特定の領域で人間を凌駕し始めた人工知能AIはどのくらい人間から仕事を奪うのか?

AIはどのくらい人間から仕事を奪うのか?

● 特定の領域で人間を凌駕し始めた人工知能

 「人工知能(AI)の進化が人間の存在を脅かすのでは?」といった話題を、最近よく耳にするようになった。確かに将棋や囲碁でAIがプロ棋士に勝利するなど、ある特定の領域では、AIの能力が人間に近づき、凌駕するようなケースが出てきている。

 また、AIを搭載した自動運転車が普及すれば、タクシー運転手、トラック運転手のような職業は廃れていかざるを得ない。そのように、「将来人間はAIに仕事を奪われてしまうのではないか」と懸念する向きもある。今後10年から20年ほどで、米国の総雇用者の約47%が職を失う可能性を指摘する研究もあるそうだ。

 有名な「ムーアの法則」によると、コンピュータのハードウェアの性能は18~24ヵ月で2倍になる。むろん、人間の脳はそこまで急速に性能を上げられない。だから、いったんある分野で人間の能力を超えるAIが登場すると、その分野で人間は再びAIの上を行くことはできない。さらに技術が進歩すれば、あらゆる面で人間の能力を凌駕するAIが誕生しても、少しも不思議ではない。

 発明家で実業家、未来学者でもあるレイ・カーツワイル氏は、現在グーグルでAI開発の総指揮をとっている。2005年に出版した著書でAIが人間を超える時点を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼び、それを2045年と予測したのは有名だ。

 そのシンギュラリティを、AIが人間を支配、あるいは滅ぼしてしまう時ととらえ、本気で心配する人もいるようだ。

 しかし本書『シンギュラリティは怖くない』の著者、中西崇文氏は「その恐れはない」と断言している。

 中西氏は2006年に筑波大学大学院システム情報工学研究科で博士(工学)の学位を取得。その後、独立行政法人情報通信研究機構でナレッジクラスタシステムの研究開発や、大規模データ分析・可視化手法に関する研究開発等に従事した経験を持つ。ビッグデータ分析システム、統合データベース、感性情報処理、メディアコンテンツ分析などを専門とし、現在は、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授/主任研究員、ならびに、デジタルハリウッド大学大学院客員教授を務める人物だ。本書の他に『スマートデータ・イノベーション』(翔泳社)という著書もある。

 本書で中西氏は、AIが急速に進化している要因を最近の事例を交えながら分かりやすく説明する。そして、人類はシンギュラリティを怖れる必要はなく、むしろAIを活用し、AIと恊働することで、ともに進化できるはず、といった持論を展開する。

 だが、中西氏が言うように、シンギュラリティは本当に怖くないのだろうか。

● 人工知能は人間から信頼されなければ淘汰される

 人類は「道具」を使うことで文明を発達させてきた。道具は肉体の力を増幅したり、人間の作業効率を上げる。

 そしてその後、人類は人力以外の動力を用いる「機械」を発明。そのおかげで桁違いに大規模な生産活動を行えるようになった。

 機械の導入は、一部の労働者の職を奪った。しかし、その代わりに、機械や工場の生産ラインの設計・構築・運営・管理といった新たな仕事が生まれた。

 また、機械の動力に必要なエネルギーを生産・供給する事業や、大規模な設備投資や運営資金を融資する金融業、大量に生産される商品を消費者に届ける流通業や小売業なども発達する。こうした広がりにより、雇用の全体量は減少するどころか、長期的にはむしろ増えている。

 さらに現代になると、ロボットなど自律的に動く「自動機械」が登場し、発達。生産ラインの制御や管理など、それまで人間が担っていた知的労働の一部を機械が担うようになる。最近では、ほとんど無人で操業可能な工場も増えてきた。家庭でも全自動洗濯機からお掃除ロボットまで、“勝手に”家事をやってくれる自動機械が揃ってきている。

 すると人間の仕事は、新たな商品やサービスや、その利用シーンを企画・デザインするようにシフトしてくる。自動化による省力化が、創造的な領域に雇用を振り分けるようになってきているのだ。

 このように道具や機械の進化は、単に人間の仕事を奪ってきたわけではない。社会構造や人々の嗜好を変化させ、それに応じて人間側の役割分担を変えてきたということだ。

 中西氏は、今まさに進化の途上にある、高度なAIにより自律的に動く自動機械を「インテリジェント機械」と名づけている。それには、人間には処理不可能な膨大なデータをもとに、知的な判断や創造まで行う機械も含まれる。

 現在でもAmazonなどのECサイトには、過去の購買履歴を分析し、ユーザーが次に何を必要としそうかを予測してリコメンドする機能がある。また、バッハの楽曲データを大量に学習してバッハ風の作曲をする、あるいは必要なデータを与えると記事の文章を書いてくれるなど、人間の知的創造力を代替するAIもすでに存在する。

