マツダ「ファンを信じる」新型デミオ1.5ディーゼルの戦略 ハイブリッドの牙城に挑む

「ファンを信じる」新型デミオ1.5ディーゼルの戦略 ハイブリッドの牙城に挑む

間もなく登場する新型デミオで、マツダの新世代ラインナップが完成する。

 SUVのCX-5、Dセグメントのアテンザ、Cセグメントのアクセラと続き、トリを務めるのがデミオである。これら新世代4車種の定義は比較的簡単だ。マツダが掲げるのはエンジン、トランスミッション、シャシーの全てに「省エネと低環境負荷」「高い安全性能と走行性能」を達成するSKYACTIVテクノロジーを全面投入することだ。前世代のモデルから部分的に導入が進んできたSKYACTIVだが、ついに主要ラインナップ4車種のトータルSKYACTIV化プランが完了する。

そして最量販車種であるBセグメントは、ビジネス上失敗の許されない重要なクラスである。ここまで順調に来たマツダのSKYACTIVテクノロジー導入が最終的に成功するかどうかを占う仕上げの一台になる。「絶対に負けられない戦い」というフレーズは新型デミオにふさわしい。

それだけにマツダの力の入れ具合は尋常ではない。新型車の登場は、通常極秘事項として厳しく情報制限されるが、今回のモデルチェンジに関しては、打てる手は全て打つべく、すでに様々な事前キャンペーンが張られている。都内で車両展示なども行われているので、実物を目にした方もいらっしゃるだろう。

 こうしたキャンペーンの一環として、8月27日に報道向けに東京・晴海の特設コースでプロトタイプの試乗会が行われた。そこで試乗に提供されたクルマは、もちろん注目の1.5リッターディーゼルモデルだ。マツダが一番アピールしたいと思う車種と、ユーザーが最も気になる車種が上手に一致したわけだ。

なぜ「1.5ディーゼル」なのか?

 マツダの説明によれば、すでに投入されているSKYACTIV-D 2.2には大きな自信を持っているものの、モデルレンジの下側を支えるには、どうしても大きすぎる。Bセグメントに導入するにはもっと排気量の小さなディーゼルが必要だったのである。

 その1.5リッターディーゼルについて誰もが知りたい点は「走りはどうか?」と「いくらで売るのか?」の2点だと思う。結論から先に言うと、エンジンは相当にスポーティで魅力的なもの。価格は「Bセグメントのハイブリッドとぶつかる価格でいきたい」とのことで、つまりアクアやフィット・ハイブリッドとぶつかる価格。170万円代か、180万円代の値付けになってくるはずだ。

 用意された試乗車は1種類で、前述の通りSKYACTIV-D 1.5を搭載したFFモデルだった。トランスミッションはオートマチックだ。ちなみに新型デミオのモデルレンジは、駆動方式がFF/4WD、エンジンが1.3ガソリンエンジン/1.5ディーゼルエンジン、変速機はマニュアルミッション/トルクコンバータ式オートマチックミッションで展開されており、順列組み合わせの中で、ディーゼル/ガソリンともに、マニュアルミッションでは4WDモデルは選べない。4WDは従来の「後輪だけモーター」式の簡易4WDではなく、プロペラ・シャフトを持つ本格的なものに変わった。

「燃費のチャンピオン」目指さない選択

 新型デミオに関してマツダが設定したテーマは「スタイリングと品質」「走りと燃費」「ロングレンジドライブ」の3つだ。このテーマをどうやって実体化するかという時に、マツダのアプローチは他社とちょっと違う。一番解りやすい「走りと燃費」について言えば、燃費のチャンピオンを目指していない。

 今や世界中のメーカーがしのぎを削る燃費競争で、他社を出し抜いてチャンピオンになろうと思えば、他の性能が犠牲になる。戦いが熾烈過ぎて、何も犠牲にしないではチャンピオンにはなれないのだ。例えばタイヤだ。エコ性能に特化したタイヤを使えば、カタログ燃費を稼ぐことができるが、ウエットグリップには目をつぶらざるを得ない。

