【トクホの大嘘】10億本突破「伊右衛門 特茶」 体脂肪率も体重も増加の摩訶不思議
シュレッダーに薪割り、インベーダーゲーム──。
本木雅弘と宮沢りえを起用したCMで、「脂肪を分解する」イメージをあの手この手で訴えかけ、一気にトクホの代名詞的存在へと登りつめたのが「伊右衛門 特茶」である。
ペットボトルの緑茶を飲み続けるだけで「バラ、バラ、バラ。」と脂肪が落ちるのならと、2013年10月の発売開始以降、メタボ予備軍の30~40代を中心に人気が爆発。昨年11月までの4年余りで、累計売り上げ本数は実に「10億本」に達している。
しかし、高橋久仁子群馬大学名誉教授は、この「お化け商品」に疑義を呈するのだ。
「特茶は“体脂肪を減らすのを助ける”ことを売りにしていますが、かつては“体脂肪を減らす”と断定するキャッチフレーズを前面に押し出していました。ただ、特茶の広告とその根拠論文を比較すると、こうした宣伝文句は羊頭狗肉と言わざるを得ません」
特茶が関与成分として掲げるのは「ケルセチン配糖体」。特茶の販売元であるサントリー食品インターナショナルは、商品の許可表示で、〈脂肪分解酵素を活性化させるケルセチン配糖体の働きにより、体脂肪を減らすのを助けるので、体脂肪が気になる方に適しています〉と謳っている。
実際、特茶の公式HPでも折れ線グラフ(掲載している上のグラフ)を示しながら、〈8週目から脂肪面積の低減が認められました〉と大書しているが、
「このグラフ自体に消費者をミスリードする危険性があるのです」
と高橋氏は指摘する。
「グラフだけを見れば、ケルセチン配糖体を配合した“被験飲料”と、それを含まない“対照飲料”を飲んだ被験者群との間に大きな差が生じているように感じるでしょう。しかも、HPでは飲用開始から12週目に、両群の腹部脂肪面積の差が“10・30平方センチ”になったとしている。ただ、この数字を適切に評価するためには、被験者の元の脂肪面積を知る必要があります」
要するに、「5キロのダイエットに成功しました!」といっても、元の体重が90キロだった場合と、50キロの場合では全く意味合いが異なってくるというわけだ。
ところが、公式HPのグラフや説明書きで触れられるのは、被験者の人数と年齢層、BMIの数値程度。
そこで、高橋氏が特茶の主な根拠論文である、「肥満者に対するケルセチン配糖体配合緑茶飲料の体脂肪低減作用および安全性の検証」に当たったところ、
「ようやく被験者の全脂肪面積が判明しました。それによると、飲用開始時における実験群の脂肪面積は290・8平方センチで、対照群は293・8平方センチ。12週間後の変化量は前者の“-5・32”に対し、後者は“+4・97”でした」
両群の変化量の隔たりを表したのが、先ほどの“10・30平方センチ”という数字になる。対照群の脂肪面積が増えているため、「差」が開いて見えるわけだ。加えて、
「この10・30平方センチという差を、実験スタート時点での両群の平均脂肪面積(約292平方センチ)で割って実質的な減少率を求めると、わずか“3・5%”に過ぎないことが分かる。明らかに右肩下がりに見えるHP上の折れ線グラフと比べ、両群の脂肪面積の推移を示す棒グラフ(掲載している下のグラフ)では、実験群の変化が微々たるものだということが読み取れます」(同)
一方、首を傾げざるを得ない点は他にもある。
根拠論文には、ダイエット目的で特茶を愛飲してきた中高年が唖然とするようなデータも隠されていた。
「特茶のCMを目にした視聴者はこう受け取ったでしょう。特茶は体脂肪を分解するのだから、体重も減るはずだ、と。しかし、論文によれば、特茶を飲み続けた実験群の体重の変化は12週目で“+0・07キロ”となっている。つまり、体重が減らないばかりか、むしろ70グラム増えていた。体脂肪率も同じく“+0・21%”と増加しています。こうした実験結果はHPでは一切触れられていません」(同)
脂肪を分解したはずが、体重も体脂肪率も増加する。何とも摩訶不思議な現象だが、「ケルセチン配糖体」の効果のほどについては、審議段階から疑問視する声が上がっていたのだ。
この問題にいち早く着目していた、科学ジャーナリストの植田武智氏によれば、
「特茶と同じ13年7月に、関与成分も配合量も全く変わらない『大人ダカラ』という商品がトクホの許可を受けました。今のところ大人ダカラは発売されていませんが、サントリーは当初、特茶ではなく、この商品についてトクホの表示許可を申請しているのです」
トクホの許可に関する手続きは消費者庁の管轄で、その有効性と安全性の評価は、「消費者委員会新開発食品調査部会」で審議される。
そして、12年7月9日に開かれた調査部会で俎上に載せられたのが、まさしくケルセチン配糖体だった。
公開されている審議の中身を見ると、「事業者の権利と利益を守る」という名目で伏せ字が多く、先頃、話題になった「海苔弁当」のような状態だが、委員からはこんな発言が飛び出したとされる。以下、伏せ字となっている「」内の文言は、植田氏に補ってもらった。
〈この製品の最も重要な科学的エビデンスになったのが、「ヒトでの臨床」試験ですが、それを見ますと、確かにCTによる「腹部脂肪」の面積は有意に減少しているわけです。ところが、「体重」も「BMI」も「体脂肪率」も「ウエスト周囲径」も減少していないのです。そのことによって、表示が「体脂肪が気になる方、お腹周り・ウエストサイズが気になる方」と書いてあるのですが、一体、「体脂肪」が本当に減ったと言えるのかどうか。(中略)どう解釈したらいいのでしょうか〉
要は、ケルセチン配糖体の実験結果は、審議を担当する専門家ですら「解釈」に困るシロモノだったわけである。その後、成分が同じ特茶も一緒に審議することになったが、
「メーカーには再度の説明が求められ、結局、許可表示から『お腹周り』、『ウエストサイズ』、『肥満』といった文言が削除されました。ただ、それならば“体重やウエストサイズは減りません”と但し書きすべきでしょう」(植田氏)
だが、問題はそれに留まらない。実は、先の調査部会では、特茶にとって最大のアピールポイントである「脂肪の分解」の意義についても、疑いの目が向けられているのだ。
〈「脂肪分解酵素」を活性化するということで、それによって「脂肪細胞」から「グリセロール」、「遊離脂肪酸」の放出を促進するということですけれども、「グリセロール」と「脂肪酸」はどこへ行ってしまうのか。それが消費されなければ意味ないですね〉〈全体としてのエネルギー摂取量が減らなければ、その分、「脂肪」がどこかに蓄えられてしまうことになってしまうのではないか〉
一度は分解された脂肪が、再吸収されて蓄えられていく──。この指摘に首肯するのは、山本啓一・千葉大学名誉教授(生理学・生化学)である。
「根拠論文では、マウスの胎仔由来の培養細胞にケルセチンを与えると、細胞内の脂肪が分解され、脂肪酸とグリセロールになって放出される、としています。ただ、人間の脂肪組織で同じ作用が起きたとしても、脂肪酸とグリセロールが消費されなければ、もとの脂肪に戻ってしまいます。脂肪は燃焼され、炭酸ガスとして体内から出て行くことで初めて消える。単に脂肪酸とグリセロールへの分解を促すだけで、脂肪が減るわけではありません」
山本氏はさらに、根拠論文で有意な変化が生じたとされる、腹部脂肪面積の減少にも斬り込むのだ。
「結論から言えば、“10・30平方センチ”という減少量には何の意味もないと言えます。というのも、この数字は実験群と対照群のカロリー摂取量の差で説明がつく。つまり、腹部脂肪面積の減少量を重量で表した値と、カロリー摂取量の差を脂肪量に換算した値とが、ほとんど同じになるということです」
図を参照しながら、山本氏による解説に耳を傾けよう。
まず、先の高橋氏の発言にもあった通り、両群の腹部脂肪面積の平均は約292平方センチ。これに下腹部から胃の上部までの高さ30~40センチを掛けると、概算ながら腹部脂肪の体積は8760~1万1680立方センチと割り出せる。そこに脂肪の比重0・9を掛けて腹部脂肪の重量を求め、減少率が3・5%とすれば、腹部脂肪の減少量は276~368グラムとなる。
「次に注目するのはカロリー摂取量です。実験群は1日平均1885・2キロカロリーで、対照群は1922・3キロカロリーなので、その差は37・1キロカロリー。おおよそ“9キロカロリー=1グラム”ですから、1日当たり37・1キロカロリーの違いがあれば、脂肪量としては4グラムの差が生じることになります。これが84日(12週間)分ならば336グラムです。腹部脂肪の減少量と摂取カロリーの差がほぼ同じである以上、ケルセチン配糖体には効き目がないと結論付けることができるのです」(同)
その点について、販売元のサントリー食品インターナショナルに質すと、
「本論文では、対照飲料との比較でカロリー摂取量に差は認められておらず、生活習慣が適正であったことを示しています」
と回答した。こちらの疑問に正面から向き合っているとは言い難い。
そのカラクリが明らかになるにつれ、商品のイメージそのものが崩れていくようではないか。そう、「バラ、バラ、バラ。」と。
