鴻海から来た新社長が吠える!「シャープにはガバナンスがなかった」 就任後初の記者会見 その中身
3月13日月曜日、新幹線と南海電鉄を乗り継いで堺市についた。目指すは大阪府堺市堺匠町1番地。2016年夏に台湾、鴻海(ホンハイ)精密工業の傘下に入ったシャープの本社である。
シャープの本社はもともと創業の地である大阪市阿倍野区にあったが、ホンハイに買収される前に業績不振でニトリ・ホールディングスなどに売却してしまった。
現在の本社は昔のシャープ堺工場。部品メーカーの設備を含めると投資総額1兆円に及ぶ巨大液晶コンビナートである。世界で唯一の第10世代液晶パネル工場であり、フル稼働すれば世界最強の生産効率を発揮する。2012年、ホンハイの郭台銘(テリー・ゴウ)会長は個人の資金660億円を投じ、経営危機に瀕したシャープからこの工場を買い取った。
そして2016年、今度はシャープ本体がホンハイに買われることになり、ホンハイは副会長でナンバーツーの戴正呉氏をシャープ社長に据えるとともに、本社を堺市に移した。それから7カ月が経ち、戴社長が初めて記者会見をすることになった。
就任以来、これまで日本での発言がほとんどない戴社長が何を言うのか。この日、堺市には東京からも多くのメディアが詰め掛けた。
会場は入り口から最も遠い建物。ゲートからは1・3キロメートルもあり、歩くのは少々厳しい。社員はみんな自転車で移動している。それほどの巨大工場なのだ。
午後2時、野村勝明副社長、橋本仁宏常務を率いて戴社長が登場した。少しだぶついた背広を着た実務家らしい風貌で、一代で15兆円企業のホンハイを築いた郭会長のようなオーラはない。能吏といった感じだ。
「みなさんようこそお越しくださいました」
中国語か英語だと思っていたら、なんと日本語である。それも最初から最後まで。
「私の日本語、上手ではありません。でもここは日本企業ですから」
いやいや、流暢なものである。意思の疎通にはまったく問題がない。日本企業との取引歴で言えば40年を超える。戴社長は日本を知り尽くしているのだ。
最初のプレゼンテーションでは「家電メーカー」から「IoT(Internet of Things=もののインターネット)企業」への変身を目指すシャープの経営方針を、タッチパネル式の大型ディスプレーを使って説明した。
従業員数100万人のホンハイで長年、人事のトップを務めてきた戴社長は、「信賞必罰をベースにシャープの人事制度を見直す」と話し、賞与の原資は4カ月分だが、優れた成果を上げた社員には8カ月分のボーナスを払うことも明らかにした。
質疑応答が始まると、聞き取りにくい質問の時には席から身を乗り出し、記者の質問を懸命に聞き取ろうとした。
しかし、そこは海千山千の経営者。都合の悪い質問の時は聞き取りにくふりをしていたようにも見えたし、結局「何を聞かれても自分の言いたいことを言う」という外資企業のトップにありがちな受け答えが多かったのも事実である。
だが就任から7カ月。米アップルをはじめ世界のエレクトロニクス、IT企業と渡り合ってきた戴社長の目には、日本企業の弱点がよく見えていた。
ここからは質疑応答のハイライトをご覧いただこう。
Q ホンハイ傘下になってからシャープ幹部社員の流出が続いている。危機感はないか。
戴社長 私の口からは少し言いにくいが、これまで報道に出てくるシャープの幹部は大西(徹夫・元副社長)さんをはじめ、白髪の人が多かった。シャープ従業員の平均年齢は50歳。これを45歳くらいに是正したいと思っている。
幹部社員は皆、本来は不正競争防止法に則って他社に機密を漏らさない誓約書を書いている。個人のキャリアは尊重するが職業道徳に反する行為は許されるべきではないので新しいルールを作ろうと思っている。
また、一度出ていった幹部のカムバックはなんの問題もない。能力のある人が戻ってきてくれたら嬉しい。ホンハイ流に言えば、幹部社員に給料はいらない。成果に応じたストックオプションとボーナスで存分に報いたい。
Q 半年間、シャープを観察し、業績不振の原因はどこにあったと分析するか。
戴社長 昨年の2月24日に発覚した3600億円の偶発債務問題が象徴的だが、ガバナンスが効いていなかった。中国で乱発したリベートなどが原因だが、きちんとガバナンスが効いていればあんなことは起きない。
太陽光パネル事業ではものすごく高い値段で材料の購入を決めていた。150億円の投資に専務のサイン一つで実行できた。喩えて言えば昔のシャープは社長が液晶パネルの工場を建て、副社長が太陽光パネルの向上を建てる。社長と副社長は仲が悪いから、(配電や排水処理など)ユーティリティーを共用しない。液晶パネルと太陽光パネルは工程が似ているから、多くのユーティリティーを共有できるにもかかわらずだ。
今のシャープでこういうことは起きない。300万円から社長の私が決済しているからだ。この半年で2000件の決済をした。業績が悪く、部門間の横展開がなかったため(部品、装置、材料メーカーなどの)ベンダーとの間で不平等な契約を結ばされているケースもあった。ホンハイの購買力を使えばもっと有利な契約に変えられる。
コスト意識も低かったと言わざるを得ない。この工場(堺工場)の中では社員がエスカレーターに乗っている。まるで、いま日本に来ているサウジアラビアの王様のようだ。
Q もう液晶テレビで稼げる時代ではない。これからシャープをどういう会社にしていくのか。
戴社長 IoTの会社に変える。先週、総務省に呼ばれ「第41回家電メーカー懇親会」という会議に出席した。ソニーやパナソニックの社長も呼ばれていた。そこで私はパナソニックの津賀(一弘社長)さんに「この名前は正しいのですか」と訪ねた。自分たちのことを「家電メーカー」と呼んでいるのはおかしいと思う。
家電は家に帰ってスイッチを入れないと動かないが、IoTは利用者がオフィスから動かせる。「もうすぐ故障するからパーツを替えましょう」という提案もできる。今、IoTの最先端は中国にある。だからシャープは深圳に研究・開発センターを設立した。富士康(フォックスコン=ホンハイの中国製造部門)の工場も目と鼻の先にある。
ITの使い方において、日本はすでに先進国とは言えない。2020年にはIoTで一番遅れた国になっているかもしれない。だから総務省も頭を痛めている。シャープはホンハイと力を合わせ、グローバルなIoT企業になる。
Q 戴社長は「液晶テレビ事業の復活」を掲げ、2018年に1000万台の販売目標を立てているが、それは実現できるか。
戴社長 達成可能だ。中国、アセアンで液晶テレビの販売はまだまだ伸びる。テリー(郭会長)は液晶パネルを「戦略部材」と考えている。液晶パネルはあらゆる分野で必要不可欠な部材だ。だからテリーは液晶パネルに個人で投資している。私は26年間、隣で仕事をしてきたから、テリーの考えがよくわかる。ここ(堺ディスプレイプロダクト=SDP)に個人で投資しているのは未来を確信しているからだ。
限られた時間での質疑応答だったが、リーダーシップもガバナンスもなくズルズル沈んでいたシャープは、ホンハイ傘下で活力を取り戻しつつあるように見えた。
