残業ゼロ、経費2000万円減!老舗企業が経理改革で変わった
2012年頃に登場し、わずか5年で全法人の約4分の1以上、個人事業主と合わせて100万を超える事業所が導入している「クラウド会計」。本連載は『会計事務所と会社の経理がクラウド会計を使いこなす本』著者の税理士と公認会計士がインタビュアーとなり、クラウド会計を活用して生産性を上げている企業の事例を紹介する。
第6回は、東京・渋谷区に本社を置く土井電機株式会社のクラウド会計導入事例を紹介する。同社は衛星外部アンテナ用取付金具等を製造する本業のほか、都内でデイサービス事業、美容鍼灸院を経営する従業員20名の会社で、今年創業100周年を迎える。クラウド会計によって、老舗企業が伝統化した管理スタイル、業務スタイルからどう変化したのかを見ていく。(構成/加藤年男 写真/竹内洋平 写真提供/土井電機株式会社)
● 自社に役立つクラウドサービスを 選ぶときの判断基準とは?
土井会計士 クラウド会計導入前後で、どんな変化が起こりましたか。
土井社長 クラウド会計導入をきっかけに決算数字が早く見えるようになったことで、製造原価が2000万円改善できました。
河江 2000万円はすごいですね。
土井社長 製造部門にはもともと、ムダがたくさんありました。父の時代は決算後2~3ヵ月が経たないと原価に関する数字がわからなかったのです。それが、クラウド会計導入後は、ほぼリアルタイムで原価をつかめるようになりました。直接的なコストダウンは製造工程の改善によるものですが、クラウド会計によって無駄な部分を早期に発見し、「どの工程をどう変えると効果が出るか」という判断が素早くなったのです。
米津 クラウド会計はいつ導入されたのですか。
土井社長 6年前、私が父から会社を継いだ翌年です。業務のスピードアップと効率化を目的に、私から顧問税理士に頼んで導入しました。
土井会計士 クラウド会計ソフトだけでなく、「経費」「マイナンバー」「請求書」「消込」など、他のクラウドソフトも連携導入しているようですが、その理由はどこにあるのですか?
土井社長 クラウド会計導入を検討した当初から、会計だけでなく付随するクラウドサービスを連携させてこそ業務が一気に効率化できるという意識がありました。弊社が導入しているクラウド会計ソフトは、数ある類似サービスの中でもバージョンアップのスピードが一番速いと感じたものです。新しい分野では、ユーザーの声を受けてバージョンアップを素早く回せるサービスが勝ち残ると私は考えています(*土井電機が導入しているソフトウェアは、記事末でまとめて紹介しています)。ソフトが頻繁に自動アップデートされるということは、新しいソフトを買わなくても常に最新機能の恩恵を受けることができるということです。クラウド会計を導入していないライバル会社に先んじることができますから、この波に乗ったほうが得だと考えました。
米津 会社の業務システム全体を入れ替えたことになりますね。システムインフラが月額1万円や2万円で整うというのは、他の分野ではありえないことですよね。
土井社長 我々のような中小企業にとって、安さは大きな魅力です。
米津 クラウド会計以外のクラウドソフトは、どのような基準で選択・導入されたのですか?
土井社長 デイサービス事業部では介護業界専用のクラウドサービスを使っていますし、関連事業の美容鍼灸院では別のPOSレジソフトを入れて個別に管理しています。無料の体験版などを活用して実際に一度使ってみて、使えるものだけを残し、不便を感じたものは導入をやめるという方針です。
土井会計士 請求書情報と実際の入金を自動で照合する「自動消込ソフト」は、料金が高いために利用している企業が少ないようですが、どの程度メリットを感じていらっしゃいますか?
土井社長 自動消込は主に製造部門の会計で使用しています。それまで消し込みは経理担当者が残業しなければ終わらない業務の1つでしたが、作業時間が大幅に短縮され、経理担当者の残業がゼロになりました。会社にとっては費用が減り、担当者にとっては自分の時間が増えるというメリットにつながりました。
土井会計士 人件費を考えれば、自動消込ソフトに月に数万円かかっても「元が取れる」計算になりますよね。具体的にはどのくらいの削減につながったのでしょうか?
