「どうしようもなくなった」任天堂、ポケモンGO爆売れでも恩恵なし?新ゲームも酷評
「大人も子供も、おねーさんも。」というと、1994年に任天堂から発売されたロールプレイングゲーム「MOTHER2 ギーグの逆襲」のキャッチコピーであるが、今まさに任天堂のキャラクターが、世界中の幅広い世代から支持されていることを象徴する一大ムーブメントが起こっている。
その話題の中心にいるのは、ゲームにアニメと、今や世界的な人気を誇る「ポケットモンスター」、通称「ポケモン」だ。
今月6日、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの3カ国でスマートフォン(スマホ)用ゲーム「ポケモンGO」が先行配信された。ポケモンの世界観と、スマホを駆使して現実で未知のポケモンを探し求めに行くワクワク感が相まって、瞬く間に人気が爆発。配信開始からたった4日間でそのダウンロード数はアメリカだけで750万を超え、今後日本などを含め、世界中で配信されるようになれば、その数字がどこまでいくのか想像もつかないほどである。
この人気に影響を受け、任天堂の株価は4日連続で続伸、一時は配信前と比較して50%超もの上昇となり、時価総額では1兆5000億円以上も膨れ上がった。先週末には株価はゲーム配信前の倍以上となる3万円を突破し、今月末といわれている国内配信への期待で、さらに買いが続きそうだ。近年、据え置き型ゲーム機「Wii U」の失敗など、中心事業であるゲームコンテンツが伸び悩む任天堂にとって、干天の慈雨といえる出来事だったことだろう。
しかしそんな任天堂に水を差すようなことをいってしまうと、今回の「ポケモンGO」人気が任天堂に与える影響は限定的であるとの見方が多い。
なぜなら、今回このゲームを手がけたのは任天堂ではなく、Nianticという、アメリカで絶大な人気を誇るスマホゲーム「Ingress」を生み出した企業であり、利益は株式の持分などに応じた計上になるからだ。
つまり任天堂側は、「ポケモン」という作品を名義貸ししただけのことである。
スマホゲーム全盛とも呼べるこの時代、長らく任天堂がそこに参入してこなかったのは、先代社長である故・岩田聡氏の、遺志とも呪いとも呼べる理由からだった。
「構造的に射幸心を煽り、高額課金を誘発するガチャ課金型のビジネスは、仮に一時的に高い収益性が得られたとしても、お客様との関係が長続きするとは考えていないので、今後とも行うつもりはまったくない」と述べた岩田前社長は、確かに製作者側として昨今のゲーム業界に大きな憂いをもっていたのかもしれないが、その判断で任天堂はスマホ事業から大きく取り残されることになる。さらには迷走の末にその誓いすらも、今年4月に任天堂の子会社である株式会社ポケモンから配信されたスマホアプリ「ポケモンコマスター」によって破られることになる。
低迷続く任天堂の危機を打開するための苦肉の策として、満を持してのスマホ参入であったが、結局その「ポケモンコマスター」も「UI(操作性)が悪い」「内容がつまらない」と散々の言われようで、残念ながらヒットには至っていない。皮肉にも、今回社会現象にまでなっている同じポケモンを取り扱ったゲームにもかかわらず、だ。
また、続く「Miitomo」は、ダウンロード数が配信から1カ月もたたずに1000万を超え、市場からは好意的に迎えられたが、いざ蓋を開けてみると「何をやればいいのかわからない」と、数日でゲームをやめてしまったというユーザーの声が多く、ダウンロード数も現在ではまったくといっていいほど伸びておらず、配信直後にブームが去ってしまったといえよう。つまりいまだ任天堂のスマホ事業は暗中模索の状況であり、光陰矢のごとしのスマホ産業のなかで、これまでまったくノウハウを培ってこなかったハンデは非常に大きい。
しかしながら今回のことで証明されたように、任天堂の最強の武器は、自前コンテンツのキャラクター人気である。
今月11日、2020年の東京オリンピックまでに任天堂と提携して新エリアをオープンさせることを計画しているユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、新エリアは現在人気を博している「ハリーポッター」エリアを上回る投資となることを発表した。新エリアには「マリオ」をはじめとする、任天堂の人気キャラクターが多数登場する予定であり、子供も大人もどちらも楽しめるスポットとして大きな期待が寄せられている。
USJの投資戦略を担当する運営会社の森岡毅執行役員は「日本発のキャラクターを使うので、世界に誇れるものにしたい」と意気込みを示しており、今回のポケモン旋風も計画の大きな後押しとなることだろう。
ビデオゲームの黎明期から業界を牽引してきた任天堂は、子供から大人までの多くの人々を夢中にさせ、そのなかで世界中から愛される、魅力ある数々のキャラクターを生んできた。
岩田前社長の言葉は、任天堂のスマホ参入にこそ大幅な後れをとらせることになってしまったが、「お客様との関係を長続きさせる」という考えを今一度肝に銘じて、安易な戦略に走らず、愛される作品づくりを念頭に置いて成長を目指してもらいたいものである。