齋藤孝教授が教える「すごい会話力」の身につけ方 「会話検定」があったら、あなたは何級?
不思議なことだが、人類の大古典である論語も、ブッダの言葉も、ソクラテスが登場するプラトンの対話篇も、聖書の言葉も、すべて会話の記録だ。文字で書いた文章よりも周囲の人とのライブな会話が人類の大古典になっているのは、会話力の根源的なパワーを示しているように思う。
こうした偉人たちの会話力はまさに、「すごい『会話力』」と言える。歎異抄も会話の中での言葉だからこそ生き生きとしている。具体的な状況の中で特定の相手と行った会話にこそ、普遍的な真理が宿る。これは会話力の奥深さを示している。
今の時代、人間関係を作るのも仕事をするのも全て会話力が基本になっている。心理学者のアドラーは、人生の課題を次の3つとした。交友の課題、仕事の課題、愛の課題だ。
友人関係を良好に築き、仕事を通して社会とかかわり貢献し、愛し合う相手を見つけ愛のある生活を営む。この3つの課題をこなすことができれば、人は充実した人生を送ることができるとする。
この3つの課題を乗り越えていくのに大切なのは会話力だ。会話力があれば友達と上手くやることができる。会話力があれば営業も社内の人間関係もスムーズにいく。愛の課題に関しても、出会いから関係の継続まで会話力が重要なカギを握る。
こうしたことは当たり前と思われがちだが、その割に会話力を本格的に鍛える機会は意外に用意されていない。野球が本格的に上手くなりたければ野球部に入る。音楽の演奏でも吹奏楽部や軽音楽部に入り練習するのが普通だ。そうしてみると、会話力を鍛える「会話部」というのがあってもいいのではないか。
もし会話部があったら、どういう練習メニューを用意すればいいのか。どういう意識でなにを課題として鍛えていけばいいのか。それを具体的に考えたのが『すごい「会話力」』(講談社現代新書)という新著だ。
「すごい「会話力」」とは実にいろいろな内容を含んでいる。
まず雑談力。人間関係を作るには雑談が不可欠である。なんとなく話をしているだけのようでも人との距離を縮め、場を暖めることのできる人がいる。友人同士で雑談ができるのは当たり前のことだ。そうではなくて、誰とでも雑談を通してちょっとした知り合いのような関係に入ることのできる力、それが雑談力である。雑談力はあらゆる人間関係の基本であるが、なかなか本格的に練習をする機会は少ない。
なんとなく身に付けるという程度の認識が普通である。しかし、どこでも誰とでも雑談の花を咲かせ人間関係を作れるようになるには、ある程度意識的なトレーニングが必要となる。
例えば質問力を磨くこと。質問力があれば誰とでも会話を続けることができるようになる。相手の好きなことについて上手く聞き続けることができれば、どこまでも会話は続けられる。自分のネタを開陳するだけでは限界がある。聞き上手になれば、どうということはない会話でも人間関係を深めることができる。質問力は雑談力の軸であり会話力の柱でもある。
その瞬間に一体なにを質問すればいいのかを全センサーを働かせながら考え続ける。そうした思考習慣を持っている人は質問力が磨かれてくる。逆に不用意に質問をしてしまう人は、ときにパワハラやセクハラにあたる質問をしてしまう危険性もある。
これを避けるにはどうしたらいいか。
それは会話の最中に質問を2つ以上、できれば3つ用意しながら会話を進める習慣を持つことだ。2つ3つのうちから一番いいと思われる質問をし続ければ、失敗は少なくなる。雑談程度のことでも、質問に失敗すれば雰囲気が悪くなってしまう。
雑談力のなかで大切なこととして、コメント力もある。人の家に入ればそこで目に入るものがある。絵がかけられていたり、猫や犬がいることもあるだろう。そうしたときサッとコメントできれば、話が広がる。自分も犬を飼っていた経験があれば、それを話して犬好き同士として会話が盛り上がる。
もし会話力検定というのがあるとしたら、例えばこんな問題が考えられる。
ある家の玄関が映し出され、相手方の人が奥から出てくる。そして挨拶を交わした後にどんな質問やコメントができるのかをテストする。天気の話をするだけでは高得点にはならない。状況の中にヒントを見つけ、質問やコメントで話題を広げていく。一度上手く会話が流れ出せば、自然と会話を広げられるようになる。
相手のおかれている状況や経験知を推測し瞬時に質問やコメントを考える力は実に実践的である。意識的にトレーニングすればみるみる上手くなっていく。
雑談力は会話力のベースであるが、その上に的確な意味のやり取りができる力がある。いわゆる伝言ゲームが得意な人は意味を取り落とさずに次の人に伝えることができる。仕事上のミスは伝言ゲームの失敗によることも多い。伝言ゲームは小学校でゲームとして何度かやったことがある人が多いだろうが、本来は大人が日常的に練習していいトレーニングメニューだ。
