横浜「パンのフェス」の凄み、パン好きが殺到!午前中に売り切れる

パン好きが殺到! 横浜「パンのフェス」の凄み

ここ数年、日本は空前のパンブームに沸いている。人気のパン屋の前には開店前から長い行列ができ、午前中に売り切れる。SNSでは、パンマニアたちが投稿したパン情報が飛び交う。雑誌がパン特集を組み、パン屋情報を集めた書籍が次々と発行される――。

 熱狂的なブームをけん引するひとつが、各地で開かれるパンイベントである。中には大勢の人が詰めかけるため、午前中にめぼしい店のパンが売り切れてしまうイベントもあるほどだ。

 パン業界紙を発行するパンニュース社の矢口和雄社長によれば、最初に消費者向けのパンイベントが開かれたのは2010年10月。中小の製パン業者が加盟する全日本パン協同組合連合会が主催する「第1回日本全国ご当地パン祭り」がそれで、会場は東京・有楽町の東京国際フォーラム地上広場だった。

 続いて2011年10月に、人気のパン屋が集中する世田谷区で「世田谷パン祭り」が世田谷公園ほかで、2013年には東京・青山の国連大学前広場で開かれる青山ファーマーズマーケットと併催した「青山パン祭り」が始まった。

■業界向けから消費者向けイベントに

 そのほかにも、首都圏では、東京・八王子市で「大善寺パン祭り」、東京・杉並区で「すぎなみパン祭り」、練馬区で「練馬パンカーニバル」、埼玉県川越市で「川越パンマルシェ」などが開かれ、関西圏では兵庫県神戸市で「神戸パン祭り」、奈良県・和歌山県で「パンステージ」などが開催されている。東京で始まったブームが、地方にまで広がってきているのだ。

 こうしたパン祭りの特徴は、どちらかと言えば地元のパン屋を中心とした「地域密着型」であること。地元店やパン協同組合、商店街組合などが主催することで、地域活性化をもくろむ。それはある程度成功しているようで、矢口社長は「従来のパンイベントは、業界向けのものだった。それがB級グルメイベントの成功を受け、消費者向けに開かれるようになったのではないか。各地で盛り上がっています」と語る。

 こうした中、パン好きから絶大な支持を得ているのが、3月3日から5日まで横浜の赤レンガ倉庫で開催される「パンのフェス」である。

「パンのフェス」は何がスゴイのか?

 今年で2回目となるイベントを主催するのは、チケット販売大手のぴあと、出版取次大手の日本出版販売(日販)で構成するパンのフェス実行委員会。日販は、パンに関する総合的な知識を持つ資格、パンシェルジュ検定を運営する。横浜市のパン屋を中心に、商品だけを提供した他地域の店も入れて、今年は約70に上るパン屋および団体がパンを販売する。

 パン祭りの中では比較的後続だが、「パンのフェス」の集客力は驚異的だ。昨年フェスの初日となった金曜日(土日を含む3日間開催)はあいにくの雨模様だったが、赤レンガ倉庫には開場2時間前から行列ができたほど。地元横浜市から出店したパン屋を中心に商品を補充しても追いつかず、最終的には50店すべてのパンが終了時間前に売り切れた。

 翌日から初日の倍以上のパンをそろえたが、それでもパンは完売。当初3日間で5万人の来場を見込んでいたが、フタを開けてみれば約12万人が押し寄せたのである。

 これには、主催者、出店者とも驚嘆。「ほとんどのパン屋が、過去最高の売り上げを記録した。フェスが終わったとたん、出店者から『来年もよろしく』と声をかけられたほど」と、パンのフェス実行委員を務めるぴあの幅野裕貴氏は明かす。目立ったのは、30~40代の女性だったが、カップルや家族連れも多く訪れた。誰もが列に並びながら、パン屋の情報をスマホで調べる姿が見受けられ、「パンというコンテンツの強さを感じた」(幅野氏)という。

■「パンのフェス」がパン好きを魅了したワケ

 昨年は一時、約3000人が大桟橋まで行列を作るほど混雑したが、今年はブース面積を倍増し、大量流入に備える。今年はさらに、地元横浜市に本社を置く協賛企業のブースを設けるほか、昨年に引き続きパンにまつわる雑貨なども販売。また、パン情報のムック本も発売する。ぴあは近年、イベントと出版を連動させ、相乗効果を狙う試みを行っているが、パンもコンテンツとして立派に成り立っているというわけだ。