 インテリジェント機械がさらに進化すると、人間を介さずにAI同士が直接「協力」するようになるかもしれない。

 たとえばECサイトのAIが過去の大量の購買履歴データをもとに、来年売れそうな商品のデザイン案を作成するケース。その時に、工場の生産管理を行うAIと、インターネット経由で原価や納期などを相談したりする。

 もしくは、為替変動などから原料の価格高騰を予測した工場のAIが、商品の生産規制をかけるような場合。ECサイトのAIに、その原料を使わない類似商品を優先して売ってほしいと依頼することも考えられる。

 その際に、人間がAIやインテリジェント機械を「信頼」できるかが重要と、中西氏は指摘する。人間は、信頼できないAIやインテリジェント機械は使わないし、信頼できるように改良するだろう。つまり、自然に淘汰されて信頼して仕事を任せられるものだけが残る。そうすると、信頼に足るAIやインテリジェント機械だけが、共和制民主主義のように互いに話し合い協働する未来が想定できるのだという。

 そうなった時の人間の役割は何だろうか。AI同士の最適な組み合わせを考え、社会に実装していくことではないだろうか。

 人間も、AIやインテリジェント機械とコミュニケーションをとり、協働していくことになるのだ。そうすれば、人間だけでは考えつかないような、とてつもないイノベーションも期待できる。

● 悪意を持った利用を妨ぐ社会的な仕組みの構築が急務

 それでもまだ懸念は残るかもしれない。知性と判断力を備えたAIが意図的に人間に悪事をはたらこうとしたり、危害を加えることがないと言い切れるのか。

 中西氏は言い切っている。そうした事態は「人間自身が悪さをしようとしない限り」起こらない、と。それを信じるとするならば、悪意のある人間にAIを悪用されない社会的な仕組みをできるだけ早い段階で整備する必要はあるだろう。

 2016年12月、国連の特定通常兵器使用禁止制限条約締約国123ヵ国は、人間が介在しない完全自律型兵器の禁止に向けた公式な取り組みを進めることで合意した。

 ロボットが人を殺しにくるというのは、現時点ではあくまで「ターミネーター」シリーズのようなSF映画の中だけのもの。完全自律型殺人兵器はまだ実用化されたわけではないが、技術的には近い将来実用化は可能だろう。いったん実用化されてしまえば必ず使われるに違いない。そうなる以前に開発自体を止める協議がまずは人間同士で必要だ。

 カーツワイル氏は、技術開発が2005年時点より加速したため、シンギュラリティが2029年に早まるとの見方を示している。今後、さらに早まる可能性もある。実は、あまり時間は残されていない。

 本書を読めば、人間が理性を捨てさえしなければ、シンギュラリティは決して怖いものではないことは理解できるだろう。問題は、画期的な新しい技術の平和利用を確保するために、社会面で何を整備すべきかを考え、国家間などの利害を超え、理性をもって話しあえるかだ。

 その際には、本当に怖いのはシンギュラリティではなく、いつまでたっても戦争を止めたがらない人間の方だということを肝に銘じておいた方がいいだろう。

AI活用に挑むIDOM、データドリブンな組織をどう作ったか

「Gulliver」。黄色を基調として緑の文字で書かれた看板は、クルマ好きの人ならば知っている人は多いだろう。中古車の買い取りおよび販売を行うサービスだ。その運営会社であるガリバーインターナショナルが2016年7月に社名を「IDOM」に変更した。自動車の買取販売を進めてきた同社は、事業の多角化を推進しており、これからもさまざまな事業に「挑む」という意味が込められている。

そんな同社だが、データ活用の分野でも、さまざまなチャレンジを行っている。IDOMにおけるデータ活用の今と今後について、デジタルマーケティングセクションのセクションリーダーである中澤伸也氏に話を聞いた。

●顧客のニーズを知り、利益を最大化するためにデータを使う

 IDOMの主力事業、Gulliverは車の買い取りと販売が中心だが、どちらにしてもWeb上で完結することはなく、最後はユーザーが店舗に行くことになる。そのため、デジタルマーケティングの役割はO2Oを前提としたオンライン集客を行うことにある。

 「街中の店舗にふらっと立ち寄る方と、Web広告などを見て店舗に来る方は同程度の比率です。Webで集客し、コールセンターが実店舗へと誘導、そして店舗で商談を行うことでビジネスが成立します。どんなにWebが発達しても、最後は店舗なのでO2O(Online to Offline)が前提の構造となっています。そのため、Web、コールセンター、店舗の3カ所それぞれで生成されるデータを統合して分析しています」(中澤氏)

 IDOMが行うデータ分析は大きく分けて2種類に分けられる。まずは「購入理由の解析」だ。Webやコールセンターなど、店舗での購入に至るまでの接点が多いため、ユーザーがどのような道筋をたどったのかを解析している。

