市場の停滞を打ち破れる? カシオ新スマートウォッチの狙い
2017年1月5日に発表されたカシオの新しいスマートウォッチ「WSD-F20」。前モデルWSD-F10の「アウトドア」というコンセプトを継承しつつ、新たにGPS機能とオフライン地図に対応。さらに「PRO TREK(プロトレック)」の新シリーズ「PRO TREK Smart」に位置付けられたことも大きな特徴だ。
スマートウォッチ市場の成長が伸び悩むなか、新モデルはどのようにして開発されたのか。現在の市場に対する思いなどを踏まえつつ、その経緯をカシオ計算機 新規事業開発部の岡田佳代氏に聞いた。
●アウトドアシーンでの利便性に着目
スマートウォッチ市場の現状に「停滞感を感じる」という世間の声は少なくない。「市場に可能性はある」と信じている岡田氏は、その現状に強く危機感を抱いているそうだ。
しかし、ウェアラブルデバイス全体を見ると、健康に特化したフィットネスデバイス市場は成長している。そこで岡田氏は、「フィットネス以外でも、明確な用途が提案できれば普及するジャンルがあるのではないか」と考えた。それを「アウトドア」ジャンルで実現しようと開発されたのがWSD-F20だ。
以前の記事でお伝えした通り、WSD-F20はアウトドアに特化した前モデル「WSD-F10」の後継機種にあたる。WSD-F10の特徴であるアウトドア向けの機能性や堅牢ボディー、2層液晶ディスプレーなどを継承しつつ、新機能として低消費電力のGPS機能やオフライン利用が可能なカラー地図などが追加された。
さらに「PRO TREK Smart」として、カシオのアウトドアウォッチ「PRO TREK(プロトレック)」の新シリーズに組み込まれたのも注目ポイントとなる。
ちなみに、WSD-F20の開発がスタートしたのは2016年3月。WSD-F10の発売日が2016年3月25日だったことを踏まえると、新モデルの開発は前モデルの発売前にスタートしていたことが分かる。
岡田氏によれば、この流れについては、米国・ラスベガスで開催された2016年1月の家電展示会「CES」やその後のWSD-F10の評判が大きな追い風になったそうだ。しかし、WSD-F10のフィードバックがまったくない状態で新モデルの開発を進めるのは「なかなか難しかった」と苦笑する。
WSD-F20の進化を見ていくと、ハードウエア面での大きな進化といえるのがGPS機能の追加だ。
岡田氏によれば、GPS機能は「WSD-F10のときにも検討したことがあった」とのこと。とはいえ、WSD-F10の開発当時は「GPSチップの消費電力がかなり大きく、アウトドア利用ではスマホと連動した方が合理的と判断した」(岡田氏)という経緯がある。
しかし昨年、GPSチップの進化が起こり、消費電力が劇的に改善された。これによりGPSの内蔵が改めて検討され、晴れてWSD-F20で搭載することに決まったというわけだ。WSD-F10のGPS非搭載を残念に思うユーザーは少なからずいたこともあり、岡田氏としても「前向きに取り組んできた」と話す。
●iPhoneでも快適に使える
WSD-F10ユーザーからは「iPhoneにおける機能制限」にも意見が多く寄せられたそうだ。日本に限らず新しい物好きの人はiPhoneユーザーの比率が高いため、「WSD-F10は気になるけれど、iPhoneだから手が出しにくい」という声が多かったという。
iPhoneでの利用に制約が出てしまっていたのは、WSD-F10がOSにAndroid Wearを採用していたからに他ならない。そもそも、iPhoneではAndroid 用アプリをダウンロードできないため、必然的にWSD-F10にアプリが追加できなくなる。そのため、どうしても利用できない機能やアプリが出てしまったのだ。
しかし今回、WSD-F20では、2016年6月に発表された新OSのAndroid Wear 2.0を採用。Android Wear 2.0ではスマホを介することなくスマートウォッチ単体でアプリをダウンロードできるため、iPhoneユーザーであってもAndroid Wear用アプリがダウンロードできる。これにより、WSD-F20単体で利用できるアプリであれば、iPhoneユーザーでも、基本的には機能制限はない。
岡田氏によれば、iPhone への対応はWSD-F10の開発時からの大きな課題だったそうだ。しかし、OSが起因する問題だけに「なかば諦めていたところはあった」という。それが、スタンドアローンを目指したスマートウォッチOSの進化でほぼ解決につながったというのは興味深い。
GPS機能にしろiPhoneへの対応にしろ、絶妙なタイミングでの技術進化が、WSD-F20の開発をうまく後押ししたといえる。
デザイン面では、ベゼルやボタンガードの追加、ボタンのサイズ変更などが変化のポイントだ。WSD-F10と比較して、よりカシオらしい時計デザインに落とし込まれたと感じる。
デザイン的なリニューアルについては、やはりPRO TREKシリーズになったことが大きな要因のようだ。PRO TREKのブランドを冠することで、「よりアウトドアギアらしさを前面に打ち出した」と岡田氏は語る。
そもそも、PRO TREKの開発者とは「WSD-F10の開発当時からアドバイスをもらっていた」(岡田氏)。例えば、トレッキング用の地図アプリ「YAMAP」をWSD-F10に対応させたのも、登山に関するノウハウに長けたPRO TREKチームの助言がきっかけ。「登山愛好家の間では評判のアプリだから、YAMAPと何か相談してみてはどうか?」とのアドバイスを受け、採用に至ったそうだ。
そういった経緯を踏まえると、WSD-F20がPRO TREK SmartとしてPRO TREKシリーズに組み込まれたのは、ある意味、正統な進化といえるかもしれない。カシオとしても、PRO TREKシリーズにすることで「WSD-F20のアウトドアイメージを、より分かりやすくユーザーに伝えられる」(岡田氏)と考えている。
●腕で地図を見ることが当たり前に
GPS機能とともに今回追加されたオフライン地図も、WSD-F20の開発当初から対応を検討してきたという。なぜなら、地図はWSD-F10において非常に利便性の高い機能だったが、アウトドアでは「電波が通じない」「手元にスマホがない」などの理由で利用できないシーンがあったからだ。
岡田氏自身、オフライン地図の必要性を実際に山へ登った際に実感していた。そのような経験もあったからこそ、WSD-F20ではGPS機能とオフライン地図を連携させて「地図」の利便性をさらに高めている。この点については、岡田氏も「手ごたえを感じている」そうだ。
ちなみに岡田氏は、腕時計で時刻を見るように「腕で地図を見ることが、将来的には当たり前になるのではないか」と見込んでいる。近年はスマホで地図を確認することが当たり前になっていることに加えて、現在地の情報は「時刻と同じくらい普遍的に確認したいと思う情報なのではないか」(岡田氏)と考えるからだ。
確かに今は、地図を見ることが身近な行動になっている。そういった時代の流れを踏まえると、スマートウォッチにおける地図の利便性をさらに高めていくことは、カシオが市場をけん引する切り口になっていくのかもしれない。
