米国人がメートル法を覚える? ポケモンGOの影響力…海外展開で工夫重ねた歴史も

【ビジネスの裏側】米国人がメートル法を覚える? ポケモンGOの影響力…海外展開で工夫重ねた歴史も

世界で爆発的人気を呼んでいるスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO(ゴー)」。20年間かけてポケットモンスターシリーズが築いてきた国際的人気に地図アプリなどの新技術が組み合わされ、ブームは国境を簡単に飛び越えてしまった。さらにゲーム内の距離表示をめぐっては、「マイル」が一般的な米国で「キロメートル」の認知度が高まるなど、思わぬ影響も。市場がほぼ国内にとどまっている日本のスマホ向けゲームが、世界に飛び出すきっかけになりそうだ。(牛島要平)

 メートル法を米国人に教えてあげた

 「5キロメートルって何マイルだ」

 ポケモンGOが7月6日に配信された米国では、プレーヤーの間にそんな言葉が飛び交ったという。

 米グーグルのインターネット検索で、特定のキーワードが検索された回数をグラフで参照できる「グーグル・トレンド」によると、米国での「2km to miles」の検索回数が7月は6月の約14倍に急上昇した。

 ポケモンGOでは2キロや5キロ歩くと卵からポケモンが生まれる「ポケモンのタマゴ」というアイテムがあり、「2キロ」や「5キロ」など必要な歩行距離が表示される。一方、米国では「マイル」「ヤード」の距離表示が広く使われ、ゲームの表示が対応していないために検索回数が急増したとみられる。

 ゲームを開発した米ナイアンティックは「世界で最も使われている単位系がキロメートル。(米国のプレーヤーから)特に大きな(要望などの)フィードバックはなく、現時点で変更は考えていない」と話す。

 こうした状況に、ネット上のツイッターなどでは、「世界でも珍しくマイル、ヤードに固執してきた米国人にポケモンGOがメートル法を教えている。歴史的快挙だ」などと驚きの声も上がっている。ポケモンGOが単にゲームとして人気を獲得するだけでなく、世界を変え始めた一例といっていいかもしれない。

 20年の蓄積が爆発的ヒットにつながる

 ポケモンGOは8月上旬の時点で世界70以上の国・地域で配信されている。米調査会社のアップアニーによると、アプリの累計ダウンロード数は配信開始約1カ月という異例の早さで1億回を突破した。

 ゲーム雑誌「ファミ通」を発行するカドカワの浜村弘一取締役は、ヒットの理由として「ゲームとしての斬新なシステム」と「ポケモンというコンテンツの魅力」の2つを挙げる。

 ポケモンGOは衛星利用測位システム(GPS)による位置情報を使い、現実の映像にキャラクターを重ね合わせる拡張現実(AR)を採用。これまでにない遊び方を提供したことが起爆剤になったことは間違いない。

 ナイアンティックは同様に位置情報を活用したスマホ向けゲーム「イングレス」を世界でヒットさせている。そうした技術的実績の上に、ポケモンが海外で勝ち取った認知度が「ポケモンGO」を怪物級のゲームに押し上げた。

 ポケモンは1996年に任天堂の携帯型ゲーム機「ゲームボーイ」向けに第1弾のソフトが発売され、シリーズは現在まで計25タイトルを数える。この20年間に積み重ねてきたのは、日本だけでなく海外の子供に遊んでもらえるための工夫だった。

 ポケモンのブランド事業を展開する株式会社ポケモン(東京)の石原恒和社長は産経新聞の取材に、「友人同士でポケモンを交換したり、対戦したりする遊びは日本だけでなく、世界中の子供たちが好きだった」と振り返る。そこで、ポケモンにどんな名前を付ければ海外の子供にも分かりやすくなるかを考えた。

 たとえば、「フシギダネ」は不思議な種が背中にあるから付けた名前だが、英語版では「Bulbasaur(つぼみを持った恐竜)」とし、日本人と同じイメージが生まれるようにした。石原社長は「ネーミングを一個一個のポケモンで丁寧にすることで、世界中で受け入れられやすくなった」と話す。

 これまで英語、フランス語、韓国語など計7つの言語に対応。今年11月に任天堂の携帯型「ニンテンドー3DS」向けに発売する新作ソフトでは、中国語版を新たに制作している。ポケモンGOが受け入れられる素地はこのようにして20年間、着々とつくられてきた。

 快進撃は始まったばかり

 ポケモンGOが世界中で遊ばれていることは、これまでほとんど国内市場で戦ってきたスマホ向けゲーム業界にも衝撃をもたらしている。

 ファミ通によると、2015年のゲームアプリ市場規模は、国内で前年比30%増の9283億円。ミクシィの「モンスターストライク」、ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」が、前年に続き市場を引っ張った。

 日本は北米に次ぐ規模のスマホ向けゲーム市場とされるが、国内の人気アプリが海外でも継続して市場を維持する事例は少なく、発展・進化が国内にとどまる「ガラパゴス化」がしばしば指摘される。

 ポケモンの石原社長はポケモンGOの配信を前に、「日本的なゲームの売られ方やルールにとらわれすぎると、海外での展開力を失う」と強調していた。言葉通り、海外でもやり方次第で十分通用することを証明し、他社が破れなかった殻を破ってみせた。

 カドカワの浜村取締役は「ポケモンGOがスマホ業界に空けた風穴は大きい」と指摘する。「まず、日本のキャラクターデザインが海外ではなじまないといわれていたが、必ずしもそうではなかった」

 浜村氏によると、影響はビジネスの仕組みにも及ぶ。多くの日本のスマホ向けゲームはゲーム内で使える「アイテム(道具)」がランダムで当たる「ガチャ」という手法で課金し、アイテムが当たるまで1人で多額を投じるプレーヤーも多いといわれる。

 一方、ポケモンGOは無料でプレーできるが、ポケモンを捕まえるためのボールなどのアイテムを入手できるコイン(120〜1万1800円)に課金する。売り上げは1日に1千万ドル(約10億円)以上を維持していると推計されている。

 「ガチャでなくても、(プレーヤー数を増やして)広く薄く課金でき、利益につながることを示した。ゲームの拠点を提供する日本マクドナルドとの企業間提携も新しい事業の進め方だ」と浜村氏。

 配信開始後わずか1カ月でさまざまな常識を打ち破ったポケモンGO。世界へ向けた快進撃はまだ止まっていない。

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