 そういうタイヤを採用することが何を意味するかは、クルマのなんたるかを知る技術者が解らないはずはない。それでもカタログ数値を叩き出さないと競合車との販売競争に勝てない。おそらく忸怩たる思いで燃費スペシャルタイヤを採用している技術者は多いのではないかと思う。

 そしてカタログ燃費に踊らされてクルマを購入した結果、雨の日にスリップを経験するユーザーにとってもそれは決してプラスにはならない。メディアはこういうことをなかなか書かないので、誰も得をしない燃費スペシャルのタイヤはどんどん幅を効かすことになるのだ。この件に関しては、メーカ、ユーザー、メディア全部が共犯関係にあると言える。

 誰にでも解るカタログ数値を叩きだすことより、マツダはマツダブランドを愛してくれる顧客に満足してもらうことを選んだ。試乗車はトーヨーのプロクセスを履いていたが、これは燃費スペシャルのタイヤではない。もちろんSKYACTIVの柱のひとつは燃費だから、決して燃費をないがしろにしているわけではない。ただ、ウエットグリップを犠牲にしてまで数値を追求しないというだけのことだ。ファンなら解ってくれるはず。そんな技術者の願いがこもっているのだ。

ドライバー中心のパッケージ

 スタイリングに関しては写真を見ていただくのが一番早い。かつてのマツダに見られた「おぼこい」印象は消え、垢抜けたデザインになった。しかしながらそれが煩悩まみれのチャラチャラしたものになっていないのは真面目なマツダらしい。インテリアもBセグメントと言われて頭をよぎる安っぽさは無く、品質感は高い。上級クラスから乗り換えても悲しい気分にはならない。

 走りに関しては試乗印象とともに後述することにして「ロングドライブ」について先に説明したい。というのも新型デミオにとって一番重要なのはこの部分で、かつデミオのコンセプトが一番解りやすいからだ。

 近年の国内自動車市場のトレンドのひとつはダウンサイズだ。「大きいクルマはいらない」という人が増えている。その結果、いまやDセグメントやCセグメントからBセグメントへサイズダウンするユーザーは多い。軽自動車が爆発的に売れているのもこのトレンドの延長にある流れだろう。となると、よりスペースに余裕があり、コストのかかったクルマからデミオに乗り換える人が多くなるわけだ。マツダとしてはこの層に「ああ、やっぱり小さいクルマは安っぽいし、安心感がないんだな」とがっかりさせないことを強く意識している。それを具体化したキーワードが「ロングドライブ」だ。

 第一に狭苦しさをどう払拭するかだ。新型デミオはクルマを大きくした。新旧で対比すると、全長3900→4060ミリ、全幅1695→1695ミリ、全高1475→1500ミリ、ホイールベース2490→2570ミリというディメンションを見ると目立つのは全長とホイールベースの拡大だ。

 デミオは全長を延伸したのと同時にフロントホイールを前に押し出した。これはドライブポジションの適正化を狙ったものだ。右ハンドルマーケットでは、右前輪のホイールハウスとアクセルペダルが干渉して、結果ペダルが左にオフセットして運転姿勢が辛くなる。

 右ハンドルを基本に設計される国産車でもそうなっているクルマは少なくない。オフセットを放置したくなければ、大きくわけて2つの方法があり、ひとつは運転席ごとねじって左斜めに向ける方法。もうひとつは運転席をペダルごと後ろに下げる方法だ。

 前者では運転姿勢に違和感が残り、ロングドライブでの疲労が大きくなる。後者はクルマのパッケージ効率が落ちて、リアスペースが削られる。こうした問題を避けるために、タイヤの方に動いてもらったのがデミオの解決策だ。結果としてペダルとシートの関係は良好なものになる。しかしタイヤを前に押し出すためにはエンジンとトランスミッションを新設計する必要がある。簡単な解決方法ではないのだ。

