絶望から奇跡の完全復活!ソニー平井社長が激白、4年の覚悟の「構造改革」全真相

絶望から奇跡の完全復活…ソニー平井社長が激白、4年の覚悟の「構造改革」全真相

平井一夫氏がソニー社長に就任して4年が経った。2011年度に4567億円という過去最大の赤字を計上した直後、嵐の真っただ中に船出した平井ソニーは今、ようやく前進を始めた。

 ソニーは1997年度に過去最高益を計上して以降、業績低迷が続いていた。北米バブル景気の影響から一時はV字回復達成に見えたが、08年9月のリーマン・ショックを受けて再び暗転した。巨大企業ソニーが行き詰った背景には、売り上げ至上主義のビジネスモデルの限界があった。

 平井氏は就任した12年から14年までの「第一次中期経営計画」で構造改革に取り組み、1万人の人員削減、御殿山の旧本社ビルを含む資産売却、化学事業やPCこと業の売却など、痛みを伴う施策を次々と実行した。

 15年に発表した「第二次中期経営計画」では、「一律には規模を追わない収益重視の経営」を掲げ、売り上げ至上主義から脱却し、高収益体質の経営へと、大きく舵を切った。

 結果、15年度は不振続きだったエレクトロニクスが5期ぶりに黒字化を達成した。今期はコンスーマーエレクトロニクスの全事業において黒字化が見込まれる。17年度には、目標として掲げたROE(株主資本利益率)10%以上、営業利益5000億円以上の達成が視野に入る。

 平井氏は就任時、「ソニーを変える。ソニーは変わる」と訴えた。この4年間にソニーをどう変えたのか。また、ソニーはいかに変わったのか。ソニー復活の真相に迫る。

●「心が痛んだし、悩みました」

片山修氏(以下、片山) 社長就任5年目に入りました。今年6月の経営方針説明会では、構造改革を「やりきった」とおっしゃいましたね。

平井一夫氏(以下、平井) はい。構造改革は、12年から14年までの3年間をかけてやりきりました。ただ、私は構造改革だけをやるために社長になったわけではありません。昨年「第二次中期経営計画」がスタートし、「利益創出と成長への投資」のフェーズに入りました。徐々に成果が出始めているのは、嬉しいことですね。

片山 社長になって半年後の12年10月にお会いした際、「何をいわれても、やると決めたことは全力でやる」と話されました。「覚悟」を決めていたのだと思いますが、やはり構造改革すなわちリストラですので、推進に当たっては相当キツかったのではないですか。

平井 私の「決断」によってインパクトを受ける社員のみなさんや家族のことを考えると、心が痛んだし、悩みました。ただ、私自身より、それをお願いするマネジメントと実行する社員が大変だったと思います。

片山 当時、平井さんに対してマスコミは批判的でした。ご苦労されたはずですが、聞くところによると平井さんは「粘り強い」性格だそうですね。

平井 良い言い方をすると「粘り強い」んですけど、悪い言い方をすると「頑固」です。ただ、決めるまでは周囲から徹底的に話を聞く。聞いて一回決めたら、誰がなんといおうともやり遂げます。ただし、「これは間違ったな」と思ったらば、すぐ変えますけれどもね。

 たとえば、テレビは「何年間赤字を出すつもりですか」と言われましたが、「いい商品を、ちゃんとしたコストで出せば黒字化できる」と思っていたので続けました。黒字化したら、この頃は誰もテレビの話を聞いてくれなくなっちゃいましたけどね(笑)。

片山 そうそう、私もマスコミの端くれですが、マスコミはそういうものですよ。

平井 まあ、それでいいんですよ。

●エレキ復活

片山 15年度、エレクトロニクス事業が5期ぶりに黒字化しました。何兆円という規模のエレキのビジネスは、いったん赤字体質になると立て直すのは至難の業です。私は、立て直しはほとんど絶望的だと思っていました。その意味で、黒字化は奇跡に近いと思います。何より、エレキ復活はソニー復活の決定打です。いろんな手を打たれたと思いますが、もっとも有効だったのはなんですか。

平井 いちばんは、現場の社員とマネジメントが本当にがんばってくれたことです。それがなかったら実行できなかった。その前提のうえで、まず求心力を持つことに専念しました。

片山 平井さんは就任当時、「ソフトの人間」と言われましたね。ハード、つまり本業のエレキがわかるのかと。

平井 実際、私はソニー・ミュージックエンタテインメントで10年、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEI)でプレイステーションを15年以上やっていましたからね。エンジニアじゃないことは確かですが、ソニーの商品は好きで、子どもの頃からずっと使ってきましたし、語れば誰とも同等に話せるくらいの知識を持っていました。

 問題は、それをみんなが知らないことだった。要するに「この人で大丈夫なんだろうか?」と、社内外から思われていた。いまでも思われているかもしれないですが(笑)。

片山 いやいや、ソニーは本来ハードの会社ですので、最初にハンディを抱えていらっしゃったのはわかりますよね。

平井 だからまず、きちんと求心力をグリップすることに苦労しましたね。それをやらないと、右だ左だ、上だ下だと言っても、現場やマネジメントが「いやいや」って言うようでは全然ダメですから。

