東芝の社員は一刻も早く転職をすべきだ
■マーケットの関心は「北朝鮮問題」より「米国経済」だ!
本連載は三週に一度順番が回って来る。3週間は、世の中の景色が変わる時と、ほとんど変わらない時があるくらいの、微妙な時間経過だ。今週はどうか。
朝から晩まで、「トランプが」、「トランプが」、毎日トランプをめくるような、いささか辟易気味のニュースの連鎖を打ち破ったのは、北朝鮮の国家的指示によると思われる金正男氏殺害事件のインパクトだった。
結果的に安倍首相の訪米に「晴れの舞台」を提供したミサイル打ち上げに続き、矢継ぎ早のお騒がせであり、金正恩氏の単なる反対派粛正の延長による政権固めなのか、あるいは、彼の国の体制が崩壊に向かう不安定化プロセスが動きつつあるのか(印象は後者だが)、真実は分からないが、投資家としては、北朝鮮の暴発ないし政権崩壊は、「ありふれたレベルのブラックスワン」くらいに思っておくべきなのだろう。
相場のセオリー的には、「遠くの戦争は買い」だ。軍事衝突が起こった時には不確実性を嫌った売りが集中するが、日本の国土・経済に悪影響がないとわかると、戦争が世界的な(特に米国にとっての)有効需要創出の公共事業であることが認識されて相場的にはプラスに働くというのが、倫理・正義の観点は別として、最も典型的な相場のパターンだ。
ただし、朝鮮半島は十分「遠く」ではない。日本にもミサイルが来たらどうなるか、多数の難民が押し寄せたらどうなるか等、大きなリスクがあり(何れも、相場的には「売りの後、買い(=買い場探し)」だと思うが)、「軽い問題ではない」ので、防衛的リスクに敏感な人々の感情を今は刺激しない方がいい。「戦争には、買い場探しで」などと言わない方がいいのかも知れない。
さて、当面の問題の米国経済だが、相変わらず順調である。中国の経済も短期的には持ち直す傾向にあって、商品相場が堅調なのがその証拠である。世界的に、「もう少し財政政策を使え」という方向に向かいつつあることもプラスだ(日本では「特に」必要だが)。
資産価格がバブルに向かい金利の上昇から相場が崩れるまで突っ走る、典型的なパターンに見える。理屈上は、FRB(米連邦準備制度理事会)と米株価の動向に注意したいということになる。
だが、暴落は突然であり、世界に瞬時に連鎖するはずだから、「注意して見ていたからといって、暴落を避けられるわけではない」のが現実だろう。マーケットのコメンテーター(筆者も含まれるのかも知れない)の言に右往左往せずに、上昇相場について行きつつ、保有するリスク・ポジションが過大にならないように時々「少し」調整する(売却する)要領がいいと思う。相場的にはバブルは「尻尾が大きい」ので、すべて売却して早降りすることはお勧めできない。
■東芝は解体進行中、社員は早く転職の準備を
さて、国内に目を転じると、働き方や人生計画を考えさせるような出来事が幾つか起こっている。
財界的には、何と言っても東芝の惨状だが、意図的不正に加えて追加的損失リスクもまだ残っている。医療機器、半導体部門など、競争力のある部分から切り売りして、底が抜けた原発ビジネスを死守する姿は、少なくともビジネス的には正常な判断だとは思えない。そこが「名門」の力なのか(皮肉だよ! )、なぜ上場廃止でないのかが不思議だが、実質的に解体プロセスが進行中であるように見える。
どこかで踏みとどまることができるかも知れないが、社員が幸せに働けそうなイメージは全く湧かない。優秀な技術者をはじめとして、それなりの人材価値をお持ちの方が多いはずだが(今度は皮肉でなくて、本音だ)、一刻も早く転職の準備に掛かる方がいいと思う。
特に人材市場の需給関係を考えると、ここから先の「会社の姿を見届ける」などという無駄なこだわりを持たない方がいい。社員は、会社にはもう十分すぎるくらい裏切られているのだから、ご自分の職業人としてのプライドと、個人(家族を含む)の幸せを大切にして欲しい。
