新興メーカー2社が投入の新型炊飯器には「保温機能」がない
日本の炊飯器はアジアからの観光客がお土産にするほど高性能で人気だ。そこへ新しいコメの味を提案する2つの炊飯器が登場した。従来となにが違うのか。食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏が解説する。
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昨今「ダイバーシティ」というと、「企業で、人種・国籍・性・年齢を問わずに人材を活用すること」(デジタル大辞泉)というように、ビジネス文脈で使われることが多い。とりわけ、女性の登用やマイノリティの積極的な採用といった、社会性にまつわる場面でよく見聞きする言葉だ。
すべての世界でダイバーシティは進行している。ネットインフラの充実やソーシャルメディアの発展により、世に流通する情報量は爆発的に増えた。あるカテゴリーにおいて、情報や知見が飽和するまでは「レベル」が縦方向に上がり続ける。そしてひとたび飽和するとそのエネルギーは横展開――つまり多様性へと向けられる。「食」においてもその傾向は変わらない。
例えば飲食店で言えば、質・数ともに世界屈指の都市である東京ではもはや「うまい」のは当たり前。その上で他とどう差別化を図るかが重要になっている。もっとも単純な差別化は価格競争だが、一方でそれは自らを苦境に追い込む手法でもある。「味」で差別化は認知されるのに時間がかかる。そこで「会員制」などの業態や、「熟成」といった素材での差別化が図られるわけだ。
外食だけではない。家庭の食卓においても同様の傾向は伺える。例えば今年は「炊飯」も多様化する。従来、炊飯器を扱う大手メーカーが打ち出していた炊飯器はどんな味を目指すのか、ぼんやりとしか伝わってない製品が多かった。
「おいしい」という表現は言わずもがな、「羽釜」もキーワードとしてよく使われていたし、「甘み」「粘り」「香り」を強調する製品も多かった。だが「甘み」「粘り」などの指標は、そもそも米の食味を分析する官能審査の判定基準でもある。少し前の高級炊飯器ブームや一部層への鍋炊きの浸透もあって、もはや「うまいごはん」は当たり前のように炊けるようになった。
そうなるとトレンドは多様化にスライドする。そしてこの冬、図らずも2つの国内メーカーが「炊飯専用器」を新たに市場に投入する。ひとつは新たな家電を次々に市場に投入する「バルミューダ」。この数年「最高の注ぎ心地の電気ケトル」など斬新なアイテムを市場に投入し続け、昨年発売されたトースターが「感動的にトーストがうまくなる」と爆発的なヒットに。3万円と高額なトースターを10万台以上売り上げた気鋭の国内家電メーカーが、2月下旬「BALMUDA The Gohan」という炊飯器を市場に投入する。価格は4万1500円(税別)。
そしてもう1社は、「バーミキュラ」。鋳物ホーロー鍋のメーカーである。このジャンルではフランスの「ル・クルーゼ」や「ストウブ」が有名だが、この数年、国産の鋳物ホーロー鍋メーカーとして急激にシェアを伸ばしている。この「バーミキュラ」も昨年12月、「VERMICULAR RICE POT」という炊飯専用のアイテムを市場に投入した。こちらは内釜が単体でも使える鋳物ホーロー鍋となっていて、炊飯以外の調理にも使えるIHヒーター一体型の外釜とのセットで価格は7万9800円(税別)。
そしてこの2社のアイテムに共通するのが、これまで足し算で設計されてきた炊飯器に「引き算」を持ち込んだことだ。過去、日本のメーカーの炊飯器は高機能化を目指してきた。保温機能を加え、早炊き機能も搭載した。だがこの2社の炊飯アイテムに保温機能はない。炊飯器で「保温」されたコメはその食味を落とす。味を追求するとなると「保温機能」は矛盾する機能になってしまう。
大手メーカーもこの事実にはとうに気づいているはずだが、「保温機能をカットしたら、何人の客を失うことになるかわかっているのか」などというお偉いさんの一喝で現状維持に着地する現場が容易に想像できる。対して保温機能を省いた炊飯器は「炊き上がり後1時間以内に食べきらない場合はおひつへ移し替えるか、冷凍保存してお楽しみください」(バルミューダHPより)と潔い(そしてこの手法はおいしくごはんを食べるためには、圧倒的に正しい)。
さらに言うとバルミューダの炊飯器は「コメの新しいおいしさ」の提案にまで踏み込んでいる。同社の炊飯器は「蒸気で炊き上げる」という斬新な手法を採っている。これまでの炊飯器では、炊飯時にはコメを湯のなかで踊らせ、削られたコメ表面の炭水化物を「ねば」として表面にまとわせ、口に含んだ瞬間甘みを感じさせるという手法を取ってきた。
実際、炊飯にまつわる論文でも、「ねば」が食味向上に有意に関係するとされている。だがコメを踊らせず蒸気で炊き上げるとなると、その「ねば」は減る。つまりバルミューダは、炊飯器の常識だった「口に入れた瞬間の甘み」を捨てた。そして代わりに「コメの粒だち」や「噛むことで後から伸びてくるコメの甘み」を提案しようとしている。
いつからだろう。「うまいコメ」と言えばコシヒカリを指すようになっていたのは。だが最近では、全国各地でさまざまな食味のコメが食べられるようになった。北海道の「ななつぼし」や九州・四国の「にこまる」は地元でしっかりシェアを獲得しているし、青森の「青天の霹靂」など新しい品種の台頭も目立つ。当然ながら品種や生産者によってもコメの食味は異なる。ならば炊き方にだって、新しい提案があっていいはずだ。
日本人の消費トレンドは、単純にアイテムを獲得するためのモノ消費ではなく、「体験」を伴うコト消費へと完全に移行した。特定のアイテムにおける情報や機能が飽和状態のいま、必要とされるのは足し算ではなく引き算。何を見据え、何を切り捨てるか。その積み重ねで、マーケットは多様になっていく。いま消費者が求めているのは、多様な選択肢。コメだけではない。2017年、「食のダイバーシティ」は進化する(※注 本稿は記事広告/PR記事の類ではありません)。