片山 求心力を得た後、エレキの黒字化は「一律に規模を追わない」と平井さんがはっきりとおっしゃったことが大きいと思うんですね。平井改革は「量」から「質」への転換、すなわち「収益重視」で一本筋が通っている。

平井 最初は「規模を追わない」といっても、「モデル数が減ると量販店のスペースを削られる」とか、販売会社(以下、販社)など営業サイドから拒む理由は多く出ました。じゃ、それで儲かるのかというと、儲からない。「それはダメでしょ」ということを浸透させていきました。

片山 それにしても、10年赤字続きだったテレビは、どうして黒字化できたんですか。4Kなど付加価値の高いものに特化したというのは、わかりやすい説明ではありますが。

平井 私がテレビ事業の責任者になった11年、事業全体をエンドトゥエンドで全部ばらして分析しました。見えてきたのは、販社のコストが高過ぎるなど、つらい現実です。そこにメスを入れなければならないという結論は、たぶん誰が見ても同じだったと思います。問題は、その結論に対してアクションを起こせるかどうかです。時間はかかりましたが、販社も含めてコストを一気に下げる作業をした。これが黒字化のいちばんの理由です。

 あとは、「規模を追わない」ことを浸透させた。地域によって、台数ベースのボーナスを変えるなど、細かいところをひとつずつ変えていきました。

 それから、インドでテレビのシェアを1位にしてくれた玉川勝(現グローバルセールス&マーケティングオフィサー)に、ヨーロッパにいってもらったあと、日本に帰ってきてもらいました。現在、高木一郎(現執行役EVP、ソニービジュアルプロダクツ社長、ソニービデオ&サウンドプロダクツ社長)の下でワールドワイドのマーケティングを見てもらっています。彼の徹底的な超現場主義の功績もありますね。

●感性価値

片山 「収益重視」を掲げて「量」より「質」を重視すれば、組織や人事などあらゆることが変わるのではないでしょうか。

 なかでも大きかったのは、投資の在り方の変化です。15年2月の「第二次中期経営計画」で、事業領域を3つに分け、投資の「選択と集中」を行いましたね。デバイス、ゲーム・ネットワークサービス、映画、音楽などの「成長牽引領域」、デジカメ、放送機器、オーディオ機器関連の「安定収益領域」、スマートフォンとテレビの「事業変動リスクコントロール領域」の3つに分類して事業領域ごとに資本投下に強弱をつけた。これはすごい、よく思い切って分けたと思いました。この発想はどこからきたんですか。

平井 私と、吉田憲一郎(最高財務責任者<CFO>)と、当時本社にいた十時裕樹(ソニーモバイルコミュニケーションズ社長/ソネット社長)など数人で議論しました。何しろ一律な「ワン・サイズ・フィッツ・オール(万能の解)」はないよね、と議論するなかで出てきたアイデアです。

片山 「事業変動リスクコントロール領域」の部隊が、反発する可能性だってあったわけでしょう。

平井 実際、高木あたりが、「いつまでも俺たちはこうじゃない、領域を変えてやる」くらいのことを言っていますよ。

片山 私はソニーを長く見てきましたが、現場に危機意識があるんだろうかという疑問をずっと持ってきました。とくにエレキは主流中の主流だから、危機意識を持ちにくかったのではないでしょうか。

平井 危機意識を持たせるためにしたことは、私が責任者として、VAIOのように「撤退するビジネス」、テレビのように「続けるビジネス」とメリハリをつけたことがひとつです。

それと、「感性価値」という表現を、この1~2年くらいで始めました。私たちのエレクトロニクスのビジネスは、スペックはいいんですが、価格で勝負したら負けるに決まっている。私たちの資産は、高いスペックのうえにデザインなど感性に訴える部分があることです。それを大事にしようと訴えてきて、浸透してきた気はします。

片山 具体的に「感性価値」というと。

平井 小さな例ですが、たとえばテレビにしても、私はケーブルが見えるのはダメなんですよ。だからケーブルが見えないデザインにした。

 それから、デジタルスチルカメラのハイエンド商品は、機能は進化してもいいけどデザインは変えるなといいました。高額商品のデザインをすぐに変えてしまうと、早く買ったお客様はガッカリする。デザインが同じなら、機能が変わってもお客様は安心する。

 つまり、価格じゃないところで、お客様に喜んでいただけるところはなんなのか。それを考えることが大事だと言ってきたんですね。

※次回後編へ続く

片山 ストレス解消法を教えてください。

平井 昔は自転車によく乗っていましたが、この頃あまり乗っていなくて、できるだけ毎日ランニングマシンでジョギングしています。なるべく時速8キロで1時間。海外出張でも滞在先のジムの営業時間はインプットしてもらいます。

 あとは、クルマが好きなので、高速道路をガー!みたいな。屋根が開かないクルマはクルマじゃないくらいに思っているので、オープンカーです。ソニー製品は好きですが、クルマも同じくらい好きですね。

片山 自分の性格を一言で表すとどうですか。

平井 明るい頑固オヤジですかね。頑固ですが、決めるまでは人の話を聞きます。異論を求める。

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