例えば私は新聞記事を題材にして伝言ゲームをやってもらうことがある。するとその記事の肝心な情報が抜けてしまうグループが出てくる。とりわけ、数字が入った記事だと伝言力の差がはっきりとする。伝言力を鍛えるにはコツがある。聞きながら復唱をしていくやり方だ。自分の口でアウトプットしてみると記憶に定着しやすい。
とりわけ数字は聞いただけではなかなか頭に入りにくい。聞いた瞬間にそれをつぶやく。すると、それを次の人に伝えようとするときに漏れが少なくなる。聞いたそばからつぶやくように復唱してみる。
この復唱習慣をつけるだけで、ずいぶんと記憶力も向上する。
伝言力とともに大切なのは要約力だ。長い話を聞いていると、一体なにがポイントだったのかわからなくなることも多い。
キーワードを軸に要約することができれば、長い話も把握できるようになる。要約力を鍛えるには本を読むのが有効なトレーニングとなる。本はそもそもが大量の活字で構成されている。話し言葉ではふわっと流れてしまう言葉が活字としてしっかり定着している。
活字を見ながらキーワードを選択し本の内容を頭の中で要約しながら読み進める。これが私たちが本を読みながら行っている作業である。本を読んでいるときにすでに要約力を働かせながら読んでいるのだ。話をしているときに活字が頭の中になんとなく思い浮かべられる人は要約力がある。
ダラダラと話が脈絡なく続くのを防ぐのは頭の中の活字力だ。本を読み、活字力を鍛えていると、やがてコンパクトに話せるようになる。意味の含有率の高い話し方ができるようになる人は、たいてい読書量が多い。活字力の高い人は「書くように話す」ことができるのである。
これは仮に話した言葉を録音し、それをテープ起こししてみたと考えると分かりやすい。活字力が高ければ文字起こしされた言葉がきちんと書き言葉として文章になっているはずだ。3分ほど自分の話を録音してみることをお勧めする。それを聞きなおしてみてきちんと文章になっていれば、活字力が高いと言える。
こうしたトレーニングを私は20代、30代と続けて来たが、一般的にはこのようなトレーニングはされていないと思う。これをトレーニングしてみると、意味のやり取りをする力が格段に上がることになり、納得していただけるだろう。
雑談力、意味のやり取り、に続いて大事なのはアイディアが生まれるクリエイティブな会話力である。この三層構造が上手くできていれば、現代社会に必要な会話力は十分あると言える。
新しい意味が生まれる会話をクリエイティブな会話と呼ぶことにしたい。話しているうちに、新しい気づきが生まれれば、それはクリエイティブだ。アイディアが生まれる瞬間は実に祝祭的である。日常の会話をしていても、ふとした思いつきが生まれることがある。ただ普通はそれがさほど祝われることなく通り過ぎてしまうものだ。
クリエイティブな会話力を高めるには、まず日常の会話で何かしら新しい意味が生まれた瞬間を逃さずにとらえ、そこで拍手をして祝う習慣をつけることだ。
例えば誰かがちょっとした面白いことを言ったとする。それも新しい意味の誕生だ。その瞬間に笑いながら拍手をする。相手をほめたたえる意味もあるが、基本は新しい意味の誕生を祝うということだ。
会議でも何かしら良い意見が出たりアイディアが出たときは拍手をする。日本の会議はあまりに拍手が少ないと私は感じている。ちょっとしたことでも惜しみなく拍手をする習慣を持てば、もっと会議は明るくなる。一見くだらなそうなアイディアでも、拍手をしてそれを皆で歓迎する。そうしたポジティブな空気があれば、安心して若手もアイディアを出すことができる。
若い人が会議で意見やアイディアを出さないのであれば、それは上司が重い空気を作っていると言える。まずは場を軽やかに自由な空気にすること。それがクリエイティブな会話力の基本になる。
こうした三層構造のすべてを貫いているのが、身体である。リアクションをするのも身体であり、相手と笑い合ったり拍手をするのも身体だ。身体がほぐれていて反応が良ければ会話は自然と盛り上がる。
開かれた心と身体をセッティングしておくことが「すごい「会話力」」の基盤になる。オープンマインド・オープンボディをいつも意識しておく。軽く体を揺さぶり息を入れ替えておけば、反応も良くなる。会話部の基本運動は身体をリラックスさせ、響きのいい身体にしておくことだ。
新著の『すごい「会話力」』ではこうした会話部でのトレーニングの実際を具体的な練習メニューとして提案した。グローバル化に必要以上におびえる理由はない。まずは会話部に入ったつもりでトレーニングをしてみてほしい。質問力一つを磨くだけでも、格段の進歩が感じられるはずだ。
「すごい「会話力」」への道は誰にでも開かれている。
