宮崎駿監督の引退撤回 「君の名は」「この世界」に触発か
映画業界に限らず、世間の大多数が「やっぱり」と感じたはずだ。アニメ界の巨匠、宮崎駿監督(76)の引退撤回が報じられた件。スタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサー(68)が23日(日本時間24日)、米ロサンゼルスで開かれたイベントで、「(宮崎監督は)今も一生懸命、作っています」と新作長編の製作を明言。絵コンテが「すごく面白かった」と太鼓判まで押すもんだから、大騒ぎである。
思い起こせば、2013年9月の引退会見で宮崎監督は「今回は本気です」と断言していた。それがなぜ3年半余りで心変わりしたのか。ロスでのイベントで鈴木Pは、「ジブリで自分以外の人が作品を作るのが嫌だったんでしょうね」とおもんぱかっていたが、まあ、無理はない。興行収入120億円超を叩き出し、引退の花道を飾った「風立ちぬ」(13年)に対し、直後に公開された「かぐや姫の物語」(高畑勲監督)は興収24億円。昨年9月公開の「レッドタートル ある島の物語」(マイケル・デュドク・ドゥ・ビット監督)に至っては、今回のアカデミー賞に候補入りしたものの、「興行収入は最終的に1億円に届かなかった」(映画興行関係者)と大惨敗を喫している。
昨年11月に放送されたNHKのドキュメンタリーは2年がかりで宮崎監督に密着し、長編新作の製作計画を示唆していた。監督が製作費の工面を促がすシーンも流れたが、「これまで日本テレビ、電通、ディズニーなどが製作に名を連ねてきたことからも分かるように『宮崎駿作品』でカネが集まらないわけがない。そういった他社とジブリのパイプ役を担ってきた日テレの映画部門のトップが今年1月から松竹へ出向するなど多少なりとも状況の変化はあるものの、逆に新たな出会いや参画企業を生むともいわれている。引退宣言の後、ジブリは製作部門を“リストラ”したが、御大が動けばカネもスタッフも集まる。あらゆる準備が整ったのでしょう」(前出の映画興行関係者)。
くしくも昨16年はアニメの当たり年となった。「君の名は。」と「この世界の片隅に」が最たるもの。映画ジャーナリストの大高宏雄氏はこう言う。
「2作品の善戦は、宮崎監督の始動の引き金のひとつになったと思います。かたや前例のないムーブメントを起こし、かたや戦争を背景に庶民を描く作品。アニメ映画のパイオニアが触発されないわけがない」
ジブリはここ10年以上、邦画の歴代興収ランキングのトップ3を独占してきた。
しかし、気が付けば、「君の名は。」は「千と千尋の神隠し」に次ぐ2位。オタク映画の大躍進が、巨匠の背中を押したというわけだ。
CGと苦闘し決意か 宮崎駿監督“引退撤回”宣言に込めた反骨
アニメ界の巨匠が引退撤回か。13日に放送されたNHK「終わらない人 宮崎駿」で、スタジオジブリの宮崎駿監督(75)が、長編新作を計画していることを明かし、話題になっている。3年後の19年に完成予定とされ、詳しい中身は明かされなかった。
宮崎監督は鈴木敏夫プロデューサーに対し「この映画を作れるだけの金をかき集めてください」と話すなど、かなり現実的な話も飛び出した。宮崎監督は「風立ちぬ」が公開された13年に突如、引退を宣言。その後は第一線から退いている。番組では約2年間にわたって宮崎監督に密着。CGに挑戦したり、若きクリエーターたちと交流する姿を紹介した。映画批評家の前田有一氏が言う。
「元気でエネルギッシュな姿でした。まだまだ制作意欲は衰えていない。何かを創りたくてウズウズしている様子が伝わってきました。ただ、CGには悪戦苦闘していて、“水と油”のようだった。こんなもの(CG)に負けてたまるか――という気持ちになったのかもしれません。次作は死ぬ覚悟で創るつもりでしょう。これが本当に最後の最後の作品となる。宮崎ファンにとっては楽しみです」
■NHK特番で感情むき出し
番組では、あるシーンも話題になっている。KADOKAWA・DWANGOの川上量生会長が、人工知能による画像処理をプレゼンしたのだが、これに宮崎監督が激怒。クネクネと人間が這うように歩く姿に「(私には)身体障害の友人がいる。彼のことを思い出して、面白いと思って見ることができない。これを作る人たちは痛みとか何も考えないでやっているでしょう。極めて不愉快ですよね」と感情をむき出しにした。
「小さな主人公にいかに“命”を吹き込むかを懸命に描いてきた宮崎さんにとって、『命をもてあそぶのか』という気持ちになったのでしょう。ドワンゴの会長でどんなに偉かろうが、全く気にしないで一喝する。あの怒りのパワーや反骨精神が、衰えないバイタリティーにつながっているのだと思います」(前出の前田氏)
宮崎監督が命を懸けて挑む新作に、早くも期待は高まっている。