一方、今後の世の中に案外大きく影響するかも知れないのが、文科省の組織的天下り問題だ。首相官邸は、この問題を徹底的に調査するとしており、官僚OBの天下りが今後しばらく、今よりも難しくなることは、方向として間違いあるまい。筆者は、天下り規制を徹底的に行ってよいと思うが、「将来の人生まで面倒を見て貰える」ことが求心力の大きな源泉になっていた官庁の、組織の結束(今までが過剰だった)が「緩む」可能性が出て来た。
今後、官庁の力がやや削がれるのと共に官僚の人材流動化(早い時点に自力で民間に転出するなど)が進む可能性があるのではないか。総論としては「いいこと」だ。それにしても、文科省筋から違法なあっせんを受けて人材を受け入れ、さらに口裏合わせにまで協力していた早稲田大学で、鎌田薫学長が未だに辞任しない責任感覚には驚くしかない。各種の報道などを見ると、この方は法学者らしいのだが、本当なのだろうか。
■「働き方」や「稼ぎ方」をもう一度見直せ
さて、東芝のような企業に勤めるにせよ、官庁勤めにせよ、一つの組織に人生を委ねることがますます難しくなっている。ベストセラーとなっている「LIFE SHIFT」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット。池村千秋訳。東洋経済新報社)が述べるごとく、長寿化がますます進行しつつあるので、われわれの多くは働き方と人生計画を見直すべき状況にある。 同書が述べるように、計画的に自己教育を人生に組み込んだり、仕事を複線化したりすることが、必要でもあり、有効でもあると思うが、これらは急には進められない。
組織で働く多くの人が今心掛けるべきは、組織の「外」の人との「人間関係のポートフォリオ」を作ることだろう。自分が新しい分野の学習をしていく上でも、新しい職場を確保する上でも、また、独立などの場合に必須の潜在顧客を持つ上でも、会社や官庁の肩書きに頼らない人的なつながりの集積が必要であり、有効だ。組織の「外」に持つ人材のポートフォリオは、育てるにも時間が掛かるし、メンテナンスも必要だが、時間と努力を投資する価値のある対象だ。
多くの勤労者にとって、経済的にも精神的にも、「資産運用」よりも「働き方、稼ぎ方」の方が重要な問題なので、「今、見直してみましょう」と是非申し上げたく思う。
今週末の「中山記念」(GⅡ)は、近年、古馬の春の中距離選手権としてGIとしてもいいのではないかと思っている競争だが、今年はGⅠ並みに豪華なメンバーが揃った。
レースの舞台である中山の芝1800mコースは、4つのコーナーがきつく、しかも直線に急坂を含む独特なコースだ。昨年の優勝馬ドゥラメンテのように圧倒的な力があれば問題ではないが、「速さ」や「強さ」よりも、「立ち回りの上手さ」が求められる。
■中山記念の本命は「アンビシャス」で
コースと距離の適性と力を考えると、昨年、ドゥラメンテにあわやというところまで迫ったアンビシャスが最有力だ。1800m前後は安定しているし、器用さと切れの両方を求められる中山1800mは特にいい。人生でも「立ち回りの上手さ」が大切だと付け加えたかった本稿の趣旨にも合う。要領よく差し切り勝ちして欲しい。
どの馬が差しきられるか。ゴール前を想像するに、ロゴタイプが勝ち切りそうな流れを、アンビシャスが差す映像が目に浮かんだ。
ロゴタイプの好走条件は、はっきりしている。後半3ハロン(600m)が、前半3ハロンよりも1秒以上緩くなる流れで距離が1600m~2000mだとしぶとく残って好走されても文句を言えない。このレースはあまり前半が速くならないのではないか。
彼の父ローエングリンは、実績的には「GⅡ大将」だったが、晩年にも、この中山記念を含めて時にやる気を出して好走した。「時に、やる気と実力を見せた」彼は、高齢組織人の働き方の手本と言っていいだろう。GⅠを勝てなくとも種牡馬になった。本社の社長になれずとも、幸せなサラリーマンのようだ。
実力的に本命でもおかしくない単穴がリアルスティールだが、もう少し距離があってタフなレースが向くイメージだ。押さえには、このコースで連勝中のツクバアズマオーと、実績からヌーヴォレコルトを指名したい。後者は、中山向きのハーツクライ産駒だが、6歳であり、そろそろ体質が競走馬よりもお母さんになる頃ではないか。とはいえ、力は無視できない。昨年の秋華賞馬ヴィブロスは、中山コース向きの差し脚ではないような気がする。
