ネットで経済ニュースを読んでも、賢くはならない
スマートフォンの普及で、いつでもどこでもニュースが読める時代になりました。ポータルサイトのニュースは無料のうえ、かさばって手が汚れる紙をいちいち持ち歩かなくても済むし、満員電車の中でもわずかなスペースで読めるのでとても便利です。社会人になったら、新聞を読むのが常識というのは遠い昔の話。いまや新聞なんて不要だと思う人も多いのではないでしょうか?
しかし、ビジネスで本当に使える経済ニュースは、残念ながらポータルサイトのニュースでは入手できません。なぜでしょうか? それを知るために、まずはポータルのニュースと新聞の特性を理解しましょう。この連載では本当にビジネスで役立つ経済ニュースの見極め方と読み方を元日本経済新聞記者の松林薫さんが解説していきます。
皆さんは経済ニュースを何から得ていますか?
最近は、パソコンやスマホでポータルサイトの記事を読んでいる人が多いのではないでしょうか。例えばヤフー・ニュースやスマートニュースのアプリをスマホに入れていれば、通勤などの「隙間時間」を利用して経済の動きをリアルタイムで知ることができます。私もこの2つを利用していますが、新聞や雑誌に比べて速報性は格段に高いですし、何よりタダです。
しかし一方で、「毎日、ニュースに目を通している割に、経済に強くなっている気がしない」という声も聞きます。職場の同僚との話題にはある程度ついていけても、「経済がわかった」という実感がわかないのです。
無理もありません。実は、ポータルサイトの記事をいくら読んでも、ビジネスの助けになるような深いレベルで経済を理解することはできないのです。
もしあなたが、経済に詳しいという自信がなく、それを克服したいがために熱心にネットの経済記事を追っているのであれば、それは残念ながら無駄な努力と言わざるを得ません。そんな時間があるなら、少しお金はかかりますが、新聞を定期購読して「紙面」の形で経済ニュースを読んだ方がいいでしょう。
こういうと、「お前は新聞社の回し者か」と思われそうですね。確かに私は2014年まで15年間、日本経済新聞社で記者をしていました。ただ、私は古い世代によくある「紙メディアへの郷愁」からこんなことをいっているわけではありません。付け加えておくと、私はすでに会社を辞めているので、新聞を褒めたところで新聞社からお金が入ってくるというわけでもありません。
では、どうして「紙の新聞を読んだ方が勉強になる」と断言できるのでしょう。その第一の理由は、ポータルサイトの性格を考えると見えてきます。
ポータルにアップされる記事は、極論すると「利用者に情報や知識を提供する」ことを主眼に置いたサービスではありません。どちらかといえば、ゲームなどと同じく、「手軽な暇つぶしの手段を提供する」ことが、その本質だといっていいでしょう。
もちろん、結果としてユーザーが必要な知識や情報を得るケースもあるはずです。ただ、ビジネスとしては
(1)ユーザーが時間をつぶすことができる軽い読み物を提供し(2)ついでに広告をクリックしてもらって収益を得る---というのが基本的な構造なのです。
ですから、掲載する記事を選ぶ際は、「なるべく幅広いユーザーの興味を引き、気軽に読める」ことが条件になります。たくさんクリックされれば、確率的にはそれだけ多くの広告収入を得られるのですから、これは当然のことです。
結果として、経済分野で取り上げられる記事も、ネットの主要利用層である若者が「おっ」と思ってくれるニュースが中心になります。最近だと「爆買い」とか「マイナス金利」のように、すでにテレビやネットで話題になっている言葉を見出しに入れられるような記事です。「こんなものが売れている」といった話題もよく選ばれます。基本的には、経済ニュースの流行を追っているだけ、というのが実情なのです。
断っておきますが、私はそうした記事に価値がないというつもりは全くありません。ネットに限らず、マスメディアが提供するニュースには多様な側面があります。一般的なジャーナリズム論では「権力の監視」や「真実の追求」が強調されますが、商品としての側面から記事を見れば、「暇つぶしの手段を提供する」「共通の話題を提供する」といった役割も非常に重要です。ほとんどの報道機関は、読者がそうした価値に対して払ったお金をもとにして、もうけにつながりにくいジャーナリズム活動をしているといっても言い過ぎではありません。
例えば、ビジネスパーソンの間で日経新聞が好んで読まれるのは、それがビジネスの場で話題にしやすいニュースを提供しているからです。
職場や取引先で政治問題について議論するのはヘビーすぎます。かといって中高生のように、テレビで観たドラマやアニメの話をするわけにもいきません。そんなとき、「今日の日経の1面、読んだ?」「ああ、すごいニュースが出てたね」といった会話は、とても無難なのです。そうした会話に「乗り遅れない」ために日経を購読している、という人は多いはずです。
ヤフー・ニュースなどのポータルも、こうしたコミュニケーションの潤滑油となる「共通の話題」を提供しているという意味では社会的に重要な役割を担っています。ですから、ポータルに掲載される経済記事も、そうした暇つぶしや話題のネタとして読むのであれば、とても有用だと思います。
しかし、「経済の仕組みや流れを理解し、分析力を磨く」といった、教材としての側面を重視するのであれば、ポータルサイトにはほとんど価値がありません。毎日読んでいれば、経済に関する雑学的な知識は増えるでしょうが、「ニュースを分析して先の展開を読む」といったビジネスパーソンが本当に必要とする力は身につかないでしょう。
ですから、もしあなたが「経済に強くなりたい」と思っているのであれば、ポータルの経済記事は「暇つぶし」と割り切って利用すべきです。あるいは、つぶすほどの暇があるなら、新聞や雑誌、書籍などに触れる時間を増やす方が、ずっと投資効率がいいともいえるでしょう。
しかし、こういうと読者の中には「でも、ニュースを紙で読むなんて馬鹿げてない?」と、疑問を持つ人が多いのではないでしょうか。あの、見出しと記事がモザイクのように詰め込まれた、ごちゃごちゃした紙面を見て当惑したことがある人は少なくないはずです。ネットの方が速報性は高いし、ずっと便利に見えます。
ところが、私が記者時代に取材していた大企業の幹部や高級官僚、政治家などは基本的に新聞を「紙」で読んでいました。もちろん、そうした人たちは中高年なので、若い世代に比べ紙メディアに慣れているということはあるでしょう。
しかし、理由はそれだけではないのです。実際、企業の広報部門やシンクタンクなどで情報分析のプロになる人たちは、今でもまず「紙面の読み方」を学びます。ネットにはなく、紙面にはある情報がたくさんあるからです。
「情報のプロがニュースを紙で読んでいる」と聞くと、驚く人が多いのではないでしょうか。しかし、これはまぎれもない事実です。実は、一般の市民に比べ情報リテラシーが高い人たちが、新聞をあえて「紙」で読んでいるのです。
次回はそれがなぜかを解説したいと思います。この記事を読んで興味を持った方は、それまでに理由を推理してみてください。
