!」と即答した。実はライブハウスでセミプロの方々がバックの伴奏を固めてくださっていたこともあり、本人たちも聴く側も、グンと盛り上がった。70歳近い方もおしゃれをして少年のようにうれしそうに演奏していた。なかなか格好よかった。「なるほど、こういう世界が好きなのか」。結婚してそれなりに夫の好みは知っていたつもりであったが、やはり実際に行ってみないとわからないものなのだ。
■「頭ごなしに誘いを断る」のだけは、やめよう
一方、夫に付き合ってみて、駄目だったこともある。夫は「京都検定1級」を持っている。自他共に認める「京都通」ということなのだが、その仲間の人たちとの会合に付き合わされたことがある。この場合は、私の知識レベルが夫や関係者と違い過ぎて、ほとんど会話についていけなかった。話を聞いていて疲れてしまったので、私は「今回限りで」と申し上げ、それ以降、この関係の会合にはまったく付き合っていない。
定年を迎える方に限らないかもしれないが、もし「相方」から趣味の話で誘われたら、1度は付き合ってみたほうがいいと思う。誘う側は、実は相当緊張しながら声をかけているはずだ。頭ごなしに断ったら、「2度目の誘い」はない。1度は付き合ってみよう。行って体験してみて、自分に合わなければ「それまで」でいいのだ。たとえ1回で終わっても、話を聞くだけよりは互いを理解するには大いにプラスになる。ささいなことかもしれないが、定年を迎えた夫婦が円満に生活するうえで、ぜひ参考にしていただきたいと思う。