東芝危機が示す経営者の巨大企業化の病 --- 中村 仁
グローバル化が進みビジネスチャンスが拡大するとともに、経営が破たんした時の損失も恐ろしいほど巨大化しています。企業買収、経営統合の波に乗り遅れると、生き残れないという焦りを多くの経営者は持っているようですね。東芝の経営危機というか経営破たんは、その焦りが自滅を呼び寄せたとしかいいようがありません。
焦って企業統合、合併の道を決断したものの、破談になるケースも相当に増えています。企業の巨大化への反動ですね。何千億円もの買収資金を投入しても驚かなくなっています。そうしないと、経営者としての評価を得られないという風潮にあおられているのです。選択と集中、グローバル化、大型の経営統合とか、経営者の実力伴わないのに分不相応の企業行動は疑問です。逆に将来性ある部門を分社化で独立させ、活気を持たせる選択をすることのほうが望ましい場合も多いでしょう。
大型の経営統合、買収をした経営者を評価し、名経営者と持ち上げるべきではありません。金融機関も証券会社も監査法人もそのほうがもうかりますから、熱に浮かされたように、そういう選択を応援しています。監査法人も相当にいい加減なもので、会計、経理のプロだと信じ込んでいると、大失敗します。企業巨大化の妄想から離脱すべきです。
次々に登場する東芝の社長は粉飾決算に手を染めていたり、米国の原発メーカーの買収リスクに鈍感であったり、無能ぶりにあきれている人が多いでしょう。17万人いるという社員はいたたまれない気持ちだと思います。メディアの報道で始めて経営の真相を知らされ、仰天しています。一流企業と信じていただけに、ショックは大きいと思います。
私の知人の息子さんが東芝に勤めており、相次ぐ経営危機の報道に心配して、様子をお聞きすると、「うちは助かりました。医療機器部門におり、それが売却されたので、会社ごと異動しました」とのことでした。優良部門の東芝メディカルが昨年末、6600億円でキャノンに売却にされました。異動先もキャノンですから、まあ幸運でした。
次は稼ぎ頭の半導体部門の売却です。債務超過を逃れるには、1.5兆円の資産価値があり、全部か何分の1かを売るかの検討に入っています。原子力部門は米国からの撤退、国内事業の縮小ですか。医療機器、半導体、原子力という東芝を支えた主力が後退すれば、東芝はもう有名無実です。経営陣を信じ切っていた社員にどう詫びるのでしょうか。
西田社長当時ですか、長い歴史がある白熱電球の生産を停止(2010年)し、LEDに全面的に転換するとの大きな新聞広告が各紙に載りました。何十人もの従業員が工場現場で深々と頭を下げ、「ありがとうございました」と、お礼を述べるシーンは感動的な瞬間でした。新聞広告大賞(新聞協会主催)を受賞し、西田社長は「なかなかやる」と、評価を高めました。
今回の経営破たんの引き金になった米WH社の買収は失敗に終わろうとしています。この買収で東芝には「世界的な原発メーカーなる。西田社長はやるやる」が一般的な評価でした。実はそのころに粉飾決算に手を出し、後任の二人を含め、足を抜けなくなってしまいました。福島原発と東日本大震災の複合事故に襲われたとはいえ、「東芝新時代」は幻でしたね。
自分の経営者としての評価を高めようとして、経営能力を超える大型化、国際化に踏み込んだのです。原発事故が致命傷になったにせよ、巨大なリスクをしょい込むことになるという意識が希薄だったとしか思えません。
東芝危機の解明で不思議に思うのは、3社長による明らかな粉飾決算に、東京地検特捜部が立ち入ろうとしなかったことです。証券取引監視委員会は背任で告発しようとしたのに、検察は応じませんでした。不思議です。
それと、原発が今後、どうなるのかです。東芝は細々と続けるつもりでしょうか。廃炉を含め、直ちに原発事業を絶やすわけにはいきません。残る日立、三菱重工に集約していく路線を早く固めることです。
