自動運転よりも“無人運転”が注目される理由
自動運転はいつ、どんな形で走りはじめるのか――。このテーマに対する構想を政府は2014年から毎年、「官民ITS構想・ロードマップ」を通じて発表してきた。毎年発表する理由は、自動運転を取り巻く状況が日々変わることに対応したものだという。確かに、2016年5月に発表された「官民ITS構想・ロードマップ2016」では、根幹的な部分の記述が大きく変わっていた。
それまで日本は、自動運転の程度を示す指標である、NHTSA(米国運輸省高速道路交通安全局)のレベル分けでは、「レベル1」を安全運転支援システム、「レベル2~3」を準自動走行システム、「レベル4」を完全自動走行システム、と呼び分けをしていた。
ところが2016年版では「準自動パイロット」「自動パイロット」「無人自動走行移動サービス」という新しい言葉が登場している。
準自動パイロットはレベル2、自動パイロットはレベル3、無人自動走行移動サービスはレベル4相当と、既存のレベル分けに当てはめてはいるものの、ロードマップのサブタイトルには「2020 年までの高速道路での自動走行及び限定地域での無人自動走行移動サービスの実現に向けて」としてあり、無人自動走行移動サービスと自動走行は違うジャンルであることも明記している。
実はこの「無人自動走行移動サービス」(無人運転)という名称で、いくつかの企業が実用化に向けて既に実証実験を始めている。
もっとも有名なのは、2016年からディー・エヌ・エー(DeNA)が千葉県、秋田県、福岡県などで行っている実証実験。車両は仏国のベンチャー企業、EasyMile(イージーマイル)社製「EZ10」を使用している。DeNAではこの車両を「無人運転バス」と称している。
さらに2017年1月には米国ラスベガスで開催された世界最大級の家電見本市「CES」で、自動車メーカーも無人運転への参入を表明した。日産自動車がDeNAとともに、無人運転車の商用活用を狙った実証実験を2017年に日本で開始すると発表したのだ。日産ではまず、国内の国家戦略特区で無人運転技術の開発に集中的に取り組み、2020年までに首都圏と地方都市で実証実験を行う計画だという。
続いて2月、ルノー・日産アライアンスが世界各地で公共交通の運営を行う仏国のTransdev(トランスデブ)社との間で、無人運転車を活用した公共交通およびオンデマンド型交通向けのモビリティサービスを共同開発すると発表した。まずはルノーの電気自動車「ZOE」を使ったパリでの実証実験、Transdevのオンデマンド配車や運行管理・経路選択のためのプラットフォームなどの検証を行うという。
日本のIT企業では、ソフトバンクも積極的な動きを見せている。同社は新しいモビリティサービスを提供すべく、自動運転技術を研究・開発する先進モビリティと合弁で新会社SBドライブを2016年に設立した。
同社では早速、いくつかの市町村と連携協定を締結しており、2017年3月には沖縄県で実証実験を始めた。市販の小型バスを改造した専用車両を使用して、自動運転の性能評価やデータ収集・システム検証を実施している。同月にソフトバンクがSBドライブに追加出資するとともに、ヤフーも出資を行うことで、サービスの連携やビッグデータの活用を検討していくと発表している。
また、EasyMileと同じ仏国のベンチャー企業Navya(ナビヤ)社は、同社の無人運転バス「ARMA」をSBドライブが導入し、日本で実証実験を始めることを明らかにした。SBドライブでは無人運転という言葉は使わないが、一連の活動を見る限り、無人運転の一種と見て良いだろう。
●自動運転と無人運転は目指すゴールが違う
「官民ITS構想・ロードマップ2016」によると、政府は2020年までに準自動パイロットとともに、地域限定で無人自動走行移動サービスを市場化したいとしている。ここでも自動運転と無人運転を分けて示している。
これに合わせて国土交通省は2017年2月、道路運送車両の保安基準などを改正した。この中では、ハンドルやアクセル、ブレーキペダルなどを備えない車両でも、速度制限、走行ルートの限定、緊急停止ボタンの設置といった安全確保を条件に、公道の走行が可能となった。無人運転の環境整備は着々と進んでいるのである。
無人運転の起源は、EU(欧州連合)が研究開発資金の一部を援助することで2006年から10年間進められたプログラム「CityMobil」にあると考えている。第2ステップとなる「CityMobil2」では欧州内の45団体が参加し、7つの都市で実証実験が行われ、延べ3.5万キロメートルを走破、6万人以上を運んだ。
このプログラムのために開発されたのが、前に紹介したEasyMile社のEZ10とNavya社のARMAである。2台はプロジェクトが終わる2016年から、独自に世界各地に進出していった。欧州のみならず北米や豪州でも実証実験を行っており、アジアでは日本以外にシンガポールでも走っている。無人運転の分野は当面、この2台が主役となっていると言って良い。
少し前まで、多くの人はこれらを自動運転車の一種として見なしていた。筆者は自動車メーカーが開発する車両とIT企業や研究機関が開発する車両では方向性が違うので、前者を「ハイウェイ型」、後者を「シティ型」と呼び分けていたが、やはり自動運転車と総称していた。
しかし自動車メーカーの自動運転車が、運転席に人間が乗っていることを前提とするのに対し、EZ10などの無人運転車は国土交通省の保安基準にある通り、ハンドルやアクセル、ブレーキペダルなどがなく、“無人”でも走る。前者がレベル1、2、3とステップを踏んで進化していくのに対し、後者は最初からレベル4を狙い、それを可能な場所で走らせる。ロボットに似た考え方だ。
これだけ違う乗り物を自動運転と一括するのは無理がある。それを考えると、無人運転という言葉を使って両者を区分するようになったのは多くの人にとって理解しやすく、歓迎すべき動きだと思っている。
自動運転と無人運転は、敵対関係にあるものではない。そもそも両者は普及のプロセスや活躍の舞台が違う。自動車メーカーが手掛ける自動運転車は、個人が買って乗ることを前提としているのに対し、無人運転車はバスやタクシーなどの公共交通やトラックなどの物流として走らせることを念頭に置いているからである。EZ10を筆頭に箱型車体が多いのはそのためだ。
●無人運転が注目を集める理由
ではなぜ無人運転が注目を集めつつあるのか。その理由の1つは、地方の公共交通が限界に近い状況まで追い込まれているからだ。
日本では急速な高齢化と過疎化によって、地方の公共交通の利用者がどんどん減っている。しかも高齢者は数100メートルの距離を移動することが辛く、停留所を間引くことも難しい。欧米の地方都市では税金を投入することで公共交通が維持されているが、一部の都市では経費節減が議題に上りつつある。
バスやタクシー会社の支出の7割は人件費で占められると言われている。人件費の多くは運転手に対するものなので、無人運転車を導入すれば収支面は大幅に楽になるわけだ。廃止や減便、停留所の廃止に傾いていた動きを持ち直すことができる。
自動運転車は、交通事故防止や快適性向上を主眼として開発されている。しかし無人運転車はそれだけでなく、移動で不自由をしている人々に自由をもたらすことも含まれているのである。
トラックについても似たようなことが言える。インターネットショッピングで購入した商品の配送が急増したことに加え、送料無料やスピード配送などのサービス競争が運送業者の負担になっている。2017年は業界第1位のヤマト運輸が27年ぶりに料金値上げの方向で検討していることも話題になった。
バスやタクシーほどではないものの、宅配業者もまた人件費に悩んでいる。この問題解決のために、無人運転が役立つことは言うまでもない。
既にヤマト運輸は2016年7月、自動運転技術を活用した次世代物流サービスの開発を目指し、DeNAとの間で実証実験に向けた計画作成で合意した。プロジェクト名は「ロボネコヤマト」で、実験期間は2017年3月から1年間を予定し、将来的には無人運転を目指すとしている。
またSBドライブも同社のWebサイトで、事業内容として旅客物流に関するモビリティサービスの開発・運営と明記しており、バスに続きトラックの実証実験も行っていくものと思われる。
トラックでは、隊列走行による一部無人運転が実現に向けて動きつつある。主として高速道路で、先頭車両のみを有人運転とし、後続するトラックは無人運転とすることで、ドライバー不足に応えるものである。
こちらは2016年度に場所の選定、事業モデルの検討、技術開発の推進などを進行しており、2018年度には高速道路での実証実験を行うとしている。
使用するトラックは、一般道路では有人運転となることから、既存の車両を改造したものとなりそうだが、隊列走行中は運転席に人間は乗らず、全てAIで制御することになるので、これも無人運転に該当する。
このように無人運転は個人が買って乗る乗用車には当面採用されず、バスやタクシー、トラックといった事業用車から優先して導入される。そのため多くの人にとってはなじみが薄い存在となるかもしれないが、現在の日本社会の状況を考えれば、自動運転よりも必要な技術であることを理解してもらえるだろう。
