なぜ、上海ディズニーランドが開園100日で閑古鳥、ガラガラの理由

上海ディズニーランドが開園100日でガラガラの理由

今年6月に開園した上海ディズニーランドだが、なぜか盛り上がっていない。アジアで3番目となる上海ディズニーは敷地面積約400ヘクタールで米国外では最大、開園前には内外メディアがこぞって報道したものの、なぜか地元市民の関心は薄い。国慶節の休日直前の9月30日、「混むから行くな」の周囲の反対を押し切り、筆者は現地取材に訪れた。

 その日、筆者は浦東国際空港からタクシーに乗り、上海ディズニーを目指した。浦東空港から30分程度の道のりだが、運転手は何度も道に迷う。上海ディズニーの周辺は田畑が広がる。たまにさびれた工業園区があるだけで、道を尋ねる人すら歩いていない。

 運転手はイライラしながら、道に迷った言い訳をこう語った。

「だいたい上海ディズニーに行く客なんていやしないんだ。客は過去に一度乗せたことあるだけだ」

 上海ディズニーを起点にした3時間圏内には3億3000人の市場があるといわれているが、上海ディズニーのおひざ元の浦東新区でタクシー業を営むこの運転手は見向きもしない。

「上海ディズニー? 俺は興味ないねえ。第一、入場料がこう高くちゃ行けないよ。行ったところで大混雑は目に見えているだろうしね」

国慶節だというのに予想に反しガラガラ

 筆者が訪れたのは9月30日。10月1日の国慶節の前後は混雑も最高潮に達するかと思いきや、意外にも現場はガラガラだった。東京ディズニーランド訪問には「混雑予想カレンダー」の確認が常識だというのに、上海ディズニーのエントランスは人影すらまばらだ。

 アトラクションは最高でも75分待ち。中には「待ち時間ゼロ」で乗れるものもある。レストランは長蛇の列を覚悟するが、いつ行ってもすぐに座れ、土産物店のレジではすぐに支払いを済ませることができる。従業員はむしろ手持ち無沙汰だ。

 入場料は大人一人あたり370元(1元=約15円、5550円)で、ピーク時は499元(約7485円)に跳ね上がる。園内での飲食や土産物も、地元の庶民からすれば常軌を逸した金額だ。「コーラ一杯20元」はコンビニ価格の5倍、「一食分のファストフード80元」もKFCセット価格の5倍の料金にも等しい。中国のネット上には「月収3000元(約4万5000円)の工場労働者が家族で行けば、半月分の給料が一瞬で吹っ飛ぶ」と不満の声が上がる。

 上海ディズニーへの来園を遠ざけるのは、消費金額の高さだけではない。「人ごみで身動きが取れない」「列に並ぶだけで終わる」「大混乱で無秩序状態」――そんなネガティブイメージがスマートフォンの通信アプリを介して飛び交い、多くの中国人から期待感を奪ってしまったようだ。

日本とは異なる余暇の「過ごし方」

「最新技術、最大規模」を連呼しても誘客は難しいようだ。上海ディズニーについては現地でもほとんど話題にならないどころか、「そもそも土地転がしだろう?」「中国人がここで大枚をはたくと思っているのか?」など否定的な意見も少なくない。「消費力がついた中国人とはいえ日用品以外の消費に積極的になれない」という見方もあった。

 内需拡大が課題の中国だが、2015年、中国の第三次産業の成長値は34兆1567億元と前年比8.3%増で、GDPに占める割合は50.5%に達した(国家統計局)。中国では「衣食足りて」という時代に入り、近年はマイカー購入や旅行など、「食べる」「着る」以外の消費の伸びが顕著だ。

 こうした時代の局面で上海ディズニーを開園すれば、「人気殺到」も容易に想像がつく。現地メディアによれば、上海ディズニーは毎年2500万人の来場を見込み、最低でも240億元(約3600億円)の収入を見込んでいるという。しかし、目の前にあるのは「閑散とした風景」だ。

 日本ではどうだっただろうか。振り返れば、東京ディズニーが開園したのは1983年にさかのぼる。それ以前にも、高度経済成長期の東京や神奈川では、後楽園ゆうえんち(1955年)、よみうりランド(1964年)、こどもの国(1965年)、サマーランド(1967年)などの大型レジャー施設が続々と誕生していた。庶民がマイカーを持ち始めた1960~80年代にかけて、「家族そろって戸外へ外出」は週末のライフスタイルとして定着した。

 だが、中国(少なくとも上海)ではこうした楽しみ方は限定的だ。今でこそ、上海から離れた土地に大型テーマパークもちらほら開園しているようだが、そもそも上海では子どもを戸外で遊ばせる習慣がない。市内には公園の数も少なく、子どものための遊具設置も十分ではないことからも、こうした傾向は十分に読み取れる。

 その一方で、休日の過ごし方について、上海に住む50代の熟年男性は「家で麻雀かテレビだ」と語り、30・40代のお父さん世代は「スマホで買い物」だと語る。「外に出れば物価の高さとサービスの悪さで不愉快になるだけ」(上海在住・40代の公務員)と、外出に消極的な市民は少なくないのだ。もちろん、子どもも宿題の山で外出どころではない。

 中国では内需喚起が大きな課題となっているが、近年の家電や医薬品などの爆買いからもわかるように、彼らの消費の対象は依然、日用品が中心。ここ数年、海外旅行がブームとなる一方、「中国のテーマパークの8割は赤字」(新京報)と伝えるように、「国内型・体験型レジャー」にはなかなか関心が向かないようだ。

中間層は「高嶺の花」富裕層は「海外に行く」

 こうした上海人のライフスタイルからすると、上海ディズニーは“突如出現した特殊な異空間”である。

 今のところ、それは“子どものための贅沢な遊園地”だと捉えられているようだ。筆者が訪れた日も、来園者は小さな子ども連れが多かった。カップルや高校生を中心とした学生が比較的多い日本とはちょっと違う。

 まだ歴史の1ページが開かれたばかりの上海ディズニーでは、「楽しみ方」に戸惑う姿が目につく。乗り物に乗って写真を撮る行為も次第に飽きてくるのだ。東京ディズニーなら、自分の“一押しキャラクター”(最近なら「アナ雪」のアナやエルサ)に目をキラキラさせる“夢見る大人たち”が多数存在するが、上海ディズニーでは“疲れてベンチに寝込む大人たち”も少なくない。

 上海在住のある男性は、「“80后”はディズニーにあまりなじみがない」と言う。80年代生まれの世代、年齢的には20代後半~30代半ばの若いお父さんお母さんたちは、それぞれのディズニーキャラクターの存在は知っていても、物語の内容や登場人物の性格を知るまでには至らないようだ。そのためか、ミッキーやミニーとの撮影も、日本で見るような長蛇の列にはならない。

 東京ディズニーなら当たり前のようにある“ディズニーグッズの爆買い”も、取材当日はまったく見られなかった。グッズを手に取り「これ、かわいいっ!」と歓喜する声すら聞こえてこないのだ。ディズニーのキャラクターは、この中国社会で「根強い人気」だとはいえないのかもしれない。

「中国人にはハローキティのほうが人気。ピューロランドの方が歓迎されたかも」(現地を訪れていた20代の女性)、そんな率直な感想も漏れる。

 上海ディズニーに行くならLCC(格安航空会社)で東京に行ったほうがまし。待ち時間の3時間で到着する――。中間層のレジャーになるには高嶺の花、富裕層なら国内消費を避けて海外旅行を目指すなかで、上海ディズニーは“常に天秤にかけられる”という意外な命運を背負わされている。

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