土井社長 ひと月二十数万円から30万円の人件費削減につながりました。
土井会計士 最も導入しやすいソフトはどれでしたか。
土井社長 クラウド経費ソフトですね。「これで申請しないと経費を認めないよ」と社員に伝えるだけですから、切り替えが楽でした。あとはクラウドマイナンバーソフトです。マイナンバー関連事務は面倒が多いことがわかっていたので、クラウド管理との相性が良く、スムーズに導入できました。
● 60代でPC経験なし ITに弱い従業員に「ある作戦」が効いた
土井会計士 とはいえ、御社は創業100年の超老舗企業です。ベテラン従業員も多い中で全社的なクラウド化を推し進めるのは、なかなかハードルが高いような気がしますが。
土井社長 今回の一連の社内業務のクラウド化については「作戦」を立てていました。20代から最年長の67歳まで、従業員全員に事前にiPadを配ったんです。まずは遊んでもらって、使い方に慣れた頃を見計らって、まずは交通費などの経費精算を、iPadを使ったクラウドシステムに全面的に切り替えました。
米津 従業員全員となると、相当コストがかかりますよね。
土井社長 はい。ただ、iPad導入には2つの狙いがあって、両方を達成できれば費用対効果は高いと踏んでいました。1つ目は、経費精算や請求書作成だけでなく、営業時のプレゼン資料作成に活用できるなど、多面的な業務改善につながること。もう1つがスキマ時間の活用です。ある営業担当者は、電車に乗っているときに、「今、見積もりや請求書をつくれるじゃないか!」と気づいたと言います。結果的に早く退社できるようになり、喜んでいました。
土井会計士 とはいえ、慣れるまでに時間がかかる人もいるでしょう。たとえば、ご年配の方が使いこなせるようになるまでには、どのくらいかかりましたか?
土井社長 パソコンを一度も使ったことがなくて、ガラケーを使っていた60代の従業員がいます。彼にはまずMacを支給してパソコンに慣れてもらい、iPadを配ったあとも、写真を撮るなどの楽しめる基本操作から始めました。そこから約半年で使いこなせるようになりましたね。
土井会計士 iPadを使って仕事をすることに、現場から反発はありませんでしたか。
土井社長 ありました。デイサービス事業の従業員には、iPadが高価なものという意識があったようで、「落として壊したらイヤだから使いたくない」という声が出たため、回収しました。全員に配っても、使わない人が出ることはあらかじめ覚悟していました。製造に関わる部門は、みな面白がって使っていました。
● クラウド会計を使うと 「数字に対する直感」が磨かれる
米津 土井電機では、売上や利益のデータを全社員で共有しているようですね。クラウド会計に切り替えたことで、その点ではメリットはありましたか?
土井社長 週に1度、幹部を集めて経営会議を開き、クラウド会計や現場から出て来た自部門の数字を発表させ、全社で共有しています。クラウド会計を入れたことでその数字が精緻化されたため、それまでは売上や営業利益の見込みが「当てずっぽう」になっていたものが、95%以上の確率で予測できるようになりました。これは弊社の経験知ですが、現状が明確に数値化できれば、次に打つ手を各自が考えるようになります。幹部の当事者意識が高まり、責任感をもって経営にコミットするようになったのです。
河江 決算データは、どこに重点を置いて確認されているのですか?