 もう1つは「利益最大化の解析」だ。自動車の販売には車自体のコストがあり、キャンペーンや広告媒体にもコストが発生している。もちろん、こうした宣伝が売上につながるわけだが、コストを抑えて利益を最大化するための解析も重要視しているそうだ。そのためにはWeb、コールセンター、店舗の間でデータをやりとりすることが重要だという。

●KPIとKGI、部門共通の数値目標を明確に

 例えば「スポーツカーの販売強化」というキャンペーンをマーケティング部が企画したとする。そのキャンペーンは広報やテレビ、Web、街頭の広告で宣伝するが、デザインは各媒体の特性に合わせて変えており、Web広告であれば、TPOに合わせた動的な広告出稿をしているという。

 これらの広告から、Webサイトや専用ランディングページに誘導したのち、ユーザーは保有車の査定をしたり、好みの車を探したり、直近の価格動向などを調べたりする。このようなユーザーの行動特性を把握した上で、適切なタイミングでWeb上にメッセージを表示したり、コンタクトセンターから電話をかける。そしてユーザーの要望を受けて店舗の紹介を行い、店舗で実際に営業マンと顔を合わせながら、受注を目指していく。

 このような販売ストーリーにおいて、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とKGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)を重視しており、多くの社員が意識せずとも考えていると中澤氏は言う。

 「弊社のマーケティングの特徴として、Web、コールセンター、店舗と複数のプロセスを踏んだ上で、初めて受注というマネタイズに結び付きます。このため、最終利益というKGIに対してプロセス毎にもKGIが存在し(中間KGI)、さらにそのKGIを構成するKPIがツリー構造を構築しており、各KPIは相互に関係しあって最終的なKGIを決定づけます。一般的なECと異なり、かなり複雑なKGIとKPIを複数の部門で共同してコントロールしていく必要があるため、自然と数値を軸にしたコミュニケーションが文化として根付いたのです」(中澤氏)

 Web、コンタクトセンター、店舗の3つの機能が複雑に絡み合っていることから、データベースにWeb、コンタクトセンター、店舗のデータを統合。想定外のデータが出てきたときも三部門の関係者が原因や解決策を話し合ってPDCAを回していくスタイルとなっている。

 「例えば、コンタクトセンターへの流入が極端に減ったデータを見て『先週に比べて急に減ったけど何があった?』と聞くと、マーケティングが『ごめん、媒体を変えてたんだった』というような要因が分かったりします。このような例は多く、要因と結果を明確にするために、PDCAサイクルを細かく回しています」(中澤氏)

●データドリブンなビジネスを作るための「文化」

 数値をベースとした意思決定や行動を基本としているIDOMだが、店舗における交渉は数値で測れない部分も多い。「現場はいわば人間力で運営している部分が大きいです。その分野に全力で取り組むために、こうした分析があるわけです」と中澤氏は言う。逆に数値で測れる分野については、全てがデータドリブンであり、経験や勘が入る余地はほとんどないそうだ。

 IDOMがデータを重視したビジネスを進められる背景には、独特の「社風」がある。同社は「部門」という概念があまりなく、部門間での調整やトラブルがほとんどないそうだ。全部門が同じ目的(KPIやKGIなど)に進めるよう、評価制度なども含めた設計がなされているという。

 「先ほど挙げた例で、マーケティング担当者が媒体を勝手に変更したのでコンタクトセンターへの流入が減ったという事実が判明したときでも、犯人探しや原因特定をするよりも『会社全体としての損失を早く回避できて良かった』とか、報告のオペレーションを見直すといった議論になりやすいです」(中澤氏)

 こうした姿勢は情報システムの構築にもよく表れている。現場の人間でシステムを熟知している人間は少ないが、IT部門の多くはコンタクトセンターや店舗の責任者、マーケティングといった現場を経験した人間であるため、両者のコミュニケーションは取りやすい環境にあるという。部門をまたいだジョブローテーションも頻繁に行われており、IT部門と現場での対立は起こらないそうだ。

●今後は顧客データベースとAI活用が課題に

 部門をまたいだデータ分析に取り組み、成果を上げているIDOMだが、今後は顧客データベースの整備を進めるという。

 「一般的な企業であれば、LTV(顧客生涯価値)の最大化を求める視点もあると思いますが、中古車販売のニーズは数年に一度。言ってしまえば一期一会の世界なのです。そのため、顧客自体の情報はとても少ない。新たな事業機会を見つけるためにも、今後はより顧客情報を集めて分析をする必要があると思います」(中澤氏)

 人工知能のビジネス活用も今後の課題だ。現在は、オンライン型の接客サービス「クルマコネクト」で人工知能の活用にチャレンジしているが、「中古車査定にAIを活用するとか、現場交渉などの人間力をAIで支援することも考えられる」と中澤氏。評価制度も巻き込んでデータに対する意識を高め、最先端のテクノロジーを恐れずビジネスに取り入れていくこと。データ活用に踏み出す企業が学ぶ点は多いはずだ。

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