大人のためのドラえもん『STAND BY MEドラえもん』が問いかけたかったもの

大人のためのドラえもん『STAND BY ME ドラえもん』が問いかけたかったもの

国民的人気マンガと言える「ドラえもん」は1970年に連載開始。79年にはアニメ化され、現在も続いている超人気番組となっています。80年から続く劇場版長編アニメも春休みの風物詩となっていますね。そんな「ドラえもん」が初の3DCGアニメとして映画化され、いつもの劇場版とは別の時期、夏休みに上映されます。

ところで、毎週定期的にTV放映される(物語が続いていく)のが当たり前になっている「ドラえもん」ですが、じつは最初の学年誌掲載の段階では最終回を迎えたことがあります。現在は単なる通過点のイベントとして記録されているそのエピソードですが、確かに物語は一度は完結したのです。(私はリアルタイムの小学生として、それを経験し、子供ながら感動して泣きました…)今回の映画『STAND BY ME ドラえもん』は、物語のそもそもの発端から、このエピソードに至るのび太たちの日常を描いた作品です。これは、春の劇場版が、日常を離れた異世界での冒険を主に描いていることと対照的なのですね。

では、そののび太たちの「日常」とはどんなものでしょうか。まず、のび太が大失敗をしてトラブルに巻き込まれる。ドラえもんのひみつ道具によってそれを解決。しかし、思わぬ反作用があってひと騒動が起きちょっと反省。というのがよくあるパターンです。王道のパターンを続けながらも、そこに様々なアイディアやバリエーションを持ち込むことによって、読者(視聴者)を飽きさせないのはすごい、と改めて感心させられる点です。

この映画版でも、そうした日常の様子は楽しそうに描写されています。しかし、映画ではドラえもんに対して「成し遂げプログラム」が導入されている点に注目してみたいのです。このプログラムによって、ドラえもんが現代にいる理由付けが自然になされていますが、同時に強制的にこの時代から去らねばならぬ事態も引き起こされるのです。永遠に続くかに思えた幸せな日常。しかしそれは、ある日突然崩れ去ってしまうものかもしれない。大切な人だって、いついなくなってしまうかわからない。だから現在を、このありふれた日常を、もっと大事にしていこう。そんなメッセージがこめられているように感じられたのですね。

ちなみに「大人も泣ける」と評判のこの映画。泣きポイントは人によってそれぞれですが、私的にはクライマックスではなく、未来におけるしずかのパパのセリフが泣き所でした。ここにもまた、「平凡な日常を当たり前のように送ることができる幸せと、それへの感謝」という思いを感じ取れたので…。

もうひとつ、この映画のテーマは「のび太としずかのラブストーリー」でもあります。しずかへの一途な想いから、時には暴走し大失敗もするけれど、それでも彼女を何よりも大切に思っているのび太。彼は彼女にふさわしい男になれるのか…。ここもまた感動ポイントなんですが、ちょっと待った。のび太がしずかと結ばれる、というのはひとつのゴールです。それにはのび太の成長が不可欠。そういう意味では、この映画は「のび太の成長物語」としてよくできています。ドジでなまけもの(映画版ではのび太のダメダメぶりがより強調されているようにも感じます)だったのび太が、さまざまな経験を経てどう変わっていくか。そこへ至る道程も細やかに描写され、観客も感情移入しやすくなっています。

しかし、のび太が成長した先に待っているのは「ドラえもんを必要としない世界」でもあるのです。したがって、物語をずっと続けるためには、のび太はいつまでもドジで、すぐドラえもんに泣きつくしょうもない奴であり続けなければならないのですね。そんなシリーズものの制約の中で、きっちりとのび太の成長を描きたい、この思いから、映画版ではあの「最終回」のエピソードが選ばれたのではないでしょうか。

もっとも、そんな理屈は抜きにしても大人から子供まで楽しめる作品なのでご安心を。特にタケコプターで空を飛び回るシーンの浮遊感と臨場感は3Dの効果を最大限に生かした素晴らしいもの。まさに子供の頃の夢が叶った瞬間と言えます(もっとも、未来の飛行シーンでは協力企業の看板がやたらと目立っていて笑っちゃいましたが…)。

(付記1)

土管のある空地の風景、のび太の部屋に転がっている本の表紙、壁に貼られているポスターや未来のホテルのショーの広告など、シリーズのファンなら思わずニヤリとするような遊び心あふれる描き込みがいっぱいありますのでお見逃しなく。

(付記2)

声のキャストは現在進行形のTV出演者の方々がなさっています。もちろん素晴らしい出来なんですが、こういう話だけは昔のキャストでも聞きたかったなぁ、というのも本音。ソフト化の際にはなんとか副音声ででも考えてもらえませんかねぇ…。

🍎たったひとつの真実見抜く、見た目は大人、頭脳は子供、その名は名馬鹿ヒカル!🍏