土井社長 昨年対比です。前年同月はもちろん、当月までの累計も必ず昨年対比で見ます。前年との違いを正確につかむと、対策が立てやすくなります。
土井会計士 会計データを全従業員に共有することを躊躇する経営者も多いのですが、どのような狙いがあったのでしょうか。
土井社長 経営の透明性を上げ、全員で経営の数字を知らせるためです。いずれすべての会社数値を公開し、これまでの給料額なども個別に本人に見せるつもりです。現状、人件費は部署ごとの金額だけを公開していますが、すでに費用配分に関して部署間で調整が始まっています。たとえば1人採用してしばらく経つと、「この人の仕事内容から考えてうちの部署にこんなに費用が回ってくるのはおかしい」などと議論が始まるのです。みんなが数字に強くなって議論が生まれることは、私がもともと期待していたところです。
米津 中小企業の場合、売上はまだしも、利益については自分の責任ではないと思っている幹部も結構いると感じます。
土井社長 私が社長になった時点では、「粗利」と「営業利益」の違いを理解していない幹部が多くて驚きました。会議では目標値と昨年対比、現実の数字を読み上げさせていますが、それを繰り返すだけでも、だんだん「数字の感覚」が身についてきます。昨年対比で落ち込みがあれば、それを読み上げている本人は、その原因がどこにあるか、ピンときているはずです。クラウド会計活用の副次的なメリットとして「数字に対する直感力を磨ける」という点は大きかったですね。
米津 土井社長は、給与計算などのバックオフィス業務にもかなり明るいように見受けられますね。
土井社長 とんでもない。私はもともと大手メーカーで研究職をやっていて、当社に来たときに、仕事の流れが属人化している古さを感じました。そこを改善しようとしても、私が経験した大手企業のやり方にはみんながついてこれないと思ったので、ソフトのシステムを持ち込み、言わば「型にはめる」ことで社員教育しようと考えました。その後は、「この仕事はこういう手順とルールでやるものだ」「これが世の中の当たり前なんだ」という空気を、意識的に醸し出すようにしてきました。
米津 組織変革や業務改革は、トップダウンが機能するかどうかがカギになりそうですね。
土井社長 ただし、対応はできるだけ柔軟にするよう心掛けています。たとえば、給料明細も原則としてデータを各従業員のiPadに送っていますが、紙でほしいという人には、印刷して渡しています。
● 導入コストの安いクラウドサービスは PDCAサイクルが回しやすい
河江 いまは採用難だと言われますが、クラウドサービスを活用していることは、採用活動においても存在感が増すのではないですか?
土井社長 それはその通りですね。この数年のさまざまな業務改革で、会社の雰囲気も随分変わりましたし、新卒採用も増えて、平均年齢が一気に若返りました。クラウド化を始めた当初は「また変わるのか、面倒くさい」という反応でしたが、導入→実践→改善のサイクルを回すうちに、だんだんと「これを入れたらいいことがあるだろう」と思ってくれるようになりました。
米津 土井社長がそのように新しいことをどんどん取り入れていくモチベーションは、どこから生まれるものなのでしょうか。
土井社長 経営者にもいろいろなタイプがありますが、私は即断即決を是とするタイプです。悩む時間はアイドリングに過ぎないと思っています。だから失敗する確率は高くても、メリットを直感したものはすぐに試して判断するほうが、結果的に弊社にとっての「正解」に早くたどりつけると考えています。
米津 クラウド会計は導入コストも安いですから、会社に合わないと思えば、すぐに元のシステムに戻せますからね。
土井会計士 それだけクラウドソフトを活用されていると、我々のような会計事務所に求めることも変わってくるのではないかと思うのですが。
土井社長 クラウド会計ソフトを使っている企業は、使い方がわからないとき、ソフト会社よりも、顧問税理士に問い合わせることのほうが多いはずです。ですから会計事務所には今後、マイナンバー、給与、請求書などの流れもある程度把握した広範囲な能力が求められると感じます。ITを得意分野にしてワンストップで対応してくれる会計事務所があれば、企業にとっては非常にありがたい存在になるはずです。また、クラウド会計の導入自体を代行してくれたり、アドバイスしてくれる税理士がいればありがたいですね。
河江 最後に、いまクラウド会計の導入を検討している企業にメッセージをいただけますか。
土井社長 “the sooner, the better”。導入は、早ければ早いほどいいと思います。銀行口座と連携させ、どこにいても会社のキャッシュの動きが確認できるというのは経営者にとって本当に安心なことだと実感しています。
◇
クラウド会計導入は社員に「会社の状況」を見せる手立てになる。透明な経営が社員に「数字への意識」を根付かせ、社員が各自の職場で次に打つ手を考える社員改革に繋がっている。
*土井電機株式会社が経理クラウド化の際に導入したソフトウェア、周辺機器は以下です。
・会計管理:MFクラウド会計
・経費精算:MFクラウド経費
・請求管理:MFクラウド請求書
・給与計算:MFクラウド給与
・売掛金の消込:MFクラウド消込
・マイナンバー管理:MFクラウドマイナンバー
・デイサービス事業部:カイポケ