フロントシートにリソースを集中

 次にシートだ。実はシートは真面目に作るととても高い。コストダウンの矛先が向きやすい部品のひとつでもある。デミオではシートバックに座面と同じ高密度のウレタンを使用すると共にひざ裏を中心とした座面の硬さを最適化することでシートの座り心地を改善している。旧型に比べてシートが大きくなっている印象を受けたので開発担当主査に聞いてみたところ、前述のように硬さのチューニングで快適性を向上させただけで、サイズそのものは変えていないということだった。

 リアシートは、ホイールベース延伸の恩恵で膝元の余裕がたっぷりあり、さらにつま先がフロントシートの下に入れられるように配慮がなされている。

 ただし、頭上の余裕は少ない。Bセグメントの場合、基本的な顧客のニーズが2座であり、元々後席居住性のプライオリティは高くない。デミオのテーマのひとつにデザインの洗練性があり、デザイン上ルーフ後端が下がるスタイルが求められるなら、ニーズの少ない後席居住性は多少の我慢を求めることになる。これが空間重視で背の高い四角い箱で構わなければ後席の居住性はもっと追究することができただろう。同じBセグメントでも、シエンタやキューブはそうやってスペースを稼いでいる。

 ただし、デミオはルーフに押された頭上空間対策として、座面のクッション厚を減らしているため、Bセグメントの平均値を下回るようなことにはなっていない。しかしクッション厚を減らした結果、このクラスとしては贅沢な設計をしたフロントシートの掛け心地とは当然隔たりが大きくなる。これについて主査は「リアシートは先代モデルのレベルをキープすることを目標とした」と率直に述べている。

 コンセプトとコストの制約があって全てのシートを高級にすることはできない中で、使用頻度の高いフロントシートにリソースを集中投下したことは、八方美人を狙わない見切り千両と言える。さらに車高の低さは運動性にも効いてくるので「スタイリングと品質」「走りと燃費」「ロングレンジドライブ」というデミオの3つのテーマに立ち戻れば当然の帰結だとも言える。後席を重視するならサイズにさらに余裕があるアクセラをどうぞということだ。

 こうした慎重なバランス取りによって、新型デミオは「Bセグメントのクラス概念を打ち破る」とマツダが胸を張る通り、運転者がロングドライブで疲れない運転環境を実現した。

「プレミアムBセグメント」での戦い

 先週の記事で現在のBセグメントの3つのクラスの話をした。マーチやミラージュの様に価格戦略で戦う「新興国用Bセグメント」、ヴィッツやフィットやスイフトのように予算以外の理由で小さいことを選択する「先進国用Bセグメント」、そしてBMWミニやアクアやフィット・ハイブリッドの様に、他のクラスとも比較されて選ばれる「プレミアムBセグメント」だ。

 新型デミオは少なくともディーゼルに関する限り、このプレミアムBセグメントにエントリーすることになる。「トヨタのクルマには乗りたくない」という人にフィット・ハイブリッドが好評を持って迎えられたように「ハイブリッドには乗りたくない」という人に向けた選択肢としてデミオ・ディーゼルは新しい選択肢を与えることになると思う。

 新型デミオをあらためて俯瞰的に見ると、近年「燃費」が主役になりつつある風潮の中で、運転者をクルマの主役に据えて設計されたクルマだということだ。「八方美人でない」ということは実はかなり意味深長だ。他の性能を切って捨てるという意味では無く、全ての性能の中で優先すべきプライオリティを明確にするということだ。

 それが燃費スペシャルタイヤからの離脱に、あるいは前席優先のパッケージに、運転姿勢の適正化とフロントシートの高機能化に表れている。ドライバーカーであることが主であり、それに反しない範囲で他の性能を出来る限り手段を尽くしたわけだ。

 クルマに求めるものは人によって違う。何よりも燃費だという人もいるだろう。大勢でワイワイと移動するための道具を求めている人もいるだろう。そういう人にはデミオは向かない。マツダはBセグメントにドライバーズカーであることを求める人に焦点を定めてデミオを作ったのだ。

 さて、だいぶ長くなったので、主役のディーゼルエンジンの詳細とインプレッションは次回にレポートしたいと思う。

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