積水ハウス、「iPad」が可能にした震災対応、次元が違う震災対応

積水ハウス、「iPad」が可能にした震災対応

2016年4月14日に発生し甚大な被害が発生した熊本地震から、まもなく1年が過ぎようとしている。東日本大震災から5年が過ぎたタイミングで起きた地震で、熊本県では2度の震度7を観測した。震度7は「激震」と呼ばれ、家屋の倒壊が30%以上に及び、山崩れ、地割れ、断層などが生じる、と定義される。

この熊本地震の翌日に、積水ハウスは、熊本地震の被害調査専用のiPadアプリを社内向けに配信し、顧客の現況調査を迅速に行った。これは、日頃からタブレットを多く活用している同社の態勢と、アプリ開発を社内で行う対応の早さによって実現した。現場の担当者は全員iPadを携帯しており、すでに使いこなせる状況が作り上げられていたことから、新たに配信されたアプリをインストールするだけで、翌日から現地訪問による調査が開始できたのだ。

■「次元が違う震災対応」

 積水ハウスではこれまでも、地震や災害の現地訪問調査を行ってきた。しかしこれまでは、現地での調査結果を事務所に戻ってからパソコンに入力していたという。しかし熊本地震では、iPadの専用アプリに状況を入力するだけで、現地の情報がリアルタイムに本社に上がってくる環境を作り出すことができた。

 そのため、集計結果とそのフィードバックは、東日本大震災時は1週間かかっていたが、熊本地震では被害状況のエリアごとの集計や、顧客への対応履歴など、さまざまな角度から調査結果を集計し、本社と現場間で共有したという。その結果、より被害の大きなエリアに人員を多く配置するなど、日次での迅速な行動につながった。

 積水ハウスIT業務部の部長・上田和巳氏は、「各部門の社員に対してiPadを配るだけでなく、日々の運用の中で定着をうながし、効果を作り出すことに注力してきた結果のひとつ」としており、iPadを核としたICT導入によって「次元の違う災害対応」を実現することができたと振り返る。

導入台数は?

 積水ハウスでは、2013年にiPad、2014年からiPhoneを導入し、2017年1月現在で1万6477台のiPadと、1万8714台のiPhoneが活用されている。上田氏によると「合計、約3万5000台のスマートデバイスの利用率は100%で、社員一同、徹底的に使い倒している」と説明する。

 その背景にあるのは200を超える、内製しているオリジナルアプリの存在だ。

 「全社的に導入しているのは、メール、カレンダーの共有、資料共有、社内連絡のメッセージアプリです。社内を専用メッセージアプリで運用する理由は、メールを対外的なコミュニケーションに振り向けるためです。また、社内ストレージ(Skybox)は、部門間のデータのやり取りで劇的な効率性を生み出す結果となりました」(上田氏)

 これらに加えて、営業、設計、建築、総務、アフターケアの各部門でも、専用のアプリが運用されている。たとえば営業部門では、設計図を基にした3Dイメージや、部材・色を変更した建物のイメージを顧客に提案できるアプリを活用し、プレゼンテーション能力を向上させている。

 これらのアプリを作っているのは、積水ハウスのIT部門だ。つまりアプリは内製なのだ。

■ノートPCでのモバイル導入は浸透しなかった

 「過去のノートパソコンでのモバイル導入はうまく浸透しなかった、という経緯があります。そこで、過去の資産をいい意味で引き継げないiPadを導入し、アプリ開発の態勢を社内で育んできました。ウェブアプリよりもネイティブアプリのほうが圧倒的に使いやすく、レスポンスがよく、また必要な機能だけをインターフェースに落とし込めます。

 当初は社外の力も借りてきましたが、現在ではIT部門100人でオリジナルアプリの開発に当たっています。また、現場からのフィードバックもより大きくなってきたため、使い勝手へのこだわりも向上するようになりました。こうしたセンスを獲得しながら、1カ月ごとにアップデートを配信することも当たり前になりました」(上田氏)

 アプリの内製にハードルを感じる向きも強かったと上田氏は振り返る。しかし、職責部長の「App Storeでこれだけ毎日新しいアプリが公開されているなら、社内でもできるだろう」という判断で、内製化が進んだ。

iPad導入は「働き方」まで変えた

 実際には、使い勝手や効率性を左右するインターフェースと、既存のエンジニアのノウハウを生かせるデータベースアクセスの2つに分けて、スピーディでローコストの並列開発を行い、だんだんデータベースを担当していたエンジニアもインターフェース開発に取り組むようになった。

■iPad導入で「働き方」が変わった

 iPadは、積水ハウスの社内の働き方も変えている。上田氏によると、 平均残業時間は毎月15時間削減され、休日出勤も月平均0.5日削減されたという。

 iPadやiPhoneでは、社外アプリの私的利用については、SNS以外の制限をしていない。とにかく使うことが大切で、働き方の中に深く根差すことを優先しているという。熊本地震アプリに、現場の担当者がすぐに対応できたことも、こうした日々の活用の成果だった。

 現場の営業担当者である、東京南シャーメゾン支店長の黒川剛氏は、社内で配信されているアプリを利用して、たとえば地図アプリの航空写真と防災実験の様子、建物の3Dモデルを組み合わせたビデオを作成して顧客に見せることができるようになり、プレゼンテーション能力が大きく上がったという。

 「土地活用の営業では、お客さまにITやビジネスに詳しい方も多いため、質問を会社に持ち帰らず、その場で実例などをお見せできる点が高く評価され、信頼につながることが増えています」

 また設計部門では、現状、図面をiPadで作成するには至っていないが、打ち合わせの際のアイデアをiPadのスケッチアプリで示すなど、活用が始まっている。加えて、設計の承認には全職責者の承認が必要となるが、iPadを持ち歩いているため、どこでも承認を取ることができるようになった。

 活用や独自のアプリ開発も含めて、「スピード」と「使い勝手」、そして「働き方の変革」が根底にある積水ハウスのテクノロジー活用。アプリの数、アップデートの数だけ、業務が効率化されていく様子をつぶさに見ることができる事例と言えるだろう。

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