「5G」が2019年に始まる、MWCでQualcommが明確にした通信の未来

「5G」が2019年に始まる――MWCでQualcommが明確にした通信の未来

2月27日から3月2日までスペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress 2017(以下、MWC 2017)」において、米Qualcommのブースはひときわ高い存在感を放っていた。同社は30年にわたって無線通信技術の開発に取り組む通信ベンダーであり、モバイルIT市場をけん引するリーディングカンパニーの1つ。5Gが現実味を帯びてくるなか、同社のブースはひっきりなしに参加者が訪れるほど熱気を帯びていた。

Qualcommは将来の通信を3つの切り口で見ているという。

・「Enhanced Broadband」による高速な通信
・「Massive IoT」によって拡大するIoT
・低遅延の通信による必要不可欠なサービスやプラットフォーム「Mission critical service and application」

 「QualcommがMWC 2017で示す重要なテーマは5Gだが、これらを実現するためには、4G技術の知見を積んで、5Gに反映することが大前提となる」(担当者)。同社は5Gを新規のテクノロジーとは見ておらず、あくまで4Gの延長線上に5Gがあると考えている。3Gと4Gで実績を残してきた会社だからこそ、5Gでは同社の強みが優位になるという考え方だ。

 「ブースのウォールに大きく書かれた『3Gと4Gを実現してきたQualcommが、5Gを可能にする』というキャッチコピーこそ、今年(2017年)のMWCで伝えたい全てだ」と担当者は明言した。

 では4Gや5Gをもとにして、具体的にどのような技術が生まれているのだろうか。1つずつ見ていこう。

●Snapdragonを活用した地図情報システムとコネクテッドカー

 スマートフォン向け統合型プロセッサ「Snapdragonシリーズ」を車載向けに改良し、温度耐性や振動耐性を向上させたのが「Snapdragon 820A(AはAutomotiveの頭文字)」である。正確な位置を補足し、カメラから入ってくる情報を処理する基本的な技術をSnapdragonがサポートする。将来的に自動運転にも応用できるチップだ。

 ブースではデジタル地図サービス企業のTomTomが、Snapdragon 820Aを使ったドライブデータプラットフォームを活用して地図製作を行う模様が紹介された。

 地図を作るには、専用の測位機器を搭載した車を走らせ、道路などの各種位置情報を収集するのが一般的である。しかしSnapdragon 820Aを使えば、高価な専用システムと同じレベルで正確に位置情報を計測し処理できる。

 このドライブデータプラットフォームを活用することで、既存の地図情報収集システムよりも低コストかつ効率的な地図の構築が可能になる。現在は地図作成というやや特殊用途で用いられているSnapdragon 820Aだが、「将来的には乗用車向けの車載端末市場にも進出したい」(担当者)という。

 もう1つの自動車向け通信技術が、安全性の高い車々間通信を実現する「C-V2X(Cellular Vehicle-to-Everything」だ。

 例えば対向車に気付かずに前に走る大型トラックを追い越そうとした場合、C-V2Xがメッセージを出して対向車が来ていることを知らせる。さらにウィンカーを出した場合はアラートが鳴り、衝突の危険性を分かりやすく伝えてくれる。

 車車間通信や路車間通信の技術としては、自動車専用の通信システム「DSRC」などがあるが、C-V2XはLTE技術をベースとしており、将来的には5Gの技術群とも融合する。DSRCよりも汎用(はんよう)的な通信技術を使うことで部材コストの低廉化が期待できるほか、歩行者の持つスマートフォンとも連携しやすい。「DSRCからC-V2Xへ」というのは、日本以外の自動車市場では今後の主流と目されている分野だ。

 Qualcommは2016年、車載半導体の世界最大企業であるNXPセミコンダクターズを破格の5兆円で買収すると発表した。現在の車載向け通信技術やSnapdragonベースのサービスに加え、将来的にはNXPのプロダクトも入り、自動車市場に向けて非常に強力な製品ラインアップとなる。

 「自動車分野は重要な分野の1つであることは間違いない。モバイルで培った技術をいかに新しいマーケットに展開するかという意味では、オートモーティブは技術自体の共通性があり応用できる。われわれの強みである通信においてもC-V2Xは重要技術である」(担当者)。

●アンライセンスバンド向けLTEの実用化はもう目の前

 本丸の通信分野でもQualcommは新たな技術を生み出している。2016年のMWCレポートでは、通信事業免許が不要な周波数帯「アンライセンスバンド」用LTE通信を紹介した。これは簡単にいうと、自宅やオフィス、街中のWi-FiのようにLTEが使える技術だ。2016年と違うのは、スモールセル(カバー範囲の狭い基地局のこと)向けチップセットでLAAを実現する点。店舗や自宅のような狭い場所で活用できる。

