リオ五輪の不意を突くのは「孫子の兵法」ゆずり? 中国の尖閣腹いせ
地域覇権に野心をもつ軍事大国にとってリオデジャネイロ五輪は、ひそかにことを運ぶに、またとないチャンスと映るだろう。中国はリオ五輪の開会式当日の5日(日本時間)から、沖縄県の尖閣諸島周辺海域に、海警局の公船を送り込んできた。
中国軍の得意手は「孫子の兵法」にいう欺瞞(ぎまん)戦である。敵が強いときは戦いを避け、敵の備えのないところを攻め、敵の不意を突くことを最善と考えている。これを兵法とはいえ、一言でいえば武人にあるまじき卑怯(ひきょう)な戦術なのである。
最大で計15隻が領海外側の接続水域を航行し、断続的に領海に侵入した。2012年9月に日本政府が尖閣諸島を国有化して以降、接続水域を同時に航行した中国公船は最大12隻だから、それを上回る威嚇行動である。しかも、周辺には200〜300隻の中国漁船を従え、中には軍で訓練を受けた海上民兵が乗り組んだ漁船もあるようだ。
8月上旬はちょうど、習近平指導部が党長老と重要議題を協議する「北戴河会議」の開催時期にあたる。指導部は求心力を確保するため、このタイミングに軍、海警局を使って挑発を狙った可能性がある。リオ五輪に合わせれば、国際社会が振り向かないうちに、日本だけに揺さぶりをかけることができる。
こうした手法はいまに始まったことではない。世界の目が1964年10月の東京五輪に注がれていた最中に、彼らは中国初の核実験を強行した。共産圏のソ連では、フルシチョフ首相が解任されたのもこの時期であった。
習近平政権が尖閣諸島に何かを仕掛けてくるなら、このリオ五輪と北戴河会議に合わせるであろうことは容易に想像できた。
まして、漁船に大量動員をかけて政治利用するという発想は、全体主義国家にしかできないだろう。弱小国がとる捨て身の戦法で、大国が使う手ではない。
領有権を主張したいのなら国際司法裁判所や仲裁裁判所で正々堂々と論戦すればよさそうなものだが、負け戦はしない。この7月12日にハーグの仲裁裁判所が、南シナ海全域を勢力範囲とする中国の「九段線」を、「法的根拠なし」とクロ裁定を下したことで分かる。
国連安保理常任理事国という特別な地位を与えられた巨大国が、フィリピンという小国に敗訴したのだから、これほどの屈辱はない。堂々と戦えないから、裁定にも「ただの紙くずだ」と言い捨てるしかなかったのか。
とはいえ、南シナ海の「九段線」上空に、独自の防空識別圏を設定したり、フィリピンに近いスカボロー礁で人工島の造成を始めたりすれば、米中対立が先鋭化する。すでに、人工島造成の動きを見せた中国に、米国はひそかに警告のうえ、太平洋軍がA-10攻撃機をフィリピンの基地に移動させた。中国があわてて後退したのはいうまでもない。
動きがとれなくなった中国は、裁定受け入れを迫る日本への腹いせから、尖閣諸島周辺海域で威嚇行動に出たともいえる。
中国がなお強行策をとるなら、日本は9月に杭州開催のG20首脳会議のボイコットを各国に呼びかける手がある。参加するなら、G20会議の議題に取り上げ、尖閣問題を南シナ海問題と結びつけて国際化すべきであろう。
「孫子の兵法」?違う!ただの腹いせにしかならない。