 「パンのフェス」がパン好きに支持されるのは、なぜだろうか。ひとつは「日本最大級の“パンのフェス”」というキャッチコピーに代表される、事前告知の力。出店・出品者も、「ポンパドウル」など横浜市の人気店を中心に、東京・富ヶ谷の「ルヴァン」、北海道の「ますやパン」などパン好きの関心が高い店を全国から集めている。また、東京・三軒茶屋の超人気店「シニフィアン・シニフィエ」が要予約の限定オリジナルパンを販売するなど、パン好きの心をくすぐる内容を盛り込んで期待させた。

パン好きが興奮する仕掛け

 フェイスブックを通じて行った告知では、出店もしくは出品するパン屋の情報を、明らかにパン好きとわかる担当者による記事を随時アップして盛り上げた。

 そういった事前の期待感が、大盛況につながったわけだが、集客力を支えたのは主催者の情熱である。「パンのフェス」を立ち上げた幅野氏も「自宅の冷凍庫は、冷凍食品を入れる隙間がないほどパンでいっぱい。気になる店では3000円分くらい買う」と語るほど自他共に認めるパン好き。日頃は客としてパンを食べる実行委員たちが、発掘した「おいしいパンを売る店」を口説き落とした結果、魅力的なコンテンツとなって客を呼び寄せたわけだ。

■横浜を開催地に選んだ理由は? 

 有名店だけでなく、横浜に根付いたいわゆる「町のパン屋さん」も多く出店していたのも、人気を得た理由のひとつだろう。「人によって好きなパンは違う。『パンのフェス』には、単価100円のパンもあれば、400円のパンもある。自分の好きな種類のパンだけでなく、それ以外にも新しい発見がある場にしたい」と幅野氏は話す。

 開催地に横浜を選んだのは、日本におけるパン発祥の地だから。横浜市は1860年、日本で最初のパン屋ができた場所であり、元町商店街には幕末期にイギリス人が開いた店から計算すると、現存する店として最古のウチキパンがある。

 地域活性化の狙いもある。出店者数を昨年から20以上増やした今年は、横浜市綜合パン協同組合ほかで横浜の町のパン屋を紹介することに力を入れる。「全国の一流店のパンと同列に並べることで、両方の味を楽しんでもらいたい」と幅野氏は言う。「横浜市には後継者問題を抱える個人店や、学校給食需要の減少に悩む中小製パン会社が多く、地元とどう向き合うか、という課題を抱えている」

そもそもなぜパンブームは始まった?

 経済産業省の商業統計によると、パンの製造小売業者の数は、1997年の約1万2600店をピークに減少が続いていた。ブームの陰で、町のパン屋が次々と閉店する問題を抱えているのは、横浜市だけではない。

 一方で、1990年代後半以降、フランスの原料を使うなどした本格派フランスパンを販売するおしゃれなパン屋が、次々とできて人気を集めている。パンブームは最初、そういう本格派フランスパン人気から始まった。2009年11月の『Hanako』パン特集を契機としてパン屋自体に関心が移り、ここ数年は食パンやコッペパンなど昔ながらのパン再発見へと展開している。消費者の関心が深まり、人気のすそ野が広がっているのだ。

■パン屋の数は1500店増加

 ブームの後押しを受けてか、2012年から2014年にかけて、パン屋の数は約1500店増加した。また、人気店の中には、後継者がトレンドに合わせたリニューアルを試み、成功した店もある。ブームは、新旧交代により業界が活性化し、商品の品質を上げたことから生まれたと言える。

 しかし、恩恵が業界に広く浸透するのは、まだこれからかもしれない。実は「パンのフェス」は初回立ち上げには苦労している。「出店者の10倍ぐらい断られた」と幅野氏は明かす。イベントに対する信頼性が低かったことや、通常営業以上のパンを製造する余力がないなどが理由だった。しかし大盛況という結果が出たことで、昨年の出店者のほとんどが今年も出店するほか、新規出店の交渉もスムーズに進んだという。

 今年出店する地方店の中には、「人気店の中で自分たちの力を試したい」「将来、首都圏に出店したい」と意気込むところもある。首都圏中心に展開するブームを活用し、実力をつけて知名度を上げようとする頼もしい店も登場しているのだ。パンブームと各地に広がる「パン祭り」の波によって、パン業界も新たな局面を迎えている。

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