 LAA(Licensed-Assisted Access)とは、従来のライセンスバンドとアンライセンスバンドを束ねてキャリアアグリゲート(CA)することで、通信の高速化と大容量化を実現するものだ。T-Mobile USやVodafoneが続々とLAAの商用化を発表しており、ついに実用化が始まろうとしている。

 ただLAAはあくまでライセンスバンドがアンカーとなり、そこにアンライセンスバンドをCAするので、運用できるのは通信キャリアのみとなる。そこで公衆無線LAN事業者などが、アンライセンスバンドだけでLTE網を構築できる「MulteFire」が2016年に提唱された。

 米ケーブルテレビ業界は5GHz帯でWi-Fiを運用しているので、MulteFireには圧倒的に反対の立ち位置で論争してきたが、ついに決着がつき、アライアンスメンバーにケーブルテレビの主要な企業が加盟した。無線通信サービスを提供するなら、Wi-FiよりLTEの方がよりよいサービスが提供できると判断したようだ。なおMulteFireアライアンスにはソフトバンクもメンバーとして加わっている。

 さらにQualcommは、NokiaやGE Digitalとともに、アンライセンスバンドによる産業IoT向けのプライベートLTEネットワークの実証実験を始めている。LTEならば安定的かつセキュアであり、大容量のデータにも対応できる。将来は工場から自宅まで、Wi-FiインフラがLTEに置き換わるかもしれない。

●Gigabit LTE with LAA

 ソニーモバイルがMWC 2017で発表した「Xperia XZ Premium」にも採用される「Snapdragon 835」は、LTE経由でギガビット通信を可能にする新しいチップセットだ。

 このモデルは最大10の通信ストリームをサポートするもの。4×4 MIMO 2波と2×2 MIMO1波の計3波をフルに使うことで、LTEでも1Gbpsクラスの通信速度となる。LTEはギガビット時代になり、その進化の先に5Gが続いていることをQualcommがあらためて示す技術だ。

●5GはMWC 2017最大のホットトピック

これまで世界中のキャリアは2020年目標を前提に5Gの議論を進めてきたが、2月27日、AT&Tなど22キャリアが、業界の総意として2019年に前倒しすることを発表した。この共同提案にはNTTドコモとKDDIも名を連ねている。

 ITmediaの単独インタビューに対してNTTドコモ吉澤社長は「基本的にわれわれの実現目標は2020年」とコメントしたが、Qualcomm担当者は「『早ければ2年後には、5Gの大規模なトライアルまたは商用展開がなされる』という具体的なスケジューリングが出たことは、MWC 2017の重要な話題だ」と熱弁する。

 5Gのキーワードは「ノンスタンドアロン(NSA)」と「スタンドアロン(SA)」。今回の策定はNSAで、LTEのベースを使いながら5Gを実現する。Qualcommのブースでは、通信の標準化を行う3GPPに準拠した無線方式、5G New Radio(NR)のプロトタイプが展示された。

 またQualcommは2019年に向け、5GNRのチップでさらに2G、3G、4Gまで対応するマルチモードチップをリリースすると発表した。5G展開当初は、当然全てのエリアをカバーできるわけではない。そのため5Gエリアから外れたときも、4Gでギガビット通信ができる環境があれば、シームレスなギガビット通信が実現できる。さらに3G、2Gに落ちたときはシングルチップでサポートする。

 ネットワークを展開するとき、キャリアから見れば複数の通信世代をサポートしない限り、ユーザーに信頼できるサービスは提供できない。今後の展開や端末の作りを考えると、チップはマルチモード前提となる。

 5Gの商用サービス開始まであと約2年しかない中で、マルチモードチップを作り込んで、シングルチップ化することはなかなか他社はできない。だから30年にわたり無線通信に取り組んできたQualcommの強みが生き、冒頭の「3Gと4Gを実現してきたQualcommが、5Gを可能にする」という主張にも説得力があるわけだ。

●IoT向け通信方式も進化

 3GPPで標準化されたIoT向けの通信方式「Cat-M1」も、2017年後半には日本で立ち上がるとみられている。省電力かつ広域なエリアをカバーする「Low Power Wide Area(LPWA)」の1つで、LTEで利用できる通信技術だ。大量のIoTデバイスを安全かつ大量に接続できるようになる。

 冒頭で紹介したように、5Gのキーワードの1つは「Massive IoT(拡大するIoT)」である。Qualcommはバッテリーが10年持つような省電力のチップを作り込み、提供していくという。

 2016年のMWCではなんとなく目標として位置付けられていた5Gだったが、2017年に入って一気に現実味を帯びてきたことを肌で感じる取材だった。一方で、LTEの拡大も同時に進んでいる。既存の通信技術はすぐになくなるわけではなく、3Gから4G、5Gとグラデーションのように移行し、刷新されていく。

 「今後は5Gそのものがインフラとなり、その上でさまざまな技術やサービスが提供されるようになる。会社ができて30年、無線通信ばかりやってきたが、その集大成が5Gにつながっている」(担